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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第七章 マリアと愛妾達
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#122.女王様の格の違い

 四月下旬。劇団「湖畔の友」と魔法学院の共催公演まであと三週間と迫った今日。私は劇団の演出家さんと細々した話し合いの為にケブウス様と一緒に女子寮の隣に在る劇場まで来ています。いえ、劇場の手前の庭まで来ています。そうです。手前の庭で立ち止まってしまったのです。まあ、この二人が視界に入ったら近付きたいとは誰も思いません。事実、私達と同じように離れた場所で立ち止まり様子を眺めている人、主に女生徒がチラホラ見えます。


「これはまた奇特な場に遭遇しましたなぁ。お二人共お美しい。しかし往来を妨げているのはいけませんな」


 興味深気に花壇が並ぶ庭のど真ん中で対峙している二人を眺めながら、他人事のように呟いたケブウス様です。二人だけなら横をすり抜けて劇場に行けば良いだけですが、双方取り巻きがいますし、見物人と合わさって道が塞がれている状況です。なんて、本当に急いでいるなら直ぐ様踵を返して回り込めば良いだけなのですけどね。


「残念ながら私は見目麗しいと眺めるだけではいられません。侍従のケブウス様と違って私にとっては上司になるかもしれない方々ですから」


 どちらも正妃に相応しい方とは思えません。この二人だったらまだ気の強いハンナ様の方が良いです。


「ならもう少し近くで見てみますかな?」


 私がそう思っていると察してから提案していますね? この方も食えない人です。


「……はい」


 二人の居る庭の中央まで歩いて行こうとすると、二人や取り巻き達の視界に入らないような位置で声が響いて来ました。


「姉というだけでカイザール様に命令して院生会室に入り浸るのは間違いだと言っているの。貴女が入る権利があるなら私にだってある筈だわ」


 そこまで院生会室に出入りしたいのなら、それこそ事務仕事の勉強をしてウィリアム様に頼めば良いと思いますよマリア様。

 ああでも、ウィリアム様が考えていることが今一つ分からないのですよね。サリサ様の話では、ウィリアム様がマリア様に惹かれている雰囲気がないこともないそうなのですが、クラウド様はそうは思っていないみたいですし……。


「平民がわたくしにたいしてなんて口の聞き方かしら。義理の兄に取り入って入り浸っていたのはあなたではなくて? わたくしはカイザールの手助けであの部屋にいただけですわよ」


 ……どの辺りが手助けだったのでしょうかヴァネッサ様。貴女が執務室にいるのを見たことはありませんよ?


「手助け? 邪魔の間違いじゃないの? あんたがあそこに居たって誰も得をしないわ」


 その言葉はそのままマリア様にも当てはまると思います。いえ、相手が事務仕事をあまりしないエリアス様だったことを考えると、マリア様の方がクラウド様には迷惑だったようですよ?


「まったくこれだから平民は。

 男が政や戦で功を上げ、女が社交で家を支える。これが貴族の在り方ですわ。その程度のことも解らないで貴族を、ましてや公爵を名乗るなど、嘗て第二の王家とまで言われたビルガーの名が泣きますわ」


 意外でした。ヴァネッサ様はヴァネッサ様なりの理屈で動いているのですね。と言っても、クラウド様の婚約者みたいに振る舞う理由の説明になっていませんけど。


「知らないわよそんな屁理屈。オルトランだってエリアスだってあそこに居ることを望んだのはわたしだった。だからあんただって逃げ出したクセに」

「殿方に対して敬意を示さないなんて、なんてはしたない女なのかしら。

 わたくしが行かなかったのはカイザールが来るように言わなかったからだわ。それにもし、エリアス様とオルトラン様があなたを望んでいたとしても、今は院生会室に居ないわ。だったらわたくしがあの部屋に居ることになんの問題があるのかしら?」


 今日の論戦はヴァネッサ様に分かあるようです。


「今だってカイザール様はあんたに来るようには言ってないわ! どうせ下僕みたいに扱っているのだからあんたが連れて行くよう命令しただけよ!」


 まったく根拠のないただの罵声を浴びせかけているマリア様です。カイザール様がヴァネッサ様の命令で動いていたのはもう一年半以上前の話です。今でも命令されれば聞くかもしれませんが、下僕とは程遠いでしょう。……まだゲームと同じ状況だと思い込んでいるのでしょうか?


