表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
152/219

#151.捜査会議

 拉致監禁事件の翌日。魔法学院上位貴族男子寮第一棟の応接間には、事件の依頼主の捜査と事後処理の為に重要人物達が集められました。

 具体的には、クラウド様、お兄様、クロー様、スレイ様、シルヴィアンナ様、リーレイヌ様、何故かシルヴィアンナ様と一緒に来たルチア様、そして私の計八人です。


 目下一番の謎はシルヴィアンナ様の“予言”ということで、先ずはその話をすることになったのですが、


「前世の記憶とか言われた段階で私にはさっぱりでしたが、ここが小説の舞台でクラウド様やアンドレアス様が登場人物とか言われても……」

「そのぐらいの話でなければ、シルヴィアンナ様の“予言”の説明が着かないのは理解出来ますが……」


 リーレイヌ様と近衛の副長のスレイ様は付いて来れなかったようですね。まあ全員が全員納得して貰えるような話ではありませんけど。


「クリスが幼い頃から大人びた言動をしていたり、誰も知らないような知識を持っていたりした理由はそれで説明が着きます。分岐小説の話は流石に納得出来るわけではありませんが、クリスがそう言うなら私は信じます」


 ……お兄様。


「ありがとうございますお兄様。信じてくれて」

「クリスは昔から嘘が苦手だったからね。父上と母上にも変な誤魔化しをしていたから、クリスが何か特殊なのは分かっていたよ」


 それでも受け入れてくれたわけですね?


「私は本当に人に恵まれました。今回も色々な人に助けて貰えて……本当にありがとうございました」


 本当は一人一人に頭を下げたいのですが、昨日事後処理をスレイ様に押し付けたクラウド様と一緒にあのお屋敷を出る時に、一人一人にお礼を言ったので、今またお礼を言うのは話の腰を折ることに他なりません。

 ただ真理亜さんが地下から上がって来る前に早々に立ち去ってしまったので、あの後真理亜さんがどうなったのか無事だったということ以外詳しくは知りません。


「礼は散々言ったのだ。もう良いだろうクリス」

「そうだねぇ。クリスは昔からこんな調子だけど」


 正直私は小さい頃クロー様と遊んだ記憶はありません。私がベイト家滞在中に良く遊んでいたのは、四男で一つ上のグレイ様と五男で二つ下のルンバート様です。クロー様はどちらかと言えばお兄様と仲が良かったと思います。


「……信じる信じないは別として、そんなことは報告書に書けませんよ」


 確かに誰もそんな報告書は認めないでしょう。


「わたくしを計画したとして逮捕するのなら話は別ですけれど、それこそ、嘘を並べるしかないのではありませんか? 不確かな垂れ込みや目撃情報が舞い込んだことにするのが一番無難だと思いますわ」

「シルヴィアンナ嬢が犯人の一味である可能性は否定出来ていませんが?」


 スレイ様はクラウド様に問い掛けるように話しました。


「私は全く疑っていない。小説の話は兎も角として、今回の一件シルヴィアンナに利がない。

 例えば、マリアが正妃候補として邪魔だったとして、何故拉致をする必要がある? クリスに対して同様だ。側妃であるクリスを邪魔に思っていたなら殺せば良いだけだ。今回はそれが充分に可能な状況だったのにそれをしなかった。

 シルヴィアンナが犯人だとして今回の行動に説明を着けるなら、「ヒーローのようにクリスやマリアを救い出したかった」などという荒唐無稽な推理しか成り立たない。

 予定外に二人を拉致してしまったことによって当初の予定を変更したとは言えるだろうが、あの部屋に火を着けたのはマリアなのだろう?」

「はい」

「そうなるとマリア、果てはクリスまで共犯者でないと事実との整合性が無くなる。そんわけはある筈がないし、マリアやクリスにどんな利がある?

 シルヴィアンナの言の全てが信じられるわけではないが、信じた方が今の状況に説明が着くのは間違いない」


 クラウド様が一気に話すと応接間は沈黙に包まれました。皆じっくり考え込んでいるようです。


「シルヴィアンナ嬢を信じる信じないは個人の判断に委ねましょう。それから報告書も垂れ込みをでっち上げれば問題ありません。いえ、ある種の“垂れ込み情報”によって動いたと考えれば、突入を強行したこと以外は説明が着くでしょう。

 問題は事件の主犯、拉致と監禁の依頼主です」


 暫しの沈黙を破ったのはお兄様です。お兄様は杏奈さんを信じることにしたようですね。


「それに関しては私から良いですか?」


 発言許可を求めたのはルチア様です。


「何だ?」

「シルヴィアンナ様の言う分岐小説には、“解説本”が存在するのです。要するに小説には出て来ない細かな部分を捕捉する本ですね」


 ああ、そう言えばルチア様はゲームの“設定資料集”を持っていたと言っていました。ルチア様は所謂“オタク”だったらしいです。私には良く解らない世界です。


「その解説本にはこう書いてありました。――主犯はマリアに想いを寄せるビルガーの使用人――」


 想いを寄せる使用人が主犯? 何であんなことをするのですか?


