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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十二章 羽ばたく天使
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#166.二人の長と二人の令嬢

「初めましてというわけでもありませんが、改めてご挨拶申し上げます。わたくしクオルス・エリントン。公爵の位を賜っております。そしてこれが妻のサルテ、こっちが長女のシルヴィアンナです。今後とも宜しくお願い致しますクリスティアーナ様」

「宜しくお願い致します」


 ……物凄く観察されていますね私。特に奥方様に。


「クラウド殿下が準正妃、クリスティアーナ・デュナ・セルドアスと申します。エリントン公には今後とも良しなに計らって頂ければ光栄に存じます」

「しかし驚きました。クラウド様の侍女として何度も顔を合わせていた貴女が突然側妃として、しかも準正妃として向日葵の大階段を降りて来たのですから」


 国民に公布はまだされていませんが、クオルス様はシルヴィアンナ様から絶対聞いていた筈です。なのに何故こんな大袈裟に?


「殿下の戯れですわ。クラウド様は御披露目をするなら派手な方が良いと仰られ、このような手法と成りましたの。驚かせてしまって申し訳ありませんでしたわ」

「いえいえ。「年越しの夜会」も毎年のこと。齢三十七にも成りますと飽きもごさいます。久々に思い出に残る夜会となりましょう」

「この不肖の身がクオルス様程の方の記憶と成るならば、クラウド様の戯れも意義があったということですね」


 普段使わない令嬢言葉を連発している私に違和感があるのでしょう。杏奈さんの顔が引き釣っています。


「ええ、とても意義深い一夜です。ただ一つお訊きしたいのは、王太子殿下の隣に座している。これも戯れですかな?」


 直球の質問ですね。


「今日は故あってクラウド様の隣に座しておりますが、本来準正妃は此所に座す資格はありません。それはクオルス様もご承知の事と存じます」

「成る程。資格は無いのに、故はあると?」


 ……何故分かりきっていることをわざわざ訊くのでしょう? エリントン公の主旨が解りません。


「王家の主催する社交において、王族男性の同伴者として出席出来るのは正妻か婚約者です。この慣例が脈々と受け継がれている以上、準正妃がこの椅子に座する資格はありません。ただ、慣例は慣例だということです」

「ホウホウ。脈々と続く慣例を破るだけの理由があると?」


 もしかして、「クラウド様は私を正妃にしたがっている」と言質を取りたいだけですか? だったら本人に聞いた方が早いと思いますよ? もう隠す理由がありませんし。


「どうでしょうか? 慣例を破るだけの理由かどうかは分かりません。私が此所に座っているのは私の意思ではありませんから」

「詰まり貴女はその椅子を望んでいるわけではないと?」

「はい。ただ、私は私の意思でクラウド・デュマ・セルドアス様のお傍に居ることを決めました」

「ほう」


 シルヴィアンナ様と同じ色のクオルス様のアイスブルーの瞳がキラリと輝きました。……これが聞きたかったのですか?


「いやいや、失礼致した。クリスティアーナ様。今後、エリントンは家を上げて貴女を王太子妃へと推させて頂きます」


 え? 家を上げて?


「クオルス様それは……」

「勘違いなさんで下さい。私は娘を第一に考える一人の父親です」


 あ! 杏奈さんもご両親に恵まれたのですね。


「微力ながら、私もシルヴィアンナ様とレイノルド様の仲を応援しております。お二人が幸せに成ることを願って止みません」

「……私は別にレイノルドじゃなくても……」


 え? 何て仰ったのですか?


「クリスティアーナ様。貴女が殿下の願いに応えられる日を心待ちにしております」

「シルヴィアンナ様に幸多き未来が訪れる事をお祈りしています」

「ではまた。失礼致します」

「ご機嫌ようクオルス様。サルテ様もシルヴィアンナ様もまた会える日を楽しみにしていますわ」

「失礼致します」


 クオルス様とサルテ様が私の座る“王太子妃”の椅子の前から去ると、杏奈さんが近寄って来て私の耳元で囁きました。


「お父様はもう派閥に根回しで動いてるわ。内政派が正妃争いから降りるのも遠くない」

「ありがとうございます。杏奈さんも頑張って下さい。というか、お母様は大丈夫ですか?」

「大丈夫。私が何も言わなかったから拗ねてるだけよ」


 それは杏奈さんが悪いと思います。


「それよりこれから大変よ藍菜」

「分かってます」

「クラウド様は貴女が望んでいないって分かっているわけ?」


 いいえ杏奈さん。私は確かに正妃を望んではいませんが、


「結婚前どころか、友達付き合いの時から私とクラウド様とそんな話をしていましたから、私が正妃より側妃を嫌がっている事を知っていますよ」

「え? 側妃の方が嫌なの? 藍菜は嫉妬とかしないでしょう?」


 まあ、羨ましいとは思っても、妬ましいとは思いませんね。


「確かに嫉妬はあまりしないですが、側妃は凄く中途半端な立場ですから」

「……まあ良いわ。取り敢えず頑張りなさい。応援してるから」

「ありがとうございます」

「じゃあ行くわ。またね藍菜」

「はい」






 エリントン公爵家が真っ先に私に挨拶に来たのに対して、この方々が来たのは「年越しの夜会」が終わりに近付く初日の出が迫った時刻でした。


「エリオット・ビルガー。公爵だ。これが長男のエリアス。その婚約者のヴァネッサ殿。それから次男のエイドリアンだ」


 ……挨拶に来た割に随分と偉そうですね。


「それから、妻は最近床に伏せていて今日は連れて来ていない」


 わざわざ言い訳して回っているのですか? 奥様と別居中なのは貴族中で有名な話なのに……言い訳しないで黙っている方が話が早いと思いますよ?

