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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第十章 入れ替わった主人公
143/219

#142.新魔法

クラウド視点です

「クリスティアーナ!」


 コーネリアス王子とクリスティアーナ姫の婚姻の誓いの寸前になって舞台に飛び出した私が愛しい人に駆け寄ると、その手前で名も無き騎士役の学院生に止められた。……演技だと分かっていてもティアに近付けないことでこの男のことを恨みがましく思ってしまった。どうしようもないな。

 しかしティア。胸の開いたドレスは着ないように言ったのに、結局着たのだな。ギスタの姫の早着替えは「魔劇祭」で唯一演劇らしい見せ場の一つだから早く着られる型を選ぶしかないが、よりによってあんなに強調されたのを……まあ今日引き摺り出したのは私だから何も言えんが。


「クラウド様? 何故貴方がここに?」

「君を迎えに来たのだ我が愛しの姫よ」

「迎えに? 自ら姫を裏切っておいてそんなことを?」

「私は姫を裏切ってなどいない。私の心は間違いなくクリスティアーナ姫にある。単身イダーツに乗り込んで来たのがそのなによりの証拠。

 コーネリアス王子。貴方には悪いがクリスティアーナ姫は私が貰い受ける」

「クラウド様……」


 想いを口に出来ないティアの切なげな瞳が私を捉えている。その美しい色に私は心を奪われた。


 毎日見ている筈の彼女にまた見惚れた? いや、今のティアはいつもの数倍美しい。……もしかしたらティアはずっともどかしい思いをしているのではないか? 公然と私に対する思いを告げることが出来ずに。


「クリスティアーナ。ウィリアム王子から聞いた。君がギスタから離れたのはエリアス王の後妻ヴァネッサに追い出されたからだと」

「クラウド王子。それは本当?」

「勿論です女王陛下。貴女の前で嘘偽りなど申しません。偽りなど述べたところで貴女ならば私の嘘などいとも簡単に見抜けるでしょう」


 シルヴィアンナなら本当に見抜きそうだから怖い。それにしても……はまっている。姫役より女王役の方がシルヴィアンナに合っているのは間違いないな。エリアスのギスタ王役もはまっているが、シルヴィアンナのイダーツ王役が上だ。


「クリスティアーナ姫。クラウド王子の言うことに間違いはありませんか?」

「……ヴァネッサ様はわたくしと親しかった召し使い達を城から追い出し、実兄カイザールを疎み、腹違いの兄ウィリアムを寵愛していました。わたくしの居場所はギスタの城にはもう無くなっていたのです」


 民を虐げるヴァネッサに脅されて城を出るのが第二章のシナリオだ。だから実際は民の為に城を出たのだが、その本当の理由を言わないところがティアがギスタの姫役のイメージに合う部分だな。


「なら貴女の想いはどこにあるのかしら? ギスタの姫ではない、貴女自身の想いを偽りなく教えて欲しいわクリスティアーナ」


 シルヴィアンナ女王と正対していたティアが戸惑いながらもゆっくり私に近寄る。そして、手の届く範囲まで来たティアは私を見詰めて想いを吐き出す。


「お慕いしておりますクラウド様。わたくしは生涯クラウド様に尽くし、全てをクラウド様だけに捧げたく存じます」


 強い。強すぎるぐらいだ。その青い瞳もその小さな顔に浮かんだ真剣な表情も、その言葉が嘘偽りないモノであるとはっきり告げている。そして当然、その言葉からも強すぎるほどの想いを感じる。……客が演技だとは思わないのではないか?


「クリスティアーナ姫。貴女が私の想いに応えてくれて本当にうれ――――」

「待てクラウド王子! 貴方に決闘を申し込む」






 イダーツの王子コーネリアスとの決闘で圧勝したルドアの王子、詰まり私は、イダーツ王、シルヴィアンナ女王との話し合いで「三国同盟」の確約を得る。そして、クラウド王子はクリスティアーナ姫とイダーツのサリサ姫の二人を引き連れギスタの城へと向かい、シルヴィアンナ女王とクラウド王子に惨敗し虚勢を張ることのなくなったコーネリアス王子は、開戦の機運高まるベローフ平原へと向かう。その暫しの別れの場面で第四幕は閉じる。


 第五幕はルドアとの戦争でエリアス王や騎士達が殆ど出払ったギスタの王城が舞台だ。

 冒頭で人が疎らになった城で横柄に振る舞うヴァネッサが演じられ――本人は否定するだろうがはまり役だ――そんなヴァネッサを廃そうと、廃嫡された第一王子カイザールが立ち上がる。しかし、危うく返り討ちになるところで我々三人が到着する。


「もう生かしておく価値は無いわ。消しておしまい!」


 ヴァネッサが冷たく言い放つとその両脇にいた悪の魔法使い役二人が同時に火の魔法を放つ。実際は弱いが、身長より大きいように見せた<火球>だ。

 本当は悪女役本人が魔法を放つのだかな。ヴァネッサは魔法を使えなくはないが、上手く操作が出来ない。人に向けて射つ許可は下りなかった。

 それは兎も角、<火球>はカイザールに当たらず霧散した。まあ厳密にはカイザールの身体に向けて放たれたわけではなく客席から見て当たるように見えるだけだが、霧散したことに変わりはない。これは、魔法に詳しい者が見れば普通の現象だ。


