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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
148/219

#147.拉致犯と運び屋

 完全に失敗でした。明らかに玄人には見えなかった私達を拉致した方々。この方々が二人しか居なくなった湖からこの廃屋迄の間で何かしらアクションを起こすべきでした。後の祭りですけど。


「二人共連れて行きゃあ良いだろうが!」

「一人だ。我々は此所に連れて来られた女を一人、指定された場所に運ぶように言われただけだ。その女がどこの誰だとか、お前達がド素人だとかは関係ない。割り符を持ったお前達が連れて来た女を運ぶ。我々が請け負ったのはそれだけだ」


 私達を拉致した方々と、黒い布で目元以外を隠した覆面をした男性が言い争っています。覆面をした男性は声を意識して変えているのか不自然に低いですね。あ、体格が良くて声が男性っぽいだけで本当に男性かどうかは判りませんね。


「そんなこと言ったって、俺達は金髪の女を拉致して連れて来いと言われただけだ。見ての通り二人共金髪だしどっちが依頼人の狙いなのかは判らねぇ」


 恐らく十人以上の拉致実行犯が捕まって既に尋問が始まっていると思いますけど、金髪だけで連れて来られたとしたら、本当にどちらが狙いなのか私達にも分かりませんね。


「そうだ兄貴! 本人に聞いてみたらどうだ?」

「お! ネイツ。それは名案だな」


 ……弟分はネイツさんですね。分かりました。良く覚えておきます。


「何なのよあんた達! こんなことをして只で済むと思ってるの!」


 両手を縛られ更に腰を柱に縛り付けたまま、口に咬まされた縄だけを外されたマリア様が喚き散らしました。……学習能力がないですね。両方。


「あ! そいつはダメな方だ。あっちあっち」

「そんな侍女とは違って私はビル、ウッ」


 マリア様はマリア様で拉致された直後に暴れて今と同じようにお腹を殴られて黙らされましたし、ネイツさんはネイツさんで、


「だから傷付けたら金が半分しか貰えねえんだって言ってんだろうがよ!」


 兄貴さんに怒られるのはもう三度目です。

 傷付けないように運べと言われているなら、無体なことはされないだろうと暴れずに素直に従って機会を伺っていましたが……覆面さんの方は隙なんか無さそうですし失敗でしたね。


「……はあ。まさかここまで素人だとはな」


 呟きは聞こえませんでしたが、覆面さんが溜め息を吐きました。呆れているのでしょう。


「オイお前! 今日の午前中中央区の大通りの北に居たのは予定通りか?」


 午前中中央区の大通りの北? ……指示が曖昧過ぎませんか? 金髪という特徴が無ければ絶対成り立たない計画ですね。ただトンでもない偶然でエライ事態に成りましたけど。


「予定通りです」


 ルッカちゃんの所に行くのが決まったのは四日前ですからそれを知って計画を立てたのだとしたら間に合わない気もしますけど。いえ、微妙ですね。


「うびびばよべびなぶてなばっだ」


 この場合、標的でもそうでなくともこの先は危ういでしょう。なのに一生懸命首を横に振っているマリア様です。相手が信じるかどうかは考えていないのでしょうね。


「良しこっちを連れて行け」

「バカか。嘘を吐いているかもしれんだろうが」

「嘘を吐いているようには見えない。それに連れて行かれるのが分かっていて何でそんな嘘を吐くんだ?」


 ……依頼主は何故この方々を雇ったのでしょうか?


「依頼が完遂していなくともお前らはもう拉致事件の犯人だ。顔もはっきり見られている。そんなお前らから素直に解放して貰えるなどと誰が思う?」


 覆面さんの問い掛けに思わずマリア様を見てしまいそうになりました。……私は正直、マリア様が考えていることは理解出来ませんから。何故オルトラン様と距離を置いたのですか? 本当に理解出来ません。


「わばじぼあばじをづれでびびばさい」


 縄をくわえさせられたまま話すマリア様は、どうやら自分が彼らの狙いだと主張しているようです。変わり身の早さにビックリです。


「女。今日の予定が決まったのはいつだ?」


 質問をしたのは覆面さんです。だいぶまともな質問ですね。


「四日前です。でもこれがいつであるかはあまり関係ないことかと。見ての通り私は侍女ですから、私の予定は主の命令で簡単に変えられます」


 依頼主が高貴な人間とは限らなくても、その人間関係をこと細かに調べるなんて国家機関でも簡単には出来ませんからね。


「……なら名前は?」

「それを訊く意味があるのですか? あなた方は依頼主の目的も知らないですよね? 今までの話の流れから言って私もこの方も依頼主の目的であるかどうか自分達にも判断が出来ないと思います。仕事を完遂なされたいのなら二人共連れて行くのが無難な選択かと。そちらの方々にちゃんと情報を与えていなかったのは依頼主の手落ちです。あなた方に問題はない筈です」


