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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十一章 ゲームの終わりと新たな図式
160/219

#159.正妃候補達の想い

 十二月に成りました。クラウド様の暗殺イベントの期間も無事に過ぎ去り、発生する可能性があるイベントも残り少なくなって来ました。

 今日は授業が休みで、私は杏奈さんの部屋に呼ばれました。「魔劇祭」で私に興味を持ったシルヴィアンナ様は定期的にクリスティアーナとお茶をするようになった。という体裁を取り繕っていますから、最近良くお茶をしています。……友達に会うだけで理由が必要なぐらい有名人なのですよね杏奈さんって。


「「年越しの夜会」でルアン家に伯爵位が与えられるのですから、玲君は晴れて伯爵令息になるわけですよね。だったら躊躇する理由はないのではないですか?」


 他国の王家に嫁ぐことも少なくない公爵家の令嬢が子爵家に嫁ぐのは中々難しかったわけですが、もう上位貴族同士の結婚になったわけですから、縁談を申し込むことぐらいで躊躇する理由はないと思います。


「私に言わないで玲に言いなさいよ。あの意気地無しに」


 ……怒っていますね杏奈さん。


「玲君はご両親にもお話してていないのですか?」

「してたらもう私のところまで話が来てるわよ。クラウド様以外との縁談が持ち上がったのは一度や二度じゃないんだから」


 大変ですね有名人は。まあ私も一時期凄かったですが、全部無視したら以降全く音沙汰がありません。私はやはり着飾らない限り目立つような容姿ではないのでしょうね。


「でも、クオルス様だって正妃を望んでいるわけではないですよね。というより、堅実内政派の長でなければ杏奈さんの希望を叶えてくれる方のような……」

「確かにお父様自身は私の望みを叶えようと動いてくれるでしょうね。でもお母様もエリントンのお祖父様も私が正妃になると疑ってないのよ。まあそれは中等学院の頃からのクラウド様との協定のせいだから仕方がないけど」

「協定が無かったら無かったでもっと大変だったですよね」

「でしょうね」


 協定があっても勝手に縁談が進んでしまう立場ですからね。


「それに、玲とは従兄弟同士だから例え上位貴族でも政略の意味が殆どない。家族は兎も角、分家や派閥の貴族はそう簡単に納得しないわ。それこそ次期正妃の椅子が空いているんだから、彼らにとっては「狙って当然」よね」

「ヘイブスの後釜にルアン家を添え派閥争いのバランスを敢えて崩して、「シルヴィアンナを推す奴らを静かにさせる」なんてクラウド様は言っていましたけど……」

「確かに、巧く行けば内政派は多少落ち着いただろうけど、よりによってリシュタリカ様が担がれたからね」


 そうなんですよね。ヘイブス家が潰れてもビルガー家はリシュタリカ様を担ぎ続けたのです。リシュタリカ様にとっては良い迷惑でしょうけど、堅実内政派が推すシルヴィアンナ様対積極外征派と革新派が推すリシュタリカ様、という構図に変わりました。堅実内政派も二派閥に対して対抗心を燃やしてしまったので、再び社交界は「次期正妃は誰だ?」と大騒ぎになっているそうです。


「杏奈さん……あまり想像したくないのですけど、正妃に選ばれてしまったらどうするのですか?」


 クラウド様が「私を正妃に」と動き始めれば状況は変わると思いますが、それでも最有力がシルヴィアンナ様という声は大きいままだと思います。ジークフリート様は態度を保留していますが、現状やはりその可能性は低くないのです。


「どうと言われても受けるしかないんじゃない? 王命に逆らうわけにはいかないもの」

「婚約者が居る女性を無理矢理奪うような真似をジークフリート様がするわけがありません」

「いないんだからしょうがないわよ。想い人がいるなんて言っても何の意味もないわ。ましてや縁談が進んでいるわけでもないし」


 想い人がいる。今まで、自分の気持ちははぐらかしていた杏奈さんですが、今そう言いましたよね。


「ならやっぱり玲君をけしかけた方が良いですかね?」

「やってくれるなら嬉しいけど……」


 嬉しいと言いましたね杏奈さん。確かに聞きましたよ。


「杏奈さんは玲君と結ばれたいのですね?」

「……出来ることなら」


 シルヴィアンナ様のその小さく綺麗な顔が赤く染まり、照れながら逸らされた瞳には恋する乙女の光が宿っていました。


 やっぱり玲君が大好きなのですね杏奈さん。


 玲君を焚き付けると心に決めた丁度その頃、魔法学院の敷地内で大きな事件が巻き起こっていたのを私が知ったのは、この数時間後のことです。






 その日の夜。お茶の時間に起きた事件の影響で、私とクラウド様は寮の第一棟の応接間でこの方と対談していました。まあ、今話している内容は事件と関係ありませんけど。


「結局のところ、クリスが正妃に成れば丸く収まるのではなくて?」


 今それは一切否定出来ませんが、


「何度も言っていますが、魔技能値が1しかない私が正妃に成るのは無理があります。「何故側妃ではダメなのだ?」両方の陣営からそう言った声が出るのは目に見えていますから」


 正妃にするだけの要素がありません。


「今までなら「言わせておけ」で話が済んだ部分もあるが、こうまで対立気運が高まると両方の陣営を説得するだけの材料が必要だろう。残念だが、今のところクリスにそれはない」

「だからって、実家が取り潰しになったわたくしを担ぎ上げるビルガーもビルガーよ。シルヴィアンナが嫌なだけでわたくしのことなんかお構い無し。シルヴィアンナも望んでもいないのに巻き込まれて、全く、男共ももう少し見る目を養ったらどうかしらね」


 ……あっさりと言い放ちましたが、リシュタリカ様はヘイブス家がお取り潰しになったことについてどう考えているのでしょうか?


