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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
153/219

#152.真理亜の企み

マリア視点です

 ――杏奈さん。来てくれたのですね。ありがとう――

 ――無事で良かったわ藍菜――


 夢現にからわたしを覚醒させたそのやり取り。わたしの耳はその音声を確実に捉えていた。わたしが大嫌いなあの女達が、またわたしの邪魔をしたのだとしたら絶対に許さない。前世と同じように殺してやる。

 でもどんな声だったかまでは判らなかったから、杏奈の方は誰だか分からない。ただ藍菜は間違いなく一緒に捕まっていたあの金髪の女だわ。そして、調べたら直ぐに分かった。わたしと一緒に捕まっていたのは、


 クリスティアーナ・ボトフ


 そういう名前の侍女だった。金髪なんて滅多にいないし間違いない。しかも第一王子の侍女らしい。それを聞いて引っ掛かった。あの屋敷に助けに入ったのは近衛騎士と第一王子だったらしい。詰まり、第一王子の侍女を第一王子が救出に来た。そして、推測するにわたしをアンドレアスに託して部屋を出て行ったのは第一王子だったのでは?

 そうよ。第一王子を誑かしてゲームを無茶苦茶にしたのはあの最低尻軽女だったのよ。前世と一緒で何股も掛けてるに違いないわ。最初からわたしに全く興味を示さない第一王子は勿論だけど、設定が全然違うカイザールやルンバートなんかがかなり怪しいわ。第一王子と近いのだからウィリアムもかもしれない。だとしたら絶対許さない。ハビッツのこともあの女が告げ口したに違いないわ。


 絶対復讐してやる。


「どうなさったのですかマリア様。ああもしかして、事件の影響でお加減が宜しくないのですか?」


 私の取り巻きも到頭この女だけになったわね。というよりこの女がバカ過ぎる。わたしだったら、実家から謹慎くらった女におべっか使うなんて絶対しない。何のメリットもないもの。まあ時々こうやっておこぼれに預からせてやってるんだから、丸っきりないわけじゃないけど、それにしてもバカ過ぎるわ。


「ターニャ。貴女クラウド様の侍女のクリスティアーナって知ってる?」

「詳しくは知りませんけど、クラウド様の侍女の中では一番有名な方ですね」


 有名なの?


「何で? 金髪だから?」

「違いますよ。「魔劇祭」でハンナ様の代役をやったからです。お仕着せを着ているとそこまでではないですが、ドレス姿は本当に綺麗な方でしたよ」


 ハンナの代役? それってそのままゲームのイベントじゃない。あの女、わたしから主人公の座まで奪ったわけ? 本当最低の泥棒だわ。


 あームカつく。


「それで? クリスティアーナさんの事がどうかしたのですか?」


 ……余計なことに踏み込んで来るんじゃないわよ。


「拉致の時一緒だったからちょっとね」

「素直じゃないですねぇマリア様。仲良くなさりたいなら素直にそう言えば良いじゃないですか。今度お茶にお招きしたらどうですか? 優しい印象の方でしたし仲良く出来ると思いますよ?」


 そうね。考えてみたらそっちの方が楽だわ。一応一緒に拉致されたって口実はあるし呼び出す理由にはなる。そうだわ。二人きりで話す理由もあの時あったことを謝りたいと言えば充分ね。ただ殺すには……ああそうだ。あれがあったわ。


「でも……わたしはあの時トンでもないミスをしてしまったの。部屋に火を着けてしまったのよ。あの娘はわたしを恨んでいるに違いないわ」

「「魔力手錠」をしていたのですから仕方のないことです。それにクリスティアーナさんは男爵令嬢ですから、恨んでいるならビルガー家へ正式に抗議があるでしょう。それがないということは恨んでなどいないということだと思います。向こうもマリア様と仲良くしたいと思っているかもしれません」


 ムカつくのよね。何であの女はまた上流階級に生まれて、わたしはまた下層階級なわけ? なんにも苦労しないで育ったお嬢様にわたしの苦労が解るわけがないわ。ホント許せない。


