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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
144/219

#143.進む縁談

「こんにちは皆さん」

「クリス! 久しぶりぃ。昨日は凄く良かったよぉ。あれだけ演技出来れば役者に成れるねぇ」


 いえ、二週間ぶりですからそれほど久しぶりではないですよ?


「王太子の側妃様に成る女が劇団で女優をやる意味がどこにあるのよ」

「だよねぇ。あ! 考えてみたら妾の集いなのに妾より妾じゃない子の方が多いよぉ」


 元気ですねぇイリーナ様。


「そもそも侍女の集いであって妾の集いでは無かったかと」

「えークリスは微妙だけど皆妾の集いだって聞いて集まったんでしょう?」

「私を引き込んだ時イリーナさん侍女の集いだって言っていましたよ」

「あれ? そうだっけぇ? まあいっかぁ」


 ……いつも元気ですが、いつも以上に元気ですねイリーナ様。


「妾の集いだろうと侍女の集いだろうとあたいらがそういう存在だってことに変わりはないわ。シャーナ以外は二番以降」


 相変わらず現実主義ですねジョアンナ様。


「クリスは王太子様相手だから解るけど、ソアラなら正妻に成れるんじゃないの? ソアラだって一応士爵令嬢でしょう? 処女じゃないけど」


 初婚の場合確かに貴族はそれを求めますが、そんなにそのイメージが強いのですかね?


「最悪子供の王位継承権が認められないだけで、生娘かどうかはあまり関係ないです。

 ただ、ウィリアム様はジョセフィーナ様との縁談がかなり具体的に進んでいますから、余程のことがない限り近いうちに決まってしまうと思います」

「え? あ? そうなの?」

「はい。ウィリアム様ご本人もそう仰っていました」


 正妃争奪戦で完全に部外者扱いになっていましたからねジョセフィーナ様は。ただ、派閥の長の嫡子であるエリアス様やカイザール様の方が影響力は大きい筈なのに、現状婚約者の決まっていないお二人を差し置いて第三王子のウィリアム様に狙いを定めた理由が謎です。


「カイザール様も決まりそうだって言っていたわ」

「ハンナ様ですか?」

「ええ。今年中にはヨプキンスの王都屋敷に行くことになるって」


 クラウド様は「来年早々には決まる」と言っていました。思っていた以上に動きが早いようですね。


「それってもう決まりってこと?」

「貴族の結婚の手順なんて知らないわよ」


 ……ジョアンナ様はあまり興味がなさそうです。ああ、ジョアンナ様は元娼婦ですからね。相手が他の女性と関係を持っているなんて当たり前なのかもしれませんね。

 そして、皆は私に視線を集中させました。


「間違いないですよね?」

「訪問目的によります。社交として訪れるなら婚約には至らないことも充分あり得ますが、カイザール様がわざわざ今年中に訪問すると仰ったのなら、社交ではなく婚約を前提とした挨拶に行くということだと思います。ただの推測ですけど」


 因みに社交か社交ではないかの差は招待状の有無で明確に別れています。適応される法律が全く違いますからね。


「社交なら夏至休業中に何度も会わされたらしいわ。ベルノッティの晩餐会に招いたとか」

「一般的に晩餐会は縁談の最後ですから、それは決まりかもしれません。そのあとはもう社交ではなくて個人的な交流に成りますし……」


 縁談を進める為に社交をしている場合、大抵晩餐会に至る前に婚約が成立しているのです。家同士の最終確認が晩餐会となるのです。日程の関係でそうならないことも度々ありますが、嫡子の場合、男性の家に相手と両親を招く晩餐会は、開催出来た時点で双方が婚姻を承諾しているのと同じと取られます。


「決まりっぽいね」

「そうね」


 どうでもいいわ。そう言いたげに素っ気ない態度のジョアンナ様です。


「カイザール様と何かあったんですか?」

「何かって? 何でそんなこと訊くのよ」


 シャーナ様の質問にはいつものトーンで返したジョアンナ様です。


「カイザール様が結婚する相手に興味ないみたいですから」

「元々興味がないだけよ。結婚を決めるのがカイザール様ならまだあたいが何か言えば良いかもしれないけど、決めるのはベルノッティ侯爵なのよ? あたいがどうにか出来る筈ないじゃない」