「その言い種だと、特定の男が居るわけでもなさそうだな」


 クラウド様。その言い方は失礼かと。


「殿下。貴方はわたくしを辱しめたいのかしら?」

「成人した女性相手に「男はいないのか?」なんて質問は侮辱以外何物でもありませんよクラウド様」

「あ! ……悪かった」


 まあ何でそんな質問をしたかは分かっていますけど。


「シルヴィアンナ様はレイノルド様と結ばれたいようです。お二人が婚約すればシルヴィアンナ様は正妃争いから抜けることが出来ますから。リシュタリカ様はどなたかいらっしゃらないのですか?」

「レイノルドねぇ。優秀は優秀らしいけれど、シルヴィアンナとは吊り合わないのではなくて?」


 いえ、ルアン家が伯爵になることが決まった今、杏奈さんの結婚相手として玲君を上回るのはそれこそクラウド様しかいませんよ?


「吊り合うかどうかはどうでも良いだろう。そういう相手が居るかどうかだ。居れば無理矢理王太子妃になどならなくて済むかもしれん」

「居ないわ。男にも結婚にも興味はないもの」


 リシュタリカ様は全く躊躇なく言い放ちました。その姿は嘘を吐いているようにも虚勢を張っているようにも見えません。


「子供にも興味は無いのですか?」


 リシュタリカ様は意外と可愛いモノが好きなのです。赤ちゃんは好きなような気がします。


「……相手が居なければ産めないわ。そう都合良く出来るモノではないし、結果が欲しければ過程を経るしかないわ。そういう意味では結婚したくないわけではないわね」


 セルドアで子種だけ貰うなんて発想はありませんからね。子供が欲しければ結婚するしかないでしょう。


「誰でも良いなんてことはありませんよね?」

「当然よ。種は強いに限るわ」


 サラブレッドの発想ですか?


「……それは良いとして、現状相手が居ないならシルヴィアンナのように婚約して退場するというのも難しいな」

「シルヴィアンナもそう簡単に行くとは思えないけど?」

「方向性の問題だ。幸い他の候補はこの一ヶ月で退いてくれた。残っているのはそれこそ貴女とシルヴィアンナだけ。シルヴィアンナがレイノルドと婚約すれば、私は私の望みを叶えられるかもしれない」


 クラウド様は私を正妃にすることにとことん拘りますね。


「クリスの為に協力したいのは山々だけれど、残念ながらわたくしには出来そうに無いわ。そもそも、これだけ騒がれたわたくしの結婚相手は上位貴族の嫡子でない限り、内政派も革新派も納得しないのではなくて?」

「確かに適任者がいないな」


 玲君が極めて特殊な相手ですからね。


「でもクラウド様。リシュタリカ様が居なくなってもリリが残っています。実家が無くなってしまったリシュタリカ様を形振り構わず担ぎ上げたぐらいですから、他の派閥は兎も角外征派はリリを担ぎ上げると思いますよ?

 と言うか、シルヴィアンナ様が退けば無理にリシュタリカ様を推したりはしないのではないでしょうか?」

「……現状レイノルド頼りということか。あまり頼りたくはないがな」


 私の前世のせいでクラウド様は妙に玲君に対抗心を持っていますね。前世は前世ですよクラウド様。玲君は演劇以外であまり努力しない人でしたが、レイノルド様は何事にも努力を惜しまない人です。マリア様と真理亜さんは似ていますが、同じ人間ではありませんでした。真理亜さんはもっと強かな人でしたから。


「用件は以上かしら?」

「ああ。こんな時に悪かった。オルトランの所に戻ってやってくれ」

「別に四六時中付いている必要はないわ。もう寝ているだけなのだから」


 そう言いながら心配そうな顔をしたリシュタリカ様です。


「本当に大丈夫なのですか?」

「クリスは本当に誰の心配でもするのね。出て行って半年ぐらいはリーレイヌのことも心配していたし、メリザント様のことも心配していた。わたくしが貴女だったら神経がもたないわ」

「ハーレムを解散したのは私のせいかもしれませんから」


 少なくともソアラ様と別れた切っ掛けを作ったのは私ですし。


「それはわたくしの台詞。愚弟がふった女に刺されたのはわたくしのせいよ」


 オルトラン様がハーレムの元一員マーガレット様に背中から剣で刺されたのが今日起きた事件です。マーガレット様は逮捕、オルトラン様は一時意識不明の重体でしたが、先程意識を取り戻し、今は寝ているそうです。治療魔法の熟練者が沢山居る学院内で起きた事件ですからオルトラン様は一命を取り止めましたが、普通の場所で起きていたら死んでいたような大怪我だったそうです。


「自業自得は自業自得だ。アイツは他人の気持ちを考えられないからな」


 マリア様が居なくなる前まではそうだったと思いますが……。


「少しはマシになったと思ったけれど……愚弟は愚弟だったわね」


 マーガレット様はまだ錯乱状態のようで正確な動機は分かっていませんけどね。


「クラウド様。私行きたい所があるのですけど」

「行きたい所?」

「はい。――――の所に行って直接お話したいです」


 一か八か、オルトラン様が心を入れ替えられる可能性があるとしたら――――







2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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