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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十一章 ゲームの終わりと新たな図式
159/219

#158.新たな構図

クラウド視点です

「まさかこう来るとはな」

「確かに予想外ですが、レイラック様が皇太子となれば交渉が進展するのは間違いないでしょう?」


 とは言えもう十一月も終わりだ。停戦協定の期限まであと半年しかない。間に合うか?


「今度はこちらが決断する番かもしれないな」

「ルギスタンとは同盟の方向しかないのか?」


 相変わらずだなエリアス。まあ「ダガスガス事件」で損害を被ったのは事実。ビルガーが積極外征を主張するのも仕方がないが、もう四十年も前の話だ。現ビルガー公爵も赤子の頃の話でエリアスは全く関係ない。小競り合いもない近年ではルギスタンに対して恨みを持つ理由がないと言うに……戦争とは厄介なものだな。


「向こうが本気でそれを望んでいるのは事実だな。そして下手を打てば大陸全土を巻き込んだ大きな戦争が起こるのも。ルギスタンが“本気”を見せた以上それを無下に出来ないことぐらい解るだろう?」

「ブローフ平原を丸々譲歩するぐらいの条件なら受ける価値はあるがな」

「丸々は難しい。平原はルギスタンに近すぎる」


 丸々か。だが……案外それぐらいの条件があるかもしれんな。本気で同盟を望むなら戦争ばかりで生産力の低い平原を活用を考える筈。それには中途半端に平原を“割る”より一国で開発を行なった方が効率が良い。そして輸送も叱りだ。セルドアも食糧輸出国だが、ルギスタンも食糧輸出国だ。詰まり輸出をしない限り食糧が余ってしまって、下手をすれば今の領土内の農業に打撃が出る。効率よく輸送をする為には平原内の流通も良くする必要があるだろう。上手く連携を取れれば良いが、平原内で争って自滅するのは最悪だ。それには────。

 とは言え、頭では解っていてもそこまで妥協出来ないのが人間の性だ。


「平原の半分では割に合わんだろう。何より今まで戦って来た兵士達に申し訳が立たない」

「それはルギスタンも同じだ。幸いここ三十年ほど、「ダガスガス事件」の報復が終わってからは小競り合いしかしていないのだ。世代交代も進んでお互いいがみ合う状態からは解放されつつある。二百年前は同盟を結んでいたのだからまた結べないこともないだろう。終わりに出来る時に終わりにすべきだ」

「しかし、「互いにブローフ平原でしか戦闘をしない」その協定を破ったのだ。ルギスタンなんて信用出来ん」


 エリアスの言う通り、「ダガスガス事件」は戦闘地域協定をルギスタン側が破った事件だ。だから大きな被害を被ったビルガー家は必然的に積極外征を主張するようになった。だが、


「何度も言うように、「ダガスガス事件」の犯人はルギスタンの貴族であって皇家は無関係、しかも報復は充分に行った筈だ」


 当時太子だったお祖父様、先王陛下はこの報復戦争で名を上げた。迎撃に出たルギスタン軍を散々に食い破ったのだ。セルドア軍にも被害が無かったわけではないが、ルギスタンは大敗を記し初戦で戦意を喪失。そのままルギスタンの国土を蹂躙する勢いだったそうだ。そこで出て来たのが先々代イブリックの大公レキニウス。彼はフランク帝とお祖父様の仲を取り持って、ブローフ平原の大半を勢力圏としていたセルドアを止めたらしい。まあこの時セルドアが止まった理由はルダーツとの同盟が揺らいでいたからだが、いずれにしても、いきり立ったままの貴族達をソフィア様が宥め、セルドア軍は一旦平原から引き上げたわけだ。

 その後ルギスタンの皇家は事件の主犯をセルドアに送るなど、こちらに配慮した対応を見せた。皇家そのものは充分信用に価するだろう。


「それ以上にゴラの動きの方が問題でしょう? ルギスタンと下手に敵対はしたくないというのが本音なのでは?」

「厳密にはゴラとハイテルダル、デイラードの動きだろ? 三つの国が連携しようとしているからルギスタンもセルドアとの同盟を選択したわけだし。でも、本当に連携しているかどうかは微妙ですよね?」

「三国に同盟の動きがあったのは停戦協定より前の話で、今は停滞している。本当に同盟を組もうとしているかは分からない」


 あの話が本当だとしたらこのままゴラが大人しくしているとは到底思えんがな。奴らのセルドアに対する警戒心はそれだけ高い。そして、ゴラの皇帝は保守的だから大きな事は考えていないだろうが、皇太子は────。


「曖昧なままで同盟に動いているのか? いい加減だな」


 エリアス……マリアの逃走はあっけなく受け入れたクセに、これに関しては本当に頑固だな。


「ルギスタンとてそれは把握しているのにここまで動いたのだ。それは、「セルドアとルギスタンの同盟が成立しなければ三国は再び同盟に動き出す」そう確信しているからに違いない」


 外務省は知らない事だが、三国が同盟に動きがあったのは事実だ。「陽炎」の報告だから知らないのも無理は無いがな。


「そんな事よりエリアス様。何か用があってお越しになったのでは?」

「あ? ああ。弟のエイドリアンが来年入学する。一応兄として挨拶しに来た」


 ……それだけか?