「小説通り狙いがマリア嬢であったというのは解るが、ビルガーの使用人が何故?」

「監禁して独占するのが目的ではないか? それなら傷を付けるなと指示をした理由も充分説明が付くし、人身売買や娼館などとは関係が無さそうな場所に監禁されていた理由にもなる」


 クラウド様はこれを推理済みだったようですね。


「目的はマリアを手に入れることと書かれていました。でも小説は小説で実際起こることと似ていても若干違うことが多いです。特に私達転生者が関わると」

「小説は兎も角、マリア嬢の周囲、特に寮の使用人は動きが鈍かったのは事実だね。ビルガー公自身は、犯行どうのこうのでは無くてマリアはもうどうでも良いと思っているんじゃないかな?」


 クロー様の言う通り、ビルガー公にはその気配が充分にありました。何せビルガー公は、実家ヘイブス家が不正で大きく揺れているリシュタリカ様を正妃候補として担ぎ続けているぐらいですから。


「確かに、ビルガーの使用人が主犯なら家の代理人として奴らに払うぐらいの金を動かすことも出来るでしょうし、公爵家に戻ることを考えていないならば全ての状況に説明が着きます。シルヴィアンナ嬢の言を信じることが前提ですが……探りを入れてみますか?」

「そうしたいのは山々だが仮にも相手は公爵家の侍従。簡単には踏み込めない」


 侍従?


「具体的にどなたが分かっていらっしゃるようですわね。教えてくれたらわたくしの方で探りを入れますわ」

「確かに見当は付いているが、何故そう思う?」

「ルチアは使用人と言ったのに、クラウド様は侍従と仰いましたわ。詰まり具体的に名前が上がっているのでしょう? 学院に居る方ならばわたくしの方でお調べ致しますわ」

「……貴女は何故いつも私を負かそうとする?」


 王太子様は女王様が苦手なのです。


「さあ? 何故かしらねぇ? それよりわたくしに一任して下さるのかしら? 下さらないのかしら?」


 ……楽しんでますね杏奈さん。


「一任するも何も、貴女には何の権限もない筈だが?」

「あらお忘れかしら? わたくしこの学院のある場所では結構な権限を持っていますのよ?」

「ある場所?」


 眉間に皺を寄せたクラウド様です。その様子では覚えていませんね?


「わたくし女子寮の寮長ですのよ」

「あ!」


 完全に杏奈さんの方がクラウド様より上手ですね。


「わたくしが適任ではありませんこと?」


 男子寮では院生会員が力を持っていますので有名無実ですが、女子寮長の権限は結構強いですからね。使用人が居るとしたら寮内の話ですし、探りを入れるぐらい難しいことではありません。


「……分かった。一任しよう。但し飽くまでマリアとその侍従ハビッツの間柄を探るだけだ。事件に関しては触れず、二人の関係性がどの程度深いかだけを探れ。事件に至っても不思議ではないと思ったら直ぐに報告してくれ」

「はい。御随意に」


 女王様はご機嫌です。愉しげです。


「気を付けて下さいね杏奈さん。真理亜さんが近くに居るのですから」

「真理亜さん?」


 あ! ああ!


「やっぱりマリアは真理亜なのね?」


 口調が変わってますよ杏奈さん。


「答えなさい藍菜!」


 うぅ。怒らないで下さい。


「マリア様はあの事件のことを知っていたようでした。あと、事件がお兄様関連だとも知っていました。小説の知識があったのは間違いないかと」

「前にもマリアがマリアだとかわけの解らないことを言っていたなシルヴィアンナ。クリスでも良いが説明しろ」


 ……真理亜さんバレたら杏奈さんの命が危ない気がしますし、話しておいた方が良いですかね?






 杏奈さんの毒舌訂正を受けながら前世の事件の話を一通りすると、スレイ様以外の六人が皆怖い顔になっていました。何で? そして――――


「残念ながらクリス。それはもう知られている」


 とっても怖い顔をしたお兄様が全然優しくない口調でとっても嫌なことを告げて来ました。


「「わたしと一緒に捕まっていた女はイチジョウアイナ?」目を覚ました時近くにいた私にマリア嬢は突然こう訊いて来た。違うとだけ言っておいたが、クリスの前世の名前だろう? クリスはもう彼女に狙われていると考えた方が良い」

「考えてみたら迂闊に名前を呼びすぎだったわ。ご免なさい藍菜」

「いえ、それは私です。真理亜さんだと気付いていたのに迂闊でした。本当にご免なさい」


 真理亜さんの存在自体が頭から消えていたわけではないのに、名前を呼んだら危険だということが抜け落ちていました。


「クリスは暫く外出禁止だな。それからどうするシルヴィアンナ? 辞めておくか?」

「いいえ、やるわ。エリントンの本気を見せ付けてあげなくてはね」


 ……笑顔が黒いですよ杏奈さん。


「なら、こちらも作戦を立てますかねクラウド様。マリア嬢を退場させる」


 お兄様? 退場って……。


「退場? 具体的には?」

「最強の援軍を呼びます。絶対協力してくれる筈ですから」


 ……お兄様まで笑顔が黒いです。






2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