 そうと解っていても悪足掻きをしてしまうのが人間だと思いますが……ジョアンナ様が後ろ向きになっているようには見えないのでこの件は触れないでおきましょう。


「どうにも出来なくても普通気になるモノじゃないのぉ」

「そうですね。愛妾と側妃ではだいぶ感覚が違いますが、どういう方が正妻に成るかはとても気になります」

「あんたらがそうだとしてもあたしは気にならないだけよ。それに関しては身分と同じぐらいあたしらは無力なのは事実だわ」


 相手の気持ちを変えられる可能性がある分だけ身分よりはましですが、ある程度は現実として受け入れるしかないのは確かですね。これを覆すのは並大抵の努力では出来ないでしょう。


「感覚は人それぞれですからね。ジョアンナさんは誰が相手でも嫉妬とかしなそうですし。

 関係ないですけどその動きはやっぱりクラウド様がシルヴィアンナ様を正妃をするだろうという話が真実味を帯びて来たからですか?」


 シャーナ様がこれを言うなら、夏至休業中の社交活動も意味が有ったということですね。


「まだなんとも言えません。ビルガー公はマリア様の代わりにリシュタリカ様を担ぎ上げましたから降りる気はまだないでしょうし、ヴァネッサ様に他の縁談が進んでいるとは聞いていませんからベルノッティ侯も降りる気はないでしょう。なによりクラウド様自身はまだ決断する積もりはなさそうです」


 クラウド様は相変わらず私を正妃にする気満々です。来年の年末のクラウド様の魔法学院卒業に合わせて私が準正妃であることが発表されて、その後二人で社交界を荒らし回ることになると思います。

 私を正妃として認めさせる為には今までのように座っているクラウド様に挨拶に来る貴族だけを相手にしているわけにいきませんからね。出席者全員に挨拶する勢いで王太子が社交会場中を歩き回ることになるでしょう。何かしら特別な事態が起こらず私を正妃にすることになればの話ですけどね。


「ん? ヴァネッサ様から縁談が来たとかエリアス様が言ってたよぉ」


 ヴァネッサ様とエリアス様ですか? ……またゲームと同じですね。


「ヴァネッサ様ですか。ハンナ様も気の強い方ですが、ヴァネッサ様はもっとですよね」


 ソアラ様。イメージだけでモノを言っていませんか?


「まだ話が来ただけだって言ってたよぉ」


 え?


「ビルガー公から話を持ち掛けたわけではないのですか?」

「エリアス様はそういう言い方をしてたぁ。でもクリス。何でそんなこと訊くのぉ? どっちから話を持ち掛けたかなんてどうでも良いことでしょう?」


 いえ、ビルガー公から話を持ち掛けたのなら正妃候補を一人減らす為の動きですが、


「ベルノッティ侯爵からヴァネッサ様の縁談を持ち掛けたのだとしたら、革新派が正妃争いから降りて外征派と手を組む為に動いたことになります」


 ビルガー公がこれを受け入れる可能性は少なくないでしょうし、正妃争いの情勢は急変するかもしれません。


「ただ、ヘイブス家は色々と問題があるので革新派がリシュタリカ様を担ぎ上げるとは考え難いですけど」


 あ!


「もう私はヘイブスとは関係のない人間ですから私に気を使う必要はありませんよクリスさん」

「もう心も体もウィリアム王子のモノだものね」


 え?


「ホント良かったですねソアラさん。おめでとうございます」


 顔を真っ赤にして照れるソアラ様は可愛いですが……意外に手が早いのですねウィリアム様。


「おめでとうございます。と言うのも何か変ですが、ソアラさんが幸せに成れたのなら良かったです」

「おめでとうだよぉ。おめでとうに決まってるじゃんクリス」

「好みの女と、しかもソアラみたいな美人と一緒に生活していて一ヶ月近くも手を出さない方がどうかしてるわ。まあでも学院を卒業したら側妃にしてくれるってはっきり言われたんだからそれはおめでとうね」


 一ヶ月近く手を出さない方がどうかしてる? そういうモノなのですかね? でも王族の方なら美人の侍女が傍に居るのは普通で……好みの女性とは限りませんね。

 ああでも、クラウド様は一応私が好みなわけですよね。クラウド様の部屋で二人キリで居ることも少なくなかったですし……って、


「ヨーゼフ様はどうなってしまうのですか?」

「超硬派なヨーゼフ様は例外」


 例外で片づけてしまうのですか?


「あ! クリスさん。イリーナさんはおめでただそうですよ」


 えええ!


「赤ちゃんができたのですか? 本当に?」


 思わず声が一段高くなってしまいました。


「う、うん」


 真っ赤になった顔を俯かせ照れながら返事をしたイリーナさんです。


「屋敷に部屋を用意して貰ったらしいわ」

「エリアス様も喜んでらしたのですよね?」


 その後私がイリーナさんに集中放火を浴びせたのは話すまでもありません。






2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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