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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十一章 ゲームの終わりと新たな図式
164/219

#163.公表? 非公表?

「同じだな?」

「同じです」


 測定官のガダス様は断言しました。この値が事実だと。


「他の奴は大きな変化は見られなかったのだな?」

「はい。私を含めて六人測定しましたが、最大で四しか変化していないそうです」

「詰まりこの魔才測定器は故障などしていない。この数字は間違いなどではない。そういうことだな」

「間違いありません。信じ難い数値ではありますが、その値は紛れもなく貴女の今の魔才値です」

「だそうだクリス。もう満足だろう?」


 本当に嬉しそうですねクラウド様。当然と言えば当然ですけどね。


「満足というか、疑わない方がおかしな数字ですから」

「しかし、魔法学院で三回、魔法師団本部で二回、王宮で、ここで三回、合計八回測って同じ結果が出たのだ。もう疑いようが無いだろう?」

「そうですね」


 学院と魔法師団本部ではクラウド様が、王宮では他の方が六人も、それぞれ計測して魔才測定器が壊れてないかまで確かめて貰ったのですから、もう疑いようがありません。それにしても――――


「技能は1だったと仰いましたね?」

「はい。五歳の時と侍女見習いに成った九歳の時、それから侍女に成った十二歳の時、それぞれ二回ずつ測りましたがずっと1でした」


 私は普通の人より魔才値を測っている回数が多いのです。だから余計に今回のことはビックリです。


「魔力量は?」

「最初から五百ぐらい有りました」


 また少し増えたようですけどね。


「マリア嬢も同じで、五歳の時は魔力量は二百以上あって技能値は3だったそうです。貴女とそっくりな状況ですね」

「確かに似ているが、クリスは八歳の時生活魔法を使い熟していた。学院に入るまで全くと言って良い程使えなかったマリアとは比べ物にならない」

「それは単純にマリア様の鍛練が足りなかっただけではないでしょうか?」


 努力家と言う言葉から程遠い性格の方でしたからね。


「魔才値は飽くまで才能の値ですからそれは確かに努力不足かもしれませんが、一つ大きな違いがありますよ」

「大きな違い?」

「魔力暴走です。マリア嬢の魔才値が厳密にいつ変化したかは判りませんが、魔力暴走の時変化したと考えると辻褄が合います。突然の変化で制御出来ない力を暴走させてしまったと考えるのが無難でしょう。しかし貴女にはそれがない」


 確かにありませんでしたね。


「私はマリア様と同じように魔才値が変化したわけではないということですか?」

「さあ? 魔才値がここまで変化した例を他に知りませんので。ただ、似た状況にある二人の明らかな違いとして上げることが出来るかと」


 魔才値が大幅に変化するなんて都市伝説の類ですからね。そこに理論的な説明を着けるのは無理があります。


「そもそも、魔力が暴走したというのは推論に過ぎんだろ。爆発が起きたように納屋が吹き飛び、連続暴行犯の変死体が近くで見付かっただけだ。その暴行犯が前日にマリアを連れて行くのが目撃されていただけで、本人は何が起きたのか分かっていなかったようだしな」


 犯罪者とはいえ人を一人殺してしまったのかもしれませんし、それは嘘の可能性もありますよねクラウド様。


「考えてみれば確かに魔力暴走とは限りませんね。強い危機感が隠されていた力を解放した。あの件を私はそんな風に捉えていたのですが……」

「強い危機感……ああ、魔力暴走があったのかもしれんな」


 魔力暴走があった?


「高熱火球。あれがクリスの魔力暴走だったのかもしれん」

「<高熱火球>ですか? 屋敷に大穴を開けた?」

「高熱火球? 大穴? 何ですかそれは?」


 あ! ……あの屋敷での出来事は公表されていないのでした。


「気にするな。兎に角クリスにも魔力暴走の兆候があったということだ」

「訊くなと? 凄く気になるのですが……」

「クリスに生命の危機が訪れた時、<高熱火球>が彼女の命を救った。そういうことだ。これ以上は訊くな」


 詳しいことは秘密にするのですね。まあ、ファーストさんこと、エイビス様逹のことは絶対に話せませんからね。


「……承知しました」

「行くぞクリス」


 渋々承知したガダス様を見て間髪入れず踵を返したクラウド様の後ろに侍り、私は魔才測定室を出ました。


 ……本当にあの時魔才値が変化したのでしょうか?






 私がアンリーヌ様の骨折を治してしまった後、皆は直ぐに魔才値をもう一度測るよう私に言いました。まだまともに歩ける状態になかった私は、午後まで待って歩けるようになってから先ず魔法学院の魔才測定器で魔才値を測ったのです。それから魔法師団本部と王宮でそれぞれ魔才値を測ったのですから、それが終わる頃時刻はもう夕方になっていました。

 そして夕食後、私はクラウド様と一緒に王宮でこの方とお話しています。


「……俄には信じられんが、事実なのだな?」

「はい間違いありません。私も最初は疑いましたが、三つの測定器で計八回測って全て同じ数値でした。私や他の者も計測しても大きな変化は無かったので、測定器の故障もあり得ません」


 断言したクラウド様の目を睨むでもなくじっくりと見たジークフリート様は、少しして目を逸らした後顎に手を置いて考え込むような仕草になりました。そのまま暫く沈黙した後、次に国王陛下の口から出てきたのは、


「学院はまだ一年あるがどうする? 公表するのか?」


 決断ではなく質問でした。


「思案のしどころです。学院と後宮で離れて暮らしたくはありませんが……」


 今はそれで済む状況ではないと思いますよ。


「シルヴィアンナ嬢の噂は本当なのか?」


 まだ丸一日経っていないのにご存知なのですね。


「シルヴィアンナもレイノルドも本気のようです。それに関してはクリスの方が詳しいですよ」


 私に振るのですか?


