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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第七章 マリアと愛妾達
122/219

#121.院生会選挙

 三月の終わりになりました。魔法学院では毎年この時期騒ぎがあります。去年は五枠中四枠が確定した状態にあったので残り一枠を争うだけの小規模な騒ぎでしたが、今年は大騒ぎです。何故ならクラウド様が選挙制度に変更を加えたお陰で王子や上位貴族の令息も大規模な選挙活動をせざるを得なくなったからです。


 クラウド様が変更した点は二つです。


 一つは無記名方式の選挙になりました。そのお陰で選挙管理人の人数と仕事は倍どころではなく激増しましたが、記名信任投票に対して「何の意味がある?」という意見は昔からあったわけです。この為に学生証に番号を振るなど事前準備と根回しをしていたのは去年のことで、今年満を持して院生規範の変更を実施、晴れて無記名方式となったわけです。これで上位貴族令息でも落選の可能性が出て来たのです。


 もう一つは、上位貴族令息が複数居る場合の選挙方式が変更されました。今までの上位貴族令息の院生会選挙は、前期の院生会が役職を決めてしまい、その信任不信任を問うだけだったのです。それが院生に役職を選んで貰う方式に変更されました。

 具体的に言うと、投票場に入った院生はまず、選挙管理人に学生証を見せます。本人であることと、まだ投票していないかどうかチェックを受けると、今年の場合四枚の木札が渡されます。その札には候補者の番号が振ってあるのです。今年だと、一番はカイザール様。二番はオルトラン様。三番がウィリアム様。四番がルンバート様です。その木札を、会長、副会長、書記、会計のそれぞれの投票箱に投函するのです。

 ただ重要なのは、不信任の投票箱が存在することです。不正がないように見ている必要がありますから選挙管理人は誰が不信任箱に入れたかは分かってしまいますが、手元の数字まで見えませんので誰を不信任にしたかは分からないのです。

 まあそれでも不信任には投函し難いでしょうし、全員を不信任にするとバレバレという大いなる欠点があるのですが、無記名で不信任に出来るのは間違いありません。それに配慮して選挙管理人以外には見え難いよう対策は取りましたが、お陰で投票時間が激増し、丸一日がかりの投票作業になるのですけどね。まあ生徒の方はクラス毎に呼ばれるのでそれほどではありませんが、選挙管理人は本当に大変です。まあ王宮の役人さんなのですけどね。

 因みに上位貴族令息以外では役職毎に立候補する普通の書き込み方式なのでそういう方法もあったのですが、上位貴族令息は何かしらの役職に就くのが慣例ですし、何より書き込み式は集計確認するのが大変なのです。よってこういう方式に成りました。


 まったく関係ありませんが凄く気になってしまったのは、セルドアで選挙なんて誰がやり始めたのでしょうね? 大いなる疑問です。大昔のセルドアに転生した方がいらっしゃったのでしょうか?


 なんにしても、クラウド様はこれで不信任の可能性を作ったわけですし、会長と副会長以下の権限は大きく差がありますから本人ではなくその周り、クラスメイトが中心となって選挙戦が展開されているのです。


 とは言うものの、会長と目されているのはやはり侯爵令息のカイザール様か第三王子のウィリアム様ですし、これだけ上位貴族の権力が強いセルドアで、そう簡単に不信任に投函出来るとは思えません。


 会長がどちらになるかは微妙ですが、投票結果は無難に終わると思います。






 と、投票前は思っていました。しかし現実は――――


 開票にも丸一日使いまして、投票日の翌々日、投票結果が発表されました。

 一番僅差だったのは会長で、大半がウィリアム様とカイザール様に集中していました。学院の生徒は全部で六百人強なのですが、二人共二百五十票を獲得する大接戦。僅か八票差でウィリアム様が会長に当選したのです。

