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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第九章 暗躍する王子
136/219

#135.一つしかない選択肢

マリア視点です

 あり得ない。何で?


 ウィリアムは間違いなく好感度が上がっていた。ずっとあの笑顔で私を見ていたのに何で? いつ話し掛けても優しく応対してくれたし、好感度が下がったような接触なんて一度も無かったじゃない。

 そうよ。私は何もミスしてない。ウィリアムは頭の良い女が好み。たぶんこの設定は変わってない。だから私もゲームと同じように賢い女を完璧に演じてた。どもったり取り繕ったりしたことなんて一度も無かったのに、何であんな好感度が最低の時のイベントみたいな冷たい言い方をしたわけ?


 ただ、言葉は冷たくても顔はあの柔らかな笑顔のままだった。……あれはやっぱり嫉妬イベントだったのかしらね? 独占欲イベント。そんなの記憶にないけどオルトラン以外個別イベントらしいイベントは無かった。設定が変わったから発生条件が分からなかっただけで、偶々条件が揃って起きた可能性もあるわね。でも……オルトランは兎も角ハビッツなんてゲームには出て来ない。ハビッツに嫉妬するイベントなんて普通考えられない。


 それとも、私の知らない隠しキャラが居たのかしら? いえ、それは考え難いわ。“コイガク”の隠しキャラは四人。まず一番有名なアンドレアス。それから王子達の弟のワンコキャラの王子。三人目が街をうろつくと出て来る幼馴染み。四人目が既婚者の他国の王子。通常の攻略キャラが七人居るんだから数もキャラ設定も充実してる。何より、隠しキャラはイベントが進むとある程度出て来るのに、侍従なんて一度も出て来なかった。ハビッツがゲームに居た可能性は低い。


 詰まり、あれはイベントではなく単純に別れを告げただけ。しかも「二度と話し掛けるな」なんて完全な拒絶の言葉で。


 くそ! あの腹黒王子! あんたの為にわたしの貴重な時間をどれだけ割いたと思ってるのよ! チョームカつく!


 エリアスとは偶に食事をするだけだし、他のキャラはもう一切私に興味を示してない。残っているのはもうオルトランだけ。最悪だわ。

 ……カイザールにはまだ何も言われていないし、まだ間に合うかしら? いえ、もう九月。流石に無理だわ。それこそオルトランみたいにイベントが起こるなら話は別だけど、カイザールにもイベントは起こらない。


 もうオルトランに専念するしかない。


「どうしたマリア。考え事か? 私の前では美しくいてくれなくては困るぞ」


 ……ナルシストって実際付き合うとメンドクサイのよね。コイツの場合本当に筋金入りだし。


「前にも言った通り、あなたと会っていることが公爵にバレたらわたしは縁を切られてしまいます。こうやってお庭で密会しているといつバレてしまうか分かりませんので、これからもっと少なくなってしまうでしょう。わたしはそのことを嘆いているのです」


 精一杯の悲しい目付きをして、掠れた声で話す。コイツにはこれぐらい過剰でも問題ない。きっともう好感度は最大値に近いしね。実際、ハーレムの人数が随分と減って、今残っているのは四人だけ。やっぱりソアラって女はいないけど、あのマーガレットって女には注意が必要ね。あれは人を刺しかねないタイプだわ。


「……ウィリアム王子とは決別したらしいなマリア」


 え? まさかオルトランも?


「決別も何も私はウィリアム様に特別思いなどないですわ。だって私には心から美しくなろうとしているオルトラン様を支える義務がありますもの」


 未だに一部ハーレムモブを寮の部屋に連れ込んでるこの男の何処が心から美しくなろうとしているのかさっぱりだけど、これぐらいの言葉は必要ね。


「ではウィリアム王子からは何を言われたのだ? 今日随分と話題になっていた」

「ウィリアム様は私がオルトラン様と仲良くしていることをご存知のようで、自粛しろと言われただけです。強い口調で言われたので誤解を生んだようです」

「決別したのではないのか?」


 やけに決別に拘るわね。まあウィリアムも諦めるしかなさそうだし、言っちゃても良いか。


「決別と言えば決別かもしれません。ウィリアム様はわたしに興味がないようなことを言っていましたので」

「そうか。なら――――私の部屋に来るがいい」


 は? 何でそういう流れ? ……まあいい加減ハビッツにも飽きてたし、別に良いけど。オルトランが良ければ乗り換えれば良いし、平凡な男でも二人と一人じゃ全然違うしね。とは言っても、


「幾ら私にオルトラン様を支える義務があったとしても、婚姻前の男性の部屋に上がり込むのは問題が多いかと思います」

「嫌ではないのだな。なら来るがいい」


 ……幾らなんでももう少しまともな誘い方は出来ないのかしら?