「シルヴィアンナ嬢も本気なのか? エリントンはまだ動いていないと思うが」

「エリントン家がどうだかは分かりませんが、シルヴィアンナ様本人は間違いなく本気です。レイノルド様に対する想いもとても強いです。場合によっては強行手段も辞さないかと」


 杏奈さんと玲君は恐らく私以上に貞操観念が低いでしょうし、強行手段が取れなくもないでしょう。そして、オルトラン様みたいなのは極少数派ですから、セルドアの貴族同士で“それ”をしてしまったら、もう選択肢は一つしかありません。


「……そこまでするのか?」

「恐らくは。ただエリントン公も内政派も強くシルヴィアンナ様を正妃に推してはいませんから、今のところそこまではしないでしょう」

「そうなると、ビルガーは焦れたままになるな。公表した方が良いのではないか?」


 私も離れて暮らしたくはありませんが、こればかりは仕方がありませんね。何よりこれは――――


「最後は父上が決めることですから、父上が一年間正妃を決めないと仰るなら公表しなくても良いかと」

「ビルガーの圧力は日に日に増している。一年決めないのは難しい。少なくとも宣言はする必要がある」


 いえ、ジークフリート様。貴方はその前にやるべきことがあると思いますよ。レイテシア様は気付いていたのに、肝心な所が抜け落ちている方ですね。


「公表ですか。ただその前に父上。今のやり取りだけでクリスが準正妃であることを公表して王太子妃にすると宣言してしまったら、私も父上も母上に叱られます」

「レイテシアに? ……何故だ?」


 全く気付いてませんね。というか、クラウド様は気付いていたのですね。


「クリスに対して何一つ確認を取っていません。私が正妃にしたがっているのであって、クリス自身は強く望んでいないことぐらいご存知でしょう?」

「……クリスティアーナ。そなたはクラウドの正妃と成ることについてどう思う?」


 促されるまま質問ですか。やっぱりどこか抜けている方ですね。主に女性関連で。


「クラウド様がお望みになるなら私はそれに応えたいです」

「正妃は国を支える重要な地位だ。そこらの結婚とはわけが違う。相手が望むからからなどという浅い覚悟で勤まる職ではない。国を背負う覚悟は有るのかと訊いている」


 ……いつぞやにクラウディオ様に同じような質問をされましたね。あの時とは全く私の立場が違いますけど。


「当たり前の話ですが、女性は結婚相手が誰かによって背負う覚悟が変わります。夫を支えるにしても、それに相応しいだけの力がない限り肩を並べて歩くことなんて出来る筈がありません。相手を頼り切って、旦那様に依存して結婚生活を営むことだって出来なくはありませんが、正妃はそうは行かないことぐらいは承知している積もりです。実際、ソフィア様もレイテシア様も、後宮官僚逹に政務を投げたりせず、ご自分で執務を成されておりましたから。

 私がクラウド様の妃になると決めたのは二年半前です。その頃から自分が正妃になる可能性が少なからずあることは知っていましたし、同時に、魔才値が低い私が「相応しくない」と言われるのも分かりきっていました。

 ただその評価は、私ではなく私を選んだクラウド様のモノです。妻として主人の評価を落としてしまうなど耐えられるモノではありません。ならば、せめて私自身が正妃をしっかり勤められるよう準備をするしかありません。予定より一年早くまだ中途半端だとは思いますが、その覚悟も自分なりにして来た積もりです。

 そこまでして初めて、私を正妃にしたいという“クラウド様の要求に応えた”ことになると思います」


 私が畳み掛けるように話すと、対面のジークフリート様は呆然と私を見て、隣のクラウド様は満足そうな顔をしていました。


「レイテシアも父上も母上もクリスティアーナのことを随分と高く買っていたが……」

「今更気付いたのですか?」

「私はあまり接点が無かったからな」


 確かにそうですね。クラウディオ様ともあまりありませんでしたけど。


「都合の良いことにクリスは派閥争いとは無関係です。どこの派閥も刺激せずに正妃を決められます」

「そうだな。表立って反対出来る者も居なくなる。私にも反対する理由はないし、根回しも随分と楽になるだろう」


 ジークフリート様も私を正妃と認めるということですね。ただ恐らく――――


「これでクリスが平民なら反対する輩も居るでしょうが、国王派は勿論、リシュタリカ嬢に納得していない革新派の連中からも賛成する貴族が沢山出るでしょう。何しろ――――」


 国王派というのは「貴族は王家に従うべき」という中立派とも呼ばれる派閥です。実は下位貴族の半数がこの派閥で、ベイト家そしてボトフ家もその一つですね。


「魔技能値251ですから」


 クラウド様やお兄様の二倍以上って……疑いたく成りますよね。







2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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