 因みに別居の理由はマリア様の扱いだそうです。エリオット様は追い掛けない、奥様は追い掛けるで、真っ向から意見が対立して別居に至ったそうです。ただエリアス様(イリーナ様)曰く、「母上はマリアの裏の顔を知らない」だそうで、マリア様は奥様に取り入るのは上手く行っていたようですね。

 どうでも良いですがエリアス様。マリア様に裏の顔なんて有ったのですか? 全て表に出ていた気がするのですけど……。


「クラウド殿下が準正妃、クリスティアーナ・ボ、デュナ・セルドアスと申します。ご挨拶頂きありがとうございます」


 初めて名乗ってから数時間で幾度となく名乗っていますが、自分が王族だと名乗るのは毎回違和感が有りますね。


「貴女にその席に座る資格はありませんことよ。貴族として誇りがあるならば今すぐそこを退きなさい」

「ヴァネッサ!」


 ヴァネッサ様……直球ですね。


 制止しようとしたエリアス様に視線を向けて小さく左右に首を振った私は、ヴァネッサ様に向かって話始めました。


「準正妃には確かにここに座る資格はありません。しかし、貴族としての誇りとこの椅子は無関係です。この椅子に座る資格があるのは陛下や殿下に認められた人間ですから」


 何しろ平民だって正妃に成れるのですから、貴族の誇りと正妃の座は無関係です。まあ、ヴァネッサ様の言う貴族の誇りというのがどういうものなのか私は良く知りませんけど。


「王の間違いを糺すのは臣下である貴族の勤め。こんな当然のことすら解していない貴女を選んだ陛下や殿下の資質が問われるのですわ。それが解っているのかしら?」

「正妃に必要な資質は時代と共に移り変わって来ました。今求められるのが何かかは分かりませんが、クラウド殿下が私をここに座らせたのは、それを持っているからだと私は考えます」


 王家にしてみれば派閥争いに関係ない私の方がリシュタリカ様より都合が良いのです。そして、ヴァネッサ様に正妃の資質があるかと訊かれれば……正直それはありません。こんな風に喧嘩を吹っ掛けてしまう方ですから。


「争乱の種になっても構わないと言うの?」


 ……正妃争いは元々していたではないですか。拗れたらその積もりだったということですか?


「いつの時代にも少なからず種は存在します。それが葉となり花となるのは、そこに水を与える方が居たからに他なりません。そして私は種にはなっても、水を与えることは出来ません」


 与えるとしたらあなた方です。外征派はシルヴィアンナ様が嫌だっただけだと思いますが……まさか本気で派閥を上げて反対したりしませんよね?


「貴族の誰も貴女など認める筈がないわ。貴女にその気が無くとも貴族達は水を注ぎ花を育てる。だからその椅子から降りろと言っているのよ」


 ……それは見当違いも良いところですヴァネッサ様。今日ここに来た殆どの方は私に“挨拶”しに来ただけです。賛成とは言えなくても、反対している気配をハッキリ出して来たのは貴女が初めてですよ?


「殿下は私が此処に居ることを望んでいます。ならば私は此処に居ます。貴族の方が納得出来るかは兎も角として、民は誰もそれは望んではいないでしょう」

「民などどうでも良いわ。国傾けたいの? 戦を起こしたいのかしら貴女は?」

「納得出来ないのなら戦を起こすのが貴族だと仰るのですかヴァネッサ様。貴女の仰る貴族の誇りがどういうモノかは存じませんが、衿持の為に民を巻き込む争いを起こすというのなら、そんなモノは今すぐ捨て去りなさい」

「なっ」

「私は準正妃です。側妃とは言え王族です。セルドアスの姓を名乗る者の一人として、セルドアスが千五百年守って来たモノを蔑ろにする貴族を放って置くわけには行きません。女性とは言え、「民などどうでも良い」と言う上位貴族に何もしないわけにはいきません。

 ヴァネッサ様。貴女は貴族の誇りと仰いました。その誇りは、貴女が高貴であるからあるべきモノではありません。貴女が高貴なる者の義務を果たしているからあるべきモノです。その認識を改めない限り、私は貴女を貴族として認めることは出来ません」


 まあ、私が認める認めないはヴァネッサ様にはどうでも良いことだと思いますが。


「魔才値が高いことが正妃の条件とされている理由を良く考えてみて下さい」

「魔才値が高い?」


 訝しげな目で私を見たのはエリアス様です。……もしかして、ビルガーには私の魔才値の話が伝わっていないのですか?確かにまだ公布はしていませんが、イリーナ様を口止めなんかしていませんよ?


「エリアス様。ご存知ないのですか?」

「何がだ?」

「私の魔才値」

「技能値が1しかないのだろう?」


 クラウド様! 貴方の思い付きのお陰で余計な喧嘩をしてしまったではないですか!


 まあヴァネッサ様はこういう方ですからいつかは皮肉の一つや二つ言われたと思いますけど……それは兎も角、ビルガー公は一切止めようとしませんでしたね。とすると、外征派はリシュタリカ様を推し続けるかもしれませんね。







2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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