「そうかもしれないわね。分かった。まずお茶会に、いえ、お茶会では誠意が足りないわ。ターニャいきなりにあれに招くのは失礼かしらね?」

「あれとは?」

「月見茶会」


 月見茶会なら遺体を隠すのに持ってこいだわ。






 事件から三週間経った。一刻も早くまたこの手で殺してやりたいのに、あの女は二週間引き込もっていた。そして、今週やっと外に出るようになったから、「事件のことを謝罪したい。月見茶会をするから来て欲しい」と招待状を送ったら無事参加すると返事が来た。

 なのに、授業が終わり寮に戻ったらハビッツがこんなことを言い出した。


「申し訳ありませんがお嬢様。私は今晩同行出来ません。操船はガルシュ様にお願い致しました」

「何で? 何でハビッツが行けないのよ!」

「今日シルヴィアンナ様が此所に来ると連絡がありました」


 シルヴィアンナ? なんであの糞生意気な女が?


「何で?」

「彼女は寮長です。規則違反をしていないかどうか監視する義務があります。予告無しに踏み込むことは出来ませんが、事前に連絡すれば捜査する権限があります」

「なにそれ? 勝手に此所に来られるわけ?」

「所詮は寮規則ですから法律上は強制は出来ませんが、捜査を拒否したら疑いを掛けられるのは間違いありません。次は院生会でしょう。

 そして私はこの寮の使用人の代表として登録されていますので、その時此所に居ないわけにはいきません」


 横暴だわ。


「今まで一度もそんなこと無かったじゃない!」

「「午後九時から翌日午前五時まで、正当な理由無しに寮の敷地外へ出てはならない」最も基本的なこの“院内規則”違反を大目に見ていたのだから、女子寮長としての面子ぐらい保たせて貰わねば困る。

 これがあちらの言い分です。この規則違反は本来二度目で停学処分。三度目で退学です。違反検査ぐらいで済むならだいぶマシかと」


 そうだった。セルドアは15で大人なのに、門限九時とか意味の解らない規則があるのよね。


「じゃあハビッツは来られないわけね。代わりは誰?」

「ガルシュ様です」


 ガルシュって確かエリアスの侍従ね。ダメだわ。あの男はわたしに興味はない。体で口止めは出来ない。かと言って、買収する金もない。……中止にする? いえ、もう待てない。バレないように殺るしかない。あの女と同じ学校に居るというだけでムカムカして来る。


「分かった。貴方とも楽しみたかったけど一人で行って来るわ」

「はい。私もお嬢様と一緒に過ごしたかったです」


 相変わらずバカな男。






 夕刻。学院の正門を出て直ぐ近くの港の桟橋へ向かって歩く。


 毎回思うけど、出る人間を何であんなに詳しく検査する必要があるわけ? 普通検査が厳しいのって入る人間でしょう?


 正門を出て一分もしないうちに港の入口が見えて来た。


「ふっ」


 ダメだわ。笑いが止まんない。港の入口に居たのは濃紺のお仕着せを着た金髪の女ただ一人。前世で嘘の呼び出しに騙されて死んだのに一人でノコノコやって来た。本当に馬鹿な女。まあ、勝手に誰か連れて来たとしてもビルガーの名前を使って乗せないだけだけど。自分の運命を知って驚く顔が早く見たいわ。


 わたしが港に近づくと、向こうもこっちに気付き数歩近づいて来た。


「本日はお招き頂きありがとうございました」

「一緒に拉致された仲じゃない。わたしが二年前まで平民だったことぐらい知ってるでしょう? 肩苦しいのは止めてくれない?」

「承知致しました」


 ……肩苦しいままじゃない。まあ良いわ。


「行きましょう。今日はちょっと変わった形式の晩餐にしたの」

「変わった形式?」

「そう。存分に楽しんで」

「はい」


 最後の晩餐をね






2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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