 反魔法アンチマジック


 文字通りの魔法を打ち消す魔法だ。打ち消す魔法の種類によって様々な反魔法が存在するが、魔法学院二年の修了試験は一種類でもこれが使えなければ合格出来ない。

 今のも当然、その中の一つ火系魔法を打ち消す反魔法が使われただけで、何ら不思議な現象ではない。


 但し。


 打ち消すと同時に煙のように霧が発生しなければの話だが。


「きゃー」「嘘だろう?」「失敗?マジか!」「オイ!大丈夫か!?」「いや、演者は慌てていないから大丈夫だろう?」「確かに慌てていないが本当に大丈夫か?」


 客席が多少騒ぎになるのは予想通りだ。何せ私も昨日初めて見た魔法だからな。

 広い舞台の約半分を一瞬にして覆った濃い霧。爆発したかにも見えるその魔法を使ったのは、他でもないティアだ。詳しくは知らないが、まず<湧水>を使いそれを<火種>で蒸気にして更に<冷却>で霧にするのだとか。一瞬にして三つの魔法を、しかも離れた位置でそれを行うなど、幾ら生活魔法でも普通は出来ない。

 ティアの魔法の技術はそれだけ繊細で高度なのだ。……魔技能の値を疑いたくなる。本当に1なのか? いや、1だからこそ繊細な魔法が使えるのかもしれないな。魔技能値は扱える魔法の規模にも大きく影響する。事実私は繊細な魔法を使うのはあまり得意ではない。

 とは言うものの、魔技能値が高ければ魔法の習得が楽な傾向が強いのも事実だがな。


 客席が騒ぐ中、悪の魔法使い役が風を使い霧を吹き飛ばすと、


「おおお!スゲー完全に無傷だ。新しい魔法だったんだな?」「演出だったかやるな」「クラウドさまぁ!」「良いぞ!」「ステキよ」「カッコイイーわぁ」


 カイザールを守るように我々三人が舞台の中央に現れた。……霧が晴れた後も大騒ぎだな。






 ヴァネッサを追い出し、ギスタの王子カイザールも三国同盟を確約し、カイザールを含めた四人でベローフ平原に発ったところで第五幕は閉じる。


 そして最終第六幕。今日では第五幕までも色々と細かな演出がされるようになったわけだが、「魔劇祭」は本来、この第六幕の為にあると言っても決して過言ではない。


 第六幕の舞台はベローフ平原。ヨーゼフ王率いるルドア軍とエリアス王率いるギスタ軍。その戦争が描かれるのだ。

 両軍が総力戦を演じる場面では、学院の劇場の広い舞台が狭く感じる程の人数が舞台上で犇めき合い、相当数の魔法が飛び交う派手な演出がされる。過去に死者まで出した為中規模魔法の使用が禁止された今では、小規模の魔法を大きく見せる技術の高さが求められる。

 飽くまで祭りでしかない「魔劇祭」だが、この演出を観る為に観覧券は高騰し観客は上流階級の者に限られる。そして逆に、この舞台で目立てばそういう“ツテ”ができる。魔法師団を目指す者にとっては就職が掛かった舞台だ。


 派手な衝突を何度となく繰り返した両軍が共に疲弊し始めたころ、突然ベローフ平原に乱入した軍勢。他ならぬ、シルヴィアンナ女王が率いたイダーツ軍だ。

 ただ、例年なら一番派手な演出がなされた後に両軍の真ん中に歩み出る形だが、今年は派手な衝突の真っ最中に強引に割り込んだ。イダーツ王は本来もっと慎重な役だが、今回はどう考えてもシルヴィアンナ用に台本が変わっている。


 兎にも角にも、イダーツ女王の乱入で戦局は硬直した。しかし王子も王女も不在の話し合いは決裂、イダーツを挟む形で再び戦いの火蓋が切って落とされようとしたその瞬間、非常に強い光が舞台の真ん中に現れる。目映い程の強いその光が収まった時三つの軍勢の真ん中に現れたのはクラウド王子とクリスティアーナ姫、カイザール王子、サリサ姫の四人だ。程なくして、ルバーナ姫も騎士レイノルドを伴いベローフ平原に到着する。


 ティアには劣るが、サリサ嬢に退けを取らないルンバートは一体なんなのだ。ルバーナ姫が男だと知れ渡ったらそれだけで騒ぎになるな。


 「魔劇祭」は、三国同盟が成立し、ルドアの王子クラウドとギスタの姫クリスティアーナ、ギスタの王子カイザールとイダーツの姫サリサ、イダーツの王子コーネリアスとルドアの姫ルバーナ、それぞれが結ばれて幕を閉じた。






 戦争の演出も例年以上という評価を受けた今年の「魔劇祭」だが、その後王都で話題になったのは、シルヴィアンナ女王と姫役を勤めた伯爵令息、急遽代役を演じた金髪の男爵令嬢それから、霧魔法だ。


 演技でもハンナと結ばれるのは御免だった。それは間違いないが、


 ティア、活躍し過ぎだ。







2015年十二月中は毎日午前六時と午後六時の更新を“予定”しています。

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