「そうですか。ん? 来年はエイドリアン様だけ?」

「いや、ベニートが居る」

「ベニートって……クラウド様の弟でしたっけ? ウィリアム様の弟なんてことはないですよね?」


 やはりあまり認知されていないのだな。


「ベニートは妾の子供で私とも兄上とも腹違いです」

「妾? 王家って妾が居るんだっけ?」

「一昨年イブリックに嫁いだローザリア様も妾腹でしたよ。継承権が無いんですよね?」

「ああ。とは言え継承権は所詮臨時の順位。典範上王位は誰でも継げる」


 実際歴史上一度だけ王族でない人間が王位を継いだことがある。まあ、余程説得力のある人材でなければ反乱が起こるだろうがな。


「誰でも?」

「ハブンズ・ビルガーの話ぐらい知っているだろ」


 歴史上唯一王を輩出した貴族家。それがビルガーの誇りであり力の証明だ。正直今代のエリオット・ビルガー公爵は見る影もないがな。


「もう七百年前の話じゃないですか」

「大昔だろうと事実は事実だな。典範もその頃のままだ。それよりエリアス。お前の用事はそれだけか?」

「……ヴァネッサは寮か?」


 は?


「だと思う。珍しく沈んでた」


 ヴァネッサが沈んでいた?


「もしかして決まったのか?」

「ああ。決まった」


 エリアスとヴァネッサの結婚が決まった。詰まり外征派と革新派が手を組んだ。


「ヘイブスが潰れて動きが加速した。父上もだいぶ妥協したらしいが、革新派もリシュタリカ嬢を推す事に決まったようだ」


 ヘイブスに大規模な調べが入ったのが九日前で、ヘイブス家から爵位が剥奪されルアン家が伯爵に昇爵する事が発表されたのが四日前。そして、外征派と革新派の連携が決定したのが今日。当然ルギスタンも此処から大きく動く。セルドアの、私の正妃争いが、本当に大陸の未来を動かす事に成る……ティアを正妃にするのがどんどん難しく成っている。


「リシュタリカ嬢。噂は聞いたことはありますけど、良く潰れた家の娘なんて担ぐことに決めたましたね革新派は」

「優秀な方なのは間違いありませんよ。五年で正女官になるのは最短ですし、魔才値も高い。王家としても文句の付けようがないです。実家が潰れて影響力が皆無に成った今、革新派としては逆に担ぎ易いかもしれません」


 ……魔才値以外はティアの方が優秀なのだがな。


「当の本人がビルガーともベルノッティとも無関係なのがどうにも苦しいがな」

「シルヴィアンナ嬢が正妃に成るよりマシということでしょう?」


 確かにそうだな。


「それにしても、エリアス様とヴァネッサ様、カイザール様とハンナ様、ウィリアム様とジョセフィーナ様、此処一ヶ月で一気に決まったなぁ」

「各派閥で正妃候補を絞る動きが一気に加速したということですね」

「で? 兄上はどうしたいのですか?」


 全て知っているお前がそれを聞くかウィリアム。ニヤニヤしやがって。


「私もお前と一緒で自分で決める立場にない。それぐらい知っているだろうが」


 とは言え、マリアとヴァネッサが外れてくれたのは正直良かった。まあ高飛車だが上位貴族令嬢らしいヴァネッサはまだマシだが、マリアが正妃になるのは後宮の誰も納得しなかっただろう。と言うか、私個人の問題として二人が正妃になると世継ぎが……。


「しかし良かったのですかね? マリア嬢を逃がしてしまって」


 今更それを言うかコーネリアス。


「あの厄介者を誰も追う気には成らんだろう?」

「それはそうですが、魔技能値135ですよ? どっかしらの家に嫁がせる価値はあったのではないですか? それこそ側妃にするとか」


 ティアがいる以上アイツを後宮に入れることは絶対に有り得ないが、確かに魔技能値135は貴重だな。


「私は御免ですね。あの小娘を妃にするなんて」


 ウィリアムはマリアが心底嫌いだな。


「あの女は本当に135もあったのかと疑いたくなるぐらいの魔法技術しかなかった。反魔法の一つぐらい使えるように成らない限り、嫁がせる価値など見出せないだろう」

「確かにそうですね」


 セリアーナ殿やスレイの話だと、マリアは通常の大きさの<火球>を創るだけで随分と時間が掛かっていたそうだ。何度も測っても数字は変わらなかったのだから魔才値は間違っていないだろうが、奴が碌な魔法技術を持っていなかったのは間違いない。

 だが、<高熱火球>は高密度の魔力を一気に魔法化する難易度の高い魔法だ。あの大きさでなくとも高度な魔力操作を必要とする魔法が偶然出来たとは考え難い。少なくとも魔力操作の技術はかなり高度なモノが要求される。


 ……本当にマリアが創った魔法だったのか?





2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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