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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
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#146.拉致イベント

シルヴィアンナ視点です

 休みの日は観劇と決めているのに最近はそうもいかない。その理由は他でもないクラウド様だわ。私を夏至休暇の時に社交に連れ回したりするから、劇場でもお構い無しに方々から探りを入れられて観劇どころじゃなくなる。エリアスも縁談が進んでいてやっとクラウド様との協定の必要性も無くなって来た時に、ホント、迷惑な話だわ。


「はあぁ」


 やっぱり読書より観劇ね。もうあと一時間もすれば日が暮れる時間なのに今日読んだ分が全く頭に入ってないわ。一人掛けのお気に入りのソファーの手摺に読んでいた本を置き、溜め息を吐きながら天を仰ぐと、


「シルヴィアンナ様!」


 大声で私を呼ぶルチアが、ノックもしないで突然寮の居間に入って来た。……なんでこの子がここに居るのよ。在学中は子爵令嬢なのに最近侍女に戻ったような気でいるのよねルチアは。


「そんなに慌ててどうしたの? 焦らなければいけないこと?」

「クリスティアーナ様が!」


 藍菜?


「クリスティアーナ様がマリア様と一緒に拉致されました!」

「え!? マリア様と一緒に?」

「はいそうです」


 なにそれ。藍菜はマリアのことを知っているけどマリアは藍菜のことを知らない筈。その二人が何で一緒に拉致されるのよ。


「もしかしたらアンドレアスのイベントかもしれないです」


 アンドレアス? ……あ!


 抜かったわ。クラウド様のイベントばかり気にしていて、アンドレアスのイベントのことをあの子に話すのを忘れてた。


「行くわ。どこに居るの?」


 ソファーから急いで立ち上がると、読んでいた本が床に落ちた。いえ、そんなことはどうでも良いわ。


「どこって分かりませんよ。イベント通りとは限りませんし――――」

「藍菜の居場所なんて聞いてないわ。クラウド様がどこに居るか訊いてるの!」


 マリアと一緒だというのならまだ救いはあるけれど、このイベントは魔法技術か体力のパラメーターが低いと死んでしまうわ。


 主人公が。






 アンドレアスと主人公マリアが実質結ばれるイベントが、「拉致されたマリア」というイベントだった。「拉致されたマリア」は、拉致されて救出されるだけの単純な筋書きだけれど、全てのパラメーターが高くないとバットエンドに直結する。精神力と学力が足りなければ奴隷エンド、美貌と社交性が足りなければ娼婦エンド、魔法技術と体力が足りなければ死亡エンド。どれも負けず劣らずの最悪なエンドだけど、最悪死亡エンドさえ避けられれば希望はある。でも、愛菜に一番足りないのはどう考えても魔法技術。急がないと。


「シルヴィアンナ様? ちょっ。お待ち下さい。幾ら貴女でも今ここにお入れするわけに行きません」


 強引に割け入ろうとする私を近衛騎士が止めた。だけど今はこの騎士と問答している暇がない。


「退きなさい。今貴方がわたくしに道を譲っても問題は起きない。例え起きたとしたらエリントンの全権を持って償うわ」

「そう言われましても今は……」

「緊急時だからわたくしは約束も無しにここに来たのです。道を開けなさい」


 より強く言うと、門兵をしていた近衛騎士は渋々道を開けた。


「ありがとう」


 礼もそこそこに門を押し開けた私は、駆け足に近い速さで歩き出す。魔法学院の上位貴族男子寮、その第一棟の玄関に向けて。


 門を潜ると直ぐ見える玄関にも近衛騎士が立っている。門でのやり取りは聞いていただろうその騎士は私を招くように扉を開けた。


「感謝致します」


 その騎士にも歩きながら礼を言って建家の中に入った私は声を張る。


「シルヴィアンナです。クラウド様に大事な話が有って参りました」


 寮とは思えないような広い玄関に私の声が響くと、程無くしてお仕着せ姿の女の子が出て来た。


「え? シルヴィアンナ様?」


 驚いたようにバタバタと玄関に出て来たのは同じ年ぐらいの侍女。彼女がどこまで把握しているのか分からないけれど、今は時間がない。


「シルヴィアンナ様今は――――」

「時間がないの。貴女がどこまで知っているか知らないけれど、「クリスティアーナが死ぬ筋書きに入っている」そうクラウド様に伝えて」

「死ぬ筋書き!?」

「良いから早く伝えなさい!」

「は、はい」


 怒鳴るように言うとその侍女は足早に奥へ消えて行った。


「はあぁ」


 ……我ながら情けない。冷静さを欠いているわね。


 一分足らずで戻って来た侍女に連れられて、私は執務室らしき部屋に通された。普段ならそこに座るだろう奥の執務机には誰もおらず、手前のテーブルの周りに立っていたのは比較的体格の良い侍女とクラウド様、そして、


「アンドレアス様」


 兄だから当然だけど、普段遠目で見るより遥かに強いオーラが出てる。間違いなく怒りのオーラが。


「それで? ティアが死ぬ筋書きとは?」


 比較的冷静そうだけれどクラウド様も正気では無さそうね。普通なら二人には退場して貰いたいけど……良いわ。その時間も勿体ない。


「わたくしは事件の詳細を今まで誰にも聞いていません。わたくしに一報を届けたルチアから聞いたのは、「マリア様とクリスティアーナ様が拉致された」それだけです。その上でわたくしの話を聞いて下さい」


 侍女は顔を上げて少し驚き、アンドレアス様は冷淡とも言える怒気を孕んだ顔のまま私を見た。そしてクラウド様は、


「続けろ」


 急かすように先を促した。表情はいつもの無愛想顔だけど、一番冷静じゃないのはクラウド様かも。


「事件が起きたのは中央区の商店街。犯人は拉致をしたあと路地を抜け、馬車に乗って湖へ、船で南西の対岸に着くとそこで崖の上から垂らされた縄梯子を登り、最後は梯子を切られて逃げられた。違いますか?」


 これがそのままならイベントが起こっている可能性はかなり高いわ。


「……ほぼ正解だが、縄を切られて逃げられたのは違う。最後は人が落ちて来て逃げられたそうだ」

「人?」


 人が落ちて来た? どういうこと?


「拉致の実行犯は恐らく三十人以上居た。数任せに仲間を囮にして逃げる算段だったのだ。実際十四人を捕まえその中六人に回復不能の傷を負わせたが逃げられた。高速船があと一隻あれば回り込めたんだが……」


 犯人を捕まえた? ……イベントが終わっても犯人は捕まって無かったわ。なら偶然起きた事件ということ?


「拉致犯はなんと?」

「今日の午前中、中央大通りの北に金髪の女が現れるからその女を拉致してエルノア南西の沼地の廃屋まで連れて来い。奴らは全員こう指示されていたらしい。お陰で狙いがティアなのかあのバカ女なのかすら判らん」


 指示がいい加減過ぎるじゃない。なんでそんな命令に従うのよ。でも、最初の目的地が南西の沼地というのはゲームと一緒だわ。


「それでシルヴィアンナ嬢。クリスが死ぬ筋書きとは?」


 ……アンドレアス様が怖い。


「その話を今している暇はありません。南西の沼地を中継地点としたのは筋書き通りですわ。そして最終的な目的地は――――」


 これが外れていたら悪手だけれど、私とルチアだけで乗り込んだら返り討ちに合うなんてことも考えられる。少しでも援軍が欲しい。


「王都西方の古い別荘街。旧ビルガー公別邸」


 お願い。間に合って愛菜。







2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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