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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
146/219

#145.イベント発生?

 時は少し流れて十一月に成りました。ゲームの期間は今年一年ということなので、終了まであと二ヶ月です。


 暗殺イベントのことはルチア様から詳細に聞いてクラウド様にもお話しておきました。しかし、暗殺イベントは学院の寮で起きるらしいのですが、魔法学院の卒業は王族男性の義務ですから寮から居なくなることも学院を離れることも出来ません。

 だから回避するにはウィリアム様の好感度を上げるのが一番なのに、クラウド様は私と若い男性との接触は殆ど許可してくれません。いえ、殆どではありませんね。皆無です。一応親戚であるベイト家の方々は例外として、玲君、レイノルド様とも一対一ではお話させてくれません。相変わらずの独占欲です。まあ嫌ではないのですけど。

 いずれにしても、クラウド様は「ティアがウィリアムに接触する必要はない」と言いました。あれはウィリアム様に対する信頼なのでしょうか? それとも独占欲なのでしょうか? もしかして暗殺犯を返り討ちにしてやるとか思っていませんよね?

 兎にも角にも、ウィリアム様の私に対する好感度が高いとは思えませんので、暗殺イベントを回避する条件が整っているとは言えないでしょう。かと言って、ウィリアム様がクラウド様暗殺を企むと言うのも現実味がありませんけどね。クラウド様がいなくなってもキーセ様が居ますし、ウィリアム様にそこまでの野心は見えません。現状クラウド様を暗殺する利点らしい利点が見えないのです。

 ただ勿論、警戒しないわけにはいきませんので少し強引に警備を増やして貰いました。と言っても身内ですが。


 え?


 それはまあ当然、お兄様です。暗殺イベントが起きるのは十一月中だけということで、出産したばかりのお姉様には、申し訳ないですが一ヶ月ダッツマン子爵邸で生活して貰うことになりました。そしてお兄様には臨時講師として学院に来て頂いたのです。

 因みにお兄様とお姉様は普段貴族区の借家で生活しています。借家と言ってもゴバナ村の実家より広い一軒家ですけどね。


 普段も厳しい学院寮の第一棟の警備ですが、それに加えて「無双」と呼ばれるお兄様が居る。そんな状況ですから、暗殺の心配はあまりしていませんでした。いえ、暗殺イベントが起きたわけではありません。

 ただ――――


 こんなイベントは聞いていません。いえ、イベントではない可能性も充分にあるのですが、寄りにも寄ってマリア様も一緒に――――ですから、どうしてもそれを疑いたくなってしまいます。






 今日私はエルノアの中央区の繁華街で刺繍用品の買い出しをした後、「ダグラス服飾工房」を訪ねました。クラウド様が勝手に造ったドレス二本と、入らなくなって手直しして貰ったドレス五本に袖を通す為です。

 当然、私一人で来たわけではありません。リーレイヌ様と近衛騎士が二人も一緒です。まあ一応私も側妃ですからね。


 どうでも良いですがクラウド様。露出を控えろと言っている割に、新調した片方は背中は丸見えでお胸も……前世で普通にビキニを着ていた私が言うのも難ですが、人前であのドレスを着たいとは思えません。いえ、クラウド様が嫌がる気がするのに何故……。


「あ、そうだ。ルッカは観劇とか興味ある?」

「観劇? 格式高いところは嫌だなぁ。仕事以外でお貴族様に接したくないし」

「……来週末の「湖畔の友」の観覧券が手に入ったんだけどどうかな?」

「思いっきり格式高いところじゃない。もしかして買ったの? 鍛冶屋の下働きの給料じゃ買えないでしょう?」

「いや、贔屓にして貰ってるお貴族様からおやっさんが貰って来たらしい」


 店の奥の試着部屋でリーレイヌ様と一緒に七本目のドレスに袖を通し、生地の見本や型の並ぶ店の表に出て行くと、明るく元気な町娘と垢抜けない素朴な雰囲気の少年がお喋りしていました。

 良い雰囲気ですね。恋人ですかルッカちゃん。


「あ、クリス。それも同じ大きさで縫ったから大丈夫だと思うけど、どう?」

「はい。ピッタリです。流石はルッカちゃんです」

「褒めても代金はまけてあげないよぉ」

「値切ったりはしませんよ。それよりその方は? お客さんには見えませんけど、ルッカちゃんの恋人ですか?」


 ズバリ聞くと、少年は少し顔を赤くして目を逸らし、ルッカちゃんは、


「違うよぉ!」


 必死に首を横に振って否定しています。微笑ましいカップルですね。


「あまり長居はしたくありません。早く見て下さいルッカさん」

「あ! はい」


 リーレイヌ様に促されたルッカちゃんは私に駆け寄って来て、ドレスの細部を確認し始めました。

 七本目のこのドレスはクラウド様が勝手に造ったドレスで、露出の極めて少ないモノです。そんなドレスの脇や肩等を触り、あそびを確かめているルッカちゃんに声を掛けます。


「恋人ではないのですか? 整った顔立ちの優しそうな方ですけど」

「……クリスまでそんなこと言わないでよ。まあ優しいは優しいけど」


 ルッカちゃんの顔は少し赤くなっています。満更でもなさそうですね。


「幸せになって下さいねルッカちゃん」

「私は兎も角クリスはどうなの? お貴族様は十代で結婚するのが常識でしょう? もう十八だよ。好い人もいないの?」


 御免なさいルッカちゃん。私二年前から既婚者です。素敵な旦那様が居るのです。


「詳しくは言えませんが私は順調です」

「そうなの!? 詳しく言えないって王子様とか?」


 一気にテンションが上がったルッカちゃんです。やっぱりルッカちゃんもコイバナは好きなんですね。コイバナ食い付かない年頃の女の子なんて滅多に居ませんけど。


「それに近いですね」


 厳密には王太子様ですからね。王子様とは少し違います。まあ王の子供なのは確かですが、王子と表現してしまうと太子の地位を蔑ろにしていることになります。


「ルッカ。その人は貴族じゃないのか?」

「え? うん。男爵令嬢だけど友達だから」


 少年の質問にルッカちゃんは軽く答えます。お仕着せ姿ですから仕方がありませんが、リーレイヌ様は子爵令嬢ですよ?