「幾ら魔才値が高くとも下賤の者は下賤ね。わめき散らすだけの女と話す価値などないわ」


 マリア様に対して勝ち誇ったような笑みを向け、更には嘲笑しているヴァネッサ様です。……結局追い出されたことを根に持っていたのですねヴァネッサ様。


「ふん。30にも満たない貴女が何を言っても説得力がないのよ。偶々血筋が良かったから学院にいるだけで、本来なら院生会どころか此処にいることが許されないんだから」


 偶々と言うなれば、魔力暴走から一年半経っているのに辛うじて生活魔法の幾つかが使える程度のマリア様も、偶々魔才値に恵まれたから此処にいると言えますよ? と言うか、魔技能値135って本当ですか? と疑いたくなるのです。まあサリサ様情報ですから本当の実力とは話が別かもしれませんけど。


「あなたこそ! 平民のクセに魔才値に恵まれたから此処に居るだけ――――」

「随分と大きなお声がしたようだけれど、こんな往来の真ん中に集まってどうなさったのかしら皆様」


 マリア様と張り合うように怒声を上げたヴァネッサ様の言葉を、女王然とした声が遮りました。そしてその場に居た全員が、声をした庭の端の方を向いてそのまま固まりました。


「女王様まで拝めるとは思いませんでした」


 ……楽しんでいますねケブウス様。


 一声でその場の殺伐とした空気を呑み込んだ女王様は、悠然と二人の方に歩いて来ます。その手前で彼女の前に立ち塞がっていた見物人達と取り巻きの方々は、女王様を出迎えるが如く道を作ります。……本当に女王様みたいですね。


「あら? 珍しいお二人ですわね。ヴァネッサ様とマリア様が庭で語らうような仲だとは知りませんでしたわ」


 女王様、シルヴィアンナ様は本当に不思議がっているように見えます。……演劇は見ているだけの筈なのに演技力が増していますよ杏奈さん。


「……シルヴィアンナ様。ご機嫌如何かしら?」

「とても良いですわヴァネッサ様。カイザール様はお元気?」

「院生会副会長として遅くまで業務に勤しんでおりますので毎日大変そうですが、元気にしておりますわ」


 ヴァネッサ様の固い挨拶ににこやかな笑顔で答えるシルヴィアンナ様です。


「それは何よりですわね。副会長当選お祝い申し上げます。カイザール様にも宜しくお伝え下さいませ」

「どういたしまして。シルヴィアンナ様にお祝いして頂けるのならカイザールも喜びますわ」

「なにそれ皮肉なの?」


 定型の挨拶であって皮肉の意味合いは皆無だと思いますよマリア様。しかも、周りがドン引きしているのに気付いていないようですね。……また真理亜さんと被っていますね。あの人も男性ばっかり気にしていて女性の空気を無視する人でしたからね。


「どうして皮肉と取られたのかは分かりませんが、同じ公爵家の人間としてご忠告申し上げるなら、挨拶はきちんと為された方が宜しいかと。

 こんにちはマリア様。ご健勝そうでなによりですわ」

「……こんにちは。シルヴィアンナ様。お散歩ですか?」

「いいえ。劇団「湖畔の友」の演出家の方がいらっしゃると聞いてご挨拶に伺おうと思ったのです。来月半ばには公演ですからね。楽しみですわ」


 これはきっと嘘です。杏奈さんが今日劇場を訪れる主な理由は私にあると思います。ただ、シルヴィアンナ様の快活な雰囲気に呑まれて、殺伐とした空気は一切消え去ってしまいました。


 その後、他愛もない会話を少しした三人は程無くして方々に散って行きました。完全にシルヴィアンナ様のペースでしたね。「格が違う」そんな言葉が当てはまる杏奈さんでした。


 ああいうのを見てしまうと、シルヴィアンナ様を正妃に。という声が浮上してしまうのですよね。まあ実際、年が明けてから学院はマリア様の騒動を中心に動いていたわけですが、マリア様の登場を受けた外の社交界は、三つ巴の争奪戦で動いていたのです。

 ただ、クラウド様がマリア様にまったく興味がないと広まると、やっぱりシルヴィアンナ様正妃説が有力になって、クラウド様の腹を探りたい貴族達からの社交の誘いがまた増えているのです。

 なんて、ここ最近はオルトラン様の落選話が、少し前は劇団と学院での共催公演が社交界を飛び交う話題の中心だったようですけどね。


 そんなこんなで、年明けから学院の内外で色んな噂が飛び交っているのが現状です。ただどうも、これから終息に向かって行くのではなくて、「これが切っ掛けで何かが始まった」そんな気がします。






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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