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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#13.虐め?

 揺れる馬車の中、暇な私達はどちらからとなく話し始めてずっとお喋りをしています。クラウド様は、無愛想ですが人見知りでも無口でもありませんからね。


 「無二の俊傑」なんて称される王子様はやっぱり頭の良い人です。学業も私より進んでいるようで、大陸の地理や世界情勢の話なんかは付いていけませんでした。まあそもそも話題が男の子向けでしたけどね。お兄様とクラウド様がドレスやお菓子の話をしていたらそれはそれで残念ですけど……。


 それから「何故ゴルゼア要塞に居たのか?」の質問には「公務でルダーツへ行った」としか答えて貰えませんでした。最初からちゃんとした答えが帰って来くるとは思っていませんでしたが、兎に角「縁談ばかり持ち込まれて大変だった」とだけ言っていました。「良い娘はいなかったのですか?」と訊いたら余計に無愛想になりましたけどね。よっぽどしつこいご令嬢でも居たのでしょうか?


「あと五年したら手合わせしたい」

「楽しみに待っています。ただ五年したら私も成長していますから。間違いなく身体も剣も。十年にしませんか?」


 お兄様とクラウド様は思った以上に仲良くなったようです。最初のやり取りから考えるともう少しギクシャクするかとも思ったのですが、そこは男と女の違いですかね? 剣の話なんかだと意気投合って感じです。


 私がまったく入って行けないので少し寂しいですが……


 あれ?


 さっきまで隣に座っていた筈のお兄様が何故か目の前にいます。何があったのでしょう? 寝ていたのでしょうか?


 何故か身体が動きません。何が起こっているのでしょうか?


「寝てて良いよ」


 お兄様の優しい声が聞こえて来ました。夢ではないようです。ああ、やっぱりお兄様の爽やかな笑顔は最高です。クラウド様がこんな笑顔をしたら無敵でしょうに、本当に残念です。


 そう言えば、お兄様が目の前に居るとしたらクラウド様は?


 ん?


 良く考えなくても私の視界は斜めに傾いています。何が頭を支えて、いるので、しょうか?


 あれ、ダ、メ、です。まぶ、た、がお、もい――――






 その後目を覚ました私が大慌てしたのは語るまでもないことだと思います。

 よりによってクラウド様の肩に寄り掛かって寝るとかあり得ません。それを止めないお兄様もどうかしています。クラウド様はクラウド様で何故か笑っているし、皆意地悪です。


 ああでも、声を上げて笑うクラウド様は初めて見ました。やっぱりイケメンは笑ってこそイケメンですよね。


 え? クールイケメン?


 ドラマや映画ならありだと思いますが、現実では無しです。少なくともそういう人に恋は出来ません。だって笑ってくれなきゃ相手が幸せかどうか判らないじゃないですか。何が嬉しくて何が嫌なのか判断出来ないんですよ?


 話を戻しましょう。


 私が醜態を晒しているのを放って置くお兄様に対して多少理不尽に憤慨しながらも、馬車は順調に進み二日目の午後三時過ぎには王都に入る関所を過ぎました。そして私とクラウド様は「そこまで気にする必要は無いと言えば無いですが、変な噂になったら面倒でしょう?」そう言った近衛騎士団の小隊長さんの言葉に従って、王都の中心街の少し手前で別れバラバラに王宮へと戻りました。ご配慮に感謝致します。

 クラウド様の初恋の噂もありますからね。その相手が私だなんて間違った噂が広がったら大変です。いえ、間違った噂でなかったとしても噂は無責任です。次期王太子として色々大変ですね。


 第三門(受付の在る横門)までお兄様に送って頂いて王宮に入った私は、レイテシア様とポーラ様に帰還の挨拶をして自室に戻りました。


 ミーティア様はまだ帰って来ていないようですね。数日人のいなかった部屋って独特の空気がありますからね。


 そんな少し寂しい空気を感じていたら、唐突に扉が開く音がします。それに気付き振り替えると、


「失礼しました。誰もいないと思っていたものですから。お帰りなさいクリスティアーナさん」

「只今戻りましたエミーリア様。いいえ。鍵を掛けなかった私が悪いのです。」


 そこに居たのは女官長エミーリア様でした。何か用でしょうか? あ、いないと思っていたのなら私に用はありませんね。


 ん? 誰もいない部屋に用ですか? 泥棒ってことはありませんね。後宮に現金なんか置いてありませんし。

 因みに後宮官僚の給料は国が管理していて外に出る時任意の額を引き出せます。要は銀行振込です。「国なんか信用出来ない!」という人は実家預かりに出来ますが、いざ使う時に使えなくなるので大抵は国に任せます。あ、出したお金を使い切らない時もあるから少しは現金があるかもしれませんね。ただエミーリア様がそんなことをするとは到底思えません。


「こんな時間にこんな部屋に、どうなさったのですか?」

「ミーティアさんの机はそちらですか?」

「はい。ミーティア様が何か問題でも?」


 本人の居ない時に個人の机を調べるなんて普通では考えられません。ミーティア様が何か問題を起こしたのでしょうか?

 ミーティア様は打ち解けると普通のお淑やかなご令嬢ですが、人見知りでやや気の弱い所がある方です。問題を起こすような方ではないと思うのですが……。


「いいえ。問題が有るとしたらミーティアさんではなくその周りだと思われます。彼女自身を疑っているわけではありません」


 周り……この場合私。ということはないと思いますし、レイテシア様付き侍女陣でもないと思います。そうなれば、


「牡丹組?」


 侍女見習いの同級生、しかありません。私は年齢の都合上組分けはされていませんが、侍女見習いの一年生は、牡丹組と薔薇組の二組に別れて授業をしています。ミーティア様は牡丹組に入っていたのですが……。


「確証はありませんが……。

 クリスティアーナさんは何か知りませんか?」


 エミーリア様は沈痛な面持ちです。少し悔しそうでもあります。


「何かと仰られましても具体的にどのような疑惑が?」

「……貴女に聞かせて良い話ではありません。と言いたいところですが、それでは納得してくれないでしょう?」


 ここまで来てそれは酷いです。気になりますし気にします。


「はい大丈夫です。それになんとなく解ります。嗜み講座は一緒ですから」

「そうですね……ミーティアさんは恐らく孤立“させられて”います」


 ミーティア様がされているのは、平たく言えば虐めですが、面倒なのはそれが表になり難い局面で行われていることです。

 例えばダンス教室。ダンス教室は、後宮を出て男性とパートナーを組んで練習することもあります。しかし、早々何度も後宮を出入りさせるわけにはいきませんので女性同士でパートナーを組んで練習することが大半なのです。

 そして侍女見習いには仕事がありますので、毎回全員が揃うわけではありません。奇数になってしまうことも度々あるのです。そんな時“余ってしまう”のが毎回のようにミーティア様だったりします。そう。誰も意図していないのにそうなって“しまう”のです。勿論見せ掛けですが。


 そして私は、その“犯人”にも目星が付いています。


 具体的にどうやって他の侍女見習い達を動かしているかは分かりませんが、その犯人が“彼女”である可能性はかなり高いと思います。先輩侍女の居る前では完璧な淑女を演じている“彼女”が。


「リシュタリカ様にですか?」


 私がそう言うとエミーリア様は驚いたように目を見開きました。予想外だったのでしょうか? これは深刻ですね。






今日から五日連続更新になります。次回 2015/09/19 12時更新予定です。 


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