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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十三章 嵐の前
184/219

#183.ゲームの攻略対象の設定は凄いのです

 ビルガー公爵が代替わりをした重臣会議から十日程経ちました。


 予想されていたことですが、貴族達はまだ混乱の最中にあります。同盟交渉の真ん中にいたエリオット様が実質“更迭”されたわけですから当然ですが、事前承認のお陰もありエリアス様が公爵を継いだこと自体は概ね受け入れられているようですね。

 それから、表舞台から密かに去った四人の貴族は、誰も気に掛けていません。下位貴族は数が多いですからね。代替わりしたり病気になったりで中央から居なくなるのは日常的にあることなので、それを一々気に掛ける人はいません。だからクラウド様は四人をほぼ同時に退場させるなんて分かりやすいことをしたのですけど。

 ということで、ビルガー公爵の交代劇の裏での密通者達の退場劇は全く表沙汰になっていません。そもそも、あの国がセルドア国内で動いていたことを知っている方が殆んどいませんから、多少表に出たところで勘繰る人もいないのです。

 なんて言いつつ、間者はまだ泳がせたままです。レイノルド様が二重間者を拵えたので、向こうの動きがこちらに筒抜けですし、大きな動きがあるまではこのまま放置するようですね。


 王弟ジラルド殿下がセルドア側の責任者となって同盟交渉は順調に推移し始めましたし、停戦協定の期限ギリギリになると思いますが同盟は成立する見通しとなりました。

 ただ、エリアス様は魔法学院を卒業したばかりで公爵家と大臣を継ぐことになって大変そうですね。同盟成立まではエイドリアン様は頻繁に授業を抜け出し手伝う積もりのようですし、公爵家としての執務はエリオット様が当主だった頃から家令に丸投げだったお陰で手をつけていないようですが、如何せん経験不足です。だからと言ってあそこで交代していなかったら、ビルガー公爵家はもっと大変なことになっていたでしょうから、仕方がないことですけどね。

 五月中にはイリーナ様が出産するのですからそれを励みに頑張って欲しいです。


 話は変わりますが、もう三月中旬になります。魔法学院で三月と言えば院生会選挙の月です。十五日には選挙が公示されて、選挙戦が始まります。今年も王族と上位貴族が四人居るので去年と同じように札式投票が行われるわけですが、その前にこんなことを言い始めた人がいたのです。


「ボクも出なきゃいけないの?」

「ベニートだって王族として認められているのだから出るしかない。研究科や生産科を希望しているわけではないんだろう?」


 研究科と生産科は様々な面で扱いが違いますからね。王族も上位貴族令息もこの二つを希望していれば慣例的に院生会員には成りません。


「義務じゃないんでしょうクラウド兄様」

「義務ではないが、お前が出ないとなると今後継承権のない王族が出られなくなる可能性もある。王族に産まれたのだから諦めろ」

「出ても落選すれば――――」

「もし。もし落選などしたらセルドアスの品位を落としかねん。真面目に選挙活動をするしかないぞベニート」

「心配することはない。オルトラン様のように何もしなければ落選する可能性もあるが、普通に選挙戦をしていればそう簡単に不信任なんかにはならない」

「ベニートが中等学院で十位以内に入っていたことぐらい一年の貴族は知っている。それをある程度認知させられれば、過半数の不信任票が入るなどあり得ん。問題なく当選するだろう」


 腹違いの兄二人に逃げ道を塞がれているベニート様です。


「……ボクは院生会員なんか成りたくないのに」

「伯爵家の五男で家督なんて全く関係のない僕だって最初から立候補することが決まってたし、諦めるしかないですよベニート様。それに、僕は院生会員に成りたいなんて全く思ってなかったけど、当選したらしたで嬉しいモノですよ」


 ルンバート様までベニート様包囲網をひいていますね。


「……みんなボクを苛める」

「ベニート様が当選したら喜ぶ方が居ると思いますよ?」

「失礼します」


 ベニート様がいじけ、私が一応の慰めを言ったところで、院生会執務室の扉が開きました。院生会員も補助員も全員揃ったその部屋に入ってきたのは、


「来たかエイドリアン」

「……ベニート様も呼ばれたのですか?」

「院生会の立候補の届け出書だ。サインしろ」


 ベニート様に対してもそうでしたがエイドリアン様にも命令口調のクラウド様です。立候補は強制なのですね。


「あ、はい」

「ベニート様よりエイドリアン様の方が遥かに強敵ですねウィリアム様」

「カイザール様の方が厳しかったでしょう。やはり嫡子とそれ以外の違いは大きい」

「そう言えば、今年は嫡子が一人もいないんですね。一昨年は三人、クラウド様を含めれば四人もいたのに」


 王族と上位貴族の嫡子が四人も居たというのが凄いことですよね。しかも、ジークフリート様を国王派の長と考えれば、四人中三人が派閥の長の嫡子だったのですからトンでもないことです。