 どちらが正解かは全く判りませんが、覆面さんの方がビジネスライクで交渉になる気がします。まあ依頼主の目的が分からないので交渉になるかどうかも分かりませんが。


「……チッ。オイ!」


 覆面さんが声を掛けると、所々壁の崩れたこの廃屋の様々な方向から十人近い覆面の人々が出て来ました。そして、


「おい! ちょっと待てなんだよ!」

「なんだよお前ら! おれらを捕まえても金になんかならねぇだろうがよ!」


 兄貴さんとネイツさんを拘束しました。二人共膝立ちにされて両手を押さえられています。更に、背後から回された手にはナイフが握られていて……。


「殺れ」

「待って!」


 最初から居た覆面さんが命令が下った直後、私は叫びました。


「それは依頼ですか? 違うのではありませんか?」


 ナイフが動かなかったのを見て間髪入れず質問すると、答えは返って来ませんでした。……この沈黙は私の質問が是である証拠でしょう。そして同時に、この方々には高いプロ意識がある事が推測出来ます。


「あなた方は、顔も見られていないし声も変えていますよね? このお二人を殺す理由はないと思います。知っていることを全て話してもあなた方は捕まらない。違いますか?」

「……コイツらを助けてもお前には何の利も無いだろう? 何故助けようとする?」


 当然の疑問ですね。


「人が死ぬのは見たくありません。凄く苦手なのです。

 それから、それを仰るならあなた方にもそれほど利はないのではありませんか? 二人の仲間のうち十人ほどは既に王国騎士に捕まりました。二人が知っていることならもう証言されていると思います」


 私の目をじっくり覗き込んだ覆面さんはそのまま少しの間沈黙して、


「追い掛けられても面倒だ。縛っておけ」


 穏便な決断を下しました。






 覆面さん達は幌馬車に私達を乗せ、そこで目隠しをして両足を縛ると大きな木箱に押し込みました。箱もロープもちゃんと予備を用意してあったようですね。

 そして、途中二回程乗り物を変え最後は台車のようなモノに乗せられ運ばれた場所で箱から出されました。いえ、感覚からの推測で実際のところは分かりませんよ?


「足の紐を切り目隠しを外す。暴れたら殺す。良いな?」

「はい」


 聞こえて来た声に素直に返事をすると、直ぐに目隠しが外され足の紐が切られました。


 居間? いえ、家具の配置や絨毯などは居間そのものと言った感じですが、窓がありませんし違いますね。何故か空気が淀んだ部屋です。もしかして地下?


「あっちの扉はトイレだ。使いたければ勝手に使え。当たり前だが逃げ道はない」


 ……座敷牢みたいなモノでしょうかね? そう思いながら部屋を見渡していると、


 ん?


「あの方は? あのままですか?」


 マリア様は目隠しをされ足も縛られたままです。あれ? 手枷が変わっていますね。あ、私もですね。これは……特殊な文字が刻まれた「魔力手錠」と呼ばれる魔法使い用の手枷です。これで拘束されると魔力を体外に放出し難くなります。私には何の意味もありませんが、用意周到ですね。


「奴は縄が解ける度に暴れる。今は大人しくしているが、移動中も箱の中で暴れていたから扉を開ける時は出来るだけ拘束しておく。俺達が部屋から出たらお前が好きにしろ。手枷があっても紐ぐらいほどけるだろう?」


 なんとなく気配は感じていましたが、何を考えているのか……。


「大人しくしていれば飯は食わしてやる」


 そう言い残した覆面さんは、トイレと反対側の開いていた扉から出て行きました。そして閉められた重厚そうな扉には、外側から鍵が掛けられたようです。閂が差し込まれた音がしました。


 扉の外に誰も居なくなった気配を感じたあと、マリア様の拘束を解くことにしました。目隠しは簡単に取れましたが、咬まされた縄と足の紐は手枷が付いた状態では中々外せません。

 苦労して漸く縄を外せたと思ったら、


「遅いわよ! 何もたもたやってるの!」


 怒られました。……本当に理解が出来ない方です。


「御免なさい。私も手枷をしたままなものですから」

「言い訳は良いからさっさと足もほどきなさいよ」


 偉そうな方です。平民だったのではないのですか?


「……なんなのこの部屋。まるであの部屋みたいじゃない。邪魔者三人が死んだ山奥の別荘のあの地下室」


 え! ……真理亜さん?






2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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