「はい。良いよ。我ながら完璧ね」

「うん。ありがとうルッカちゃん。支払いはいつも通りね」

「まいどあり!」


 ルッカちゃんの元気な返事を聞いて踵を返した私は、試着部屋へと戻りました。

 因みに代金は月末に王宮へ請求されます。ドレスは一着でも高額ですからね。値段をちゃんと見ないでサインをし、結果離縁することになった側妃も居たそうですよ。






 お仕着せに着替えたあと、ルッカちゃんの店「ダグラス服飾工房」を出ようとした私達ですが、近衛騎士様が物を持っていたら護衛になりませんし、女の私達には七つもあるドレスの入った木箱を一度に運ぶことは出来ません。だから路地の奥にある「ダグラス服飾工房」と大通りの端に止めた馬車まで何回か往復するしかない。そんな会話をしていたら、ルッカちゃんの彼氏(仮)のロンさんが、「俺が手伝えば一度で運べるでしょう?」と名乗り出てくれました。

 悪いと思いながらも、ルッカちゃんの前で男らしい所を見せたいだろう彼にお願いをして、ドレスを運んで貰いました。


「ありがとうございました。助かりました」

「え? いや……大したことはしていなせんから」


 私達の使っている馬車が目に入った時から、ロンさんの緊張度は跳ね上がっていました。なぜなら今ロンさんがドレスの入った木箱を載せた箱馬車には大きな紋が描かれているからです。この国の大人なら誰でも知っているその紋は、剣と船が組み合わされたデザインです。そう。王家の紋です。平民であるロンさんが緊張するのも当然でしょう。「他の馬車を用意するのも面倒」と、この馬車を使うよう言われましたが……バレても知りませんよクラウド様。


「いえ、ルッカちゃんにも宜しくお伝え下さい」

「うん。分はった。じゃあ」


 全く緊張が解けていないロンさんは、ドレスを運び込んだ歩道から何故か私達の馬車の前に回り込み、駆け足で大通りの向こう側へと渡ろうとして――――


「危ない!」


 ――ドン――


 結構な速さで走る馬車の前に飛び出してしまったのです。慌てて止めようとした近衛騎士のロイヤー様の声も虚しく、馬に跳ねられたロンさんの身体は一瞬宙を舞い石畳の道に激しく打ち付けられました。


「大丈夫か!?」


 ロイヤー様がロンさんに駆け寄ります。同時に大通りは騒然とし始めました。ロンさんを弾いた馬車も通りの端に止まり、慌てた馭者さんが駆け足でロンさんの方に走って来ています。


「お待ち下さい」


 無意識にロンさんに向かって歩き出していた私の肩が、男性の大きな手に掴まれました。


「私の見た限り頭を打ってはいませんでした。死ぬようなことはないでしょう。彼のことはロイヤーに任せて貴女は馬車に」

「……はい」


 もう一人の近衛騎士ヘイトル様に止められた私は渋々馬車に戻ることにしました。


「あ、ルッカちゃんに知らせた方が良いのではないでしょうか?」

「……クリスティアーナ様はここに。私が行って来ます」


 ヘイトル様と一度を目を合わせて直ぐに結論を出したリーレイヌ様は、足早に路地に入って行きました。……側妃って窮屈な身分ですね。あ、正妃だともっとですか?


 え?


 馬車の扉の前まで戻ると、騒ぎで集まって来た人混みを掻き分け歩道をこちらへと歩いて来る一人の少女が私の視界に入りました。事故を見て形成され始めた人垣を意に解さず黙々と歩くその金髪碧眼の少女は、


「マリア様?」


 魔法学院の制服姿のマリア様でした。


「……何故こんな所に? しかも一人?」


 そうです。マリア様はお一人なのです。幾ら勘当に近い状態にあるとは言え、流石に公爵令嬢が王都の中央区を一人で歩いているなんてあり得ません。何かあったのでしょうか?


 私達に一切気付かず少し下を向いて歩くマリア様が、馬車の斜め後方に位置する「ダグラス服飾工房」の在る路地の前まで来たその時、人垣を抜けた町人姿の大男がマリア様の真後ろから組み付かん勢い走って来ました。そして、その男は走って来た勢いのまま、


「痛っ! 何? 何すんのよ!」


 マリア様を肩に担ぎ上げ路地へと向かいました。


「ぬふっ」


 いえ、素早く反応したヘイトル様の足蹴りによって大男は止められ、あっという間にマリア様は解放されました。そして男もヘイトル様に組み伏せられたのです。流石は近衛騎士様ですね。目にも止まらぬ早業で、大男は路地の手前でうつ伏せにさせられ剣を向けられています。


 あまりに鮮やかな救出劇に呆然とそれを見ていた私。マリア様も、連れ去られようとして次の瞬間救出されるという事態に理解が追い付いていないようです。


 ですから二人共、その次に起きた事態には一切対処出来ませんでした。


「金髪の女が二人居るぞ。どっちだよ?」

「……両方拐っちまえ!」





2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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