「今年は家を継ぐ可能性が皆無と言える四人です」


 実兄が公爵位を継いでしまったエイドリアン様と、王太子の腹違いの弟二人。そして、伯爵家五男のルンバート様。この四人ですからね。辛うじてウィリアム様が王弟になる可能性があるだけで、他の三人は閣僚入りしたり上級官職を得る可能性は殆んどないのです。一昨年と比べてしまうと見劣り感が否めません。


「来年ならディボス家のセフィーロ様居るんですけどね」

「ルセデイアの次男のライオ様も居る。どっちも侯爵家だし来年は大変だ」

「ジルフォスも居るぞ」

「ジルフォス?」


 やっぱり認知度が低いのですね。


「叔父上、ジラルド殿下の長男だ」

「じゃあ五人?」

「いえ、六人です。ルアン家のルイサルト様がいます」


 ルイサルト様は玲君、レイノルド様の弟です。


「確実に落選者が出るのか。何でこんなに沢山いんだよ」

「それは兄上が産まれて婚約者を勝ち取ろうと頑張った上位貴族が沢山居たからでしょう? 結果男ばかり産まれてしまったようですけど」

「私のそのクチでしょうねぇ」


 嘆くように言ったエイドリアン様です。エイドリアン様が女の子だったら疾うに正妃となっていたでしょうね。ああでも、シルヴィアンナ様より評価が高いということもないでしょうから、また違った形の争いが起こっていたかもしれませんね。積極外征派と堅実内政派ががっぷりよっつ。そんな争いになっていた可能性が高いでしょう。


「そう言うと最初からクラウド様が太子に成ると決まっていたみたいだけど、本当は違う。王は誰でも成れる」

「それは建前ですよカイザール様。歴史上、太子は正妃の息子の中から選ばれることが大半で、側妃やそれ以外の王族が選ばれることは極稀です。半分以上が正妃の長男ですよ」


 しかもレイテシア様は政略結婚ですからね。その長男が王位を継ぐのは必然的なのです。クラウド様が産まれた時点でそれを疑っている人は殆んどいなかったでしょう。まあ、上位貴族にとってはクラウド様でもウィリアム様でも同じなのですけどね。


「だったら典範にそう書いてしまった方が話が早い気がしますけど……そうもいきませんかね」

「ルギスタンを見れば解るだろう。誰もクランク様を太子に据えようとはしていなかったからああなったのだ。あの優柔不断なクランク様が太子と成っていたらルギスタンは内乱に近い状態に陥っただろう。今頃大陸中を巻き込んだ巨大な戦争が起きていたとしても不思議ではない。平時なら兎も角、有事を考えれば安易に世継ぎは選べない」

「確かにそうですが、ルダーツとハイテルダルは法で定められていますよね」

「ルダーツは合議を重視した体制を敷いているから王権が然程強くない。迅速さに欠けるという欠点はあるが、上層部が一枚岩に成っていれば愚王を頂いていても大きな問題にはならない。

 問題になるとしたらハイテルダルだ。というか、今ハイテルダルの中央は分裂している」


 え!? 言ってしまって良いのですかクラウド様。


「分裂? また何故です?」


 質問したのはウィリアム様です。王家でもあまり知られていない話だということで、院生会室の全員が耳を傾けました。いえ、それは元々ですね。


「曖昧な情報ではあるがな。デイラードとの同盟のことで皇王家の本家と分家の意見が真っ向から対立しているらしい。元々本家はゴラ寄り、分家はセルドア寄りだ。裏では派閥抗争も激化して派閥を越えた社交が激減しているそうだ」


 あ、そこまでしか言わないのですね。


「そうでなくとも“あの”皇王では不安だろうしなぁ」


 平民のコーネリアス様が“あの”と称する程、現ハイテルダル皇王は我が儘放題で有名なのです。いつぞやの夏至休暇で私とお兄様が王家の馬車に乗る切っ掛けを作った皇太子が、今のハイテルダル皇王、ベルトラーノ様ですからね。


「でも、ハイテルダルが内乱状態でゴラと連携出来ないとしたら、セルドアとルギスタンの同盟も必要ない気もしますね」

「こちらが決裂したら向こうもまた態度を変える。そう単純にはいかんだろう。何より、向こうは「魔砲」に対する危機感がある。態勢が決するまではどちらにも動く。というか、同盟を結ばない限り基本的に向こう側に居続けるだろうな」


 クラウド様は予測として話をしていますが、実際は「確約」を貰っているのです。それは一昨日、一人の男性が学院の受付を訪れて、こんな書き出しの手紙をクラウド様に渡すよう願ったことから始まりました。


 ――ルッペルの従士の使いからヴェストの魔騎士の末裔へ――





2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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