「しかしオルトラン様。わたしは……」

「庭より部屋の中の方が密会がバレる可能性が低い。その先のことはその先だ。それとも私を支える気はないということか?」


 本気でコイツを支えるとかあり得ないけど、今は仕方がないわ。ハビッツではもう満足出来ないし。イケメンに囲まれながらその誰にも抱かれてないなんて只の拷問。玲とあの女を見ていた時ほどムカムカはしてないけど、内面不細工のこの男でもイケメンの誘い疼くのよね。


「……分かりました」






 深夜の庭での密会から私はそのままオルトランと一緒に男子寮の第三棟まで来た。

 警ら中の王国騎士を警戒しながら上位貴族寮を囲む柵をどうするのかと思ったら、オルトランは王国騎士が警備する入り口から堂々と入って行った。仕方がないからわたしも付いて来たけど、幾ら変装用のお仕着せ姿だったとしてもわたしは金髪なのよ? バレバレじゃない。本当に自分の事しか考えてない男ね。


 第三棟の扉を開け中に入って行ったオルトラン。私も後に続くと出迎えるように一人の女が出てきた。エリアスの所にも侍女は居るけどその女は、


「ドレス?」


 地味だけどクリーム色のドレスを着た黒髪の女だった。……ハーレムの女どもより美人じゃない。美しいモノ以外傍に置かないって本当なのかしら?


「マリア様? オルトラン様。流石にビルガー家のご令嬢を寝室に入れるのは――――」

「黙れソアラ。お前に何も言う権利は無い」


 ソアラ? ここに居たのね。コイツには要注意だわ。


「しかしオルトラン様。養子とは言え相手は公爵家のご令嬢です。しかもマリア様は外征派が正妃へ推す方で――――」

「ソアラ。ここは私に任せて君は下がりなさい」


 ソアラがオルトランを諌めるとほぼ同時に奥から玄関に出て来た執事。燕尾服を着た壮年の男がソアラを止めた。中背で茶髪のこの男は美しいとは程遠いけど、ギラギラしている感じが危うくて良いわね。学院に居るの結局小僧ばかりだしこういう男も良いわ。


「しかしドルアン様」

「良いから下がりなさい」

「……はい」


 ソアラが下がると同時にオルトランは歩き出した。オルトランもそれに付いて歩くわたしもドルアンと呼ばれた執事に止められるその横を通り抜けた。別に文句を言われたいわけじゃないけど、ソアラの言ってることの方が正しい。だからコソコソしてるわけだし……止めなくて良いの?


 オルトランが向かったのは予想通り寝室だった。まあ最初からその積もりだったからそれは良いけど、一応情報収集しなきゃね。


「あのドレス姿の女性は何ですか?」


 私を寝室に招き入れたオルトランが扉をしっかり閉め鍵を掛けたと同時に声を掛ける。


「侍女だ」


 一瞬男らしい獣の顔を見せたオルトランだけど平静を装って私の質問に答えた。ま、襲われても良いけどね。いつもの澄ました顔より余程さっきの顔の方が良いし。


「オルトラン様がハーレムを作って何人もの女性を此所に連れて来たということぐらい知ってます。あの女性もその一人ですか?」

「……ソアラはその……」


 動揺してる間違いないわね。


「正直に言って下さい。何度も言うように、わたしには心を美しくしようとするオルトラン様を支える業務があるのです。そう導いた者として」


 ゲームのマリアは良くまあこんな台詞を吐いていたわよね。女が男を支えるとか、一人の男に尽くす女とかヘドが出るわ。そんなのあの世間知らずのバカお嬢様ぐらいのもんよ。


「三ヶ月前まで私の妾だった女だ。今は抱いていない」


 ……ハーレム要員ではなくて妾なの? まあオルトランが女好きなのは知っていたからそういうのが居ても別に何の不思議もないけど。


「だが今抱きたいと思うのはマリア。お前だけだ」


 スルスルと近寄って来たオルトランは私の頬に手を添えて囁いた。間近で見るとやっぱり良い男だわ。欲情を抑え切れないと言ったその目も、いつもの流し目なんかよりずっと良い。


「オルトラン様……優しくして下さい」

「ああマリア。お前は本当に美しい」






 翌早朝。


 最悪。何コイツ。スゲー下手。何も出来ないじゃん。コイツ相手で何度も連れ込まれてる女とかバカなんじゃないの?

 導入までは慣れてる感じだったし初めてだったなんてあり得ないけど、本当なんなのコイツ? いざ服を脱がしたあとは何もしないとか意味分かんない。慌てて訊いちゃったじゃない。「他の女性にもこうなの?」って。そしたら「こういうモノだ」とか言ったし。

 ああ本当最悪。よりにもよって残ったのがコイツ? 女に腰振らせるとかそれこそ娼館でも行ってろよ。頼んで逆になって貰ってもド下手だし。もう二度と御免だわ。しかも高々二回で終わりとか本当どうしようもないヘボ男だわ。ハビッツの方が数倍マシね。


「どうしたマリア?」


 起きたわけ? めんどくさい。


「明るくならないうちに帰らないと。失礼します」

「そうだな。また来なさいマリア」

「何度も来てバレたら大変だから、暫く距離を置いた方が良いです。学院内で見掛けても挨拶だけにしましょう。それでは」


 身支度を整えながら言うだけ言って足早に寝室を出た私。そのままの勢いで玄関まで来た時、扉の外の異様な気配に気付いた。……外に人が居る? それもかなりの人数?


「オルトランは居るか!」


 乱暴に扉を開け、雪崩れ込んできた十人を越える黒い軍服を着た男達。そして、


「裏手にも人を回している。観念して出て来い」


 部隊の指揮を執る鮮やかな青い髪をした美少年。


「ウィリアム様?」






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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