 ベルノッティ侯爵家の嫡子であるカイザール様と、側妃の子で第三王子という微妙な地位にあるウィリアム様だと、カイザール様の方が社交界での優先順位が高いのです。実際選挙方式が変わらなかったとしたらカイザール様が会長として信任投票が行われたでしょう。

 なのに僅差とは言えウィリアム様が当選したのは、選挙戦でクラスメイトのルンバート様と協力体制を築いていたからだと思います。ウィリアム様とルンバート様は同じクラスですからね。クラスメイト同士で対立しないように、ウィリアム様は会長で、ルンバート様は書記で、それぞれ投票して貰えるよう動いていました。タイプの全く違う二人はそれぞれの女性支持者が被らないのが良かったのでしょうかね?


 会長がウィリアム様で、副会長にはカイザール様が順当に当選しました。そして書記ではこの投票方式の問題点が浮かび上がりました。

 書記で最多得票だったのはルンバート様なのですが、ルンバート様が一番多く獲得したのは会計票なのです。加えて、会計でも最多得票はルンバート様でした。

 まあ予想通りなのですけどね。不信任箱がある以上こういう可能性は充分あり得たので、最初から「上の役職の当選が優先される」と決めてあったのです。だからルンバート様は書記に当選しました。


 会長、副会長、書記で他の三人が当選してしまいましたから、制度上残りのオルトラン様が会計に成るのですが、そこで問題が起きました。

 予想外にも不信任票が多かったのです。いえ、カイザール様もウィリアム様も数票でしたし、女装癖で忌避感の強いと思われるルンバート様さえ、不信任となる過半数の十分の一に過ぎない三十票程でしたから、気に掛ける必要はないでしょう。問題となったのは勿論、オルトラン様です。


 オルトラン様への不信任票はなんと二百八十票を数えたのです。


 ただ、驚くべき数ではありますが、投票総数は六百二です。過半数ではない以上不信任とはなりません。制度上会計に当選することになるわけです。しかし、不信任票も含めた投票結果が発表されると、院生達の間から待ったが掛かりました。


「オルトラン様の得票総数は不信任票より少ない」


 という指摘があったのです。その一報を聞いた時には「不信任票が過半数に足りないのにそんなことあり得ない」なんて思いましたが、その通りでした。得票総数は二百七十二しかなかったのです。そう。全部足しても五百五十にしかならないのです。他の三人は三人共総数六百二にちゃんとなるのに、オルトラン様だけ何故そうなったのか? その答えは選挙管理人が持っていました。


 答えは極単純で、札を投函しないで投票場を出て行ってしまう生徒が何人もいたそうです。……先に言って下さい。


「だったらオルトラン様は不信任」


 という声もありましたが、クラウド様は不信任とはせずに再選挙を決めました。不信任とされてしまうと再選挙には出られない制度ですから救済した形です。

 ただ、オルトラン様は会計の再選挙に立候補しませんでした。再選挙は普通の無記名書き込み方式ですからね。対立候補が立った時点で負けが確定ですから……。そもそもまともに選挙戦をしていなかったから不信任があれだけの数になったのでしょうし、自業自得なのですけどね。


 ということで、今年の院生会員は以下の通りになりました。


 会長。一年生。Aクラス。ウィリアム・デュラ・セルドアス様。

 副会長。二年生。魔法科。カイザール・ベルノッティ様。

 書記。一年生。Aクラス。ルンバート・ベイト様。

 会計。二年生。諜報科。スエルフ・ハイトリティ様。

 監査。二年生。魔撃科Aクラス。コーネリウス・サバイル様


 スエルフ様はハイトリティ子爵家の嫡子ですが、コーネリウス様は大工さんの息子で正しく平民です。クラウド様のクラスメイトで魔技能値65ある優秀な方ですね。

 オルトラン様が落選となった時点で監査に当選していたスエルフ様が、監査を辞退して書記に立候補して再選挙が行われたのです。そして、落選していたコーネリウス様が監査にもう一度立候補する形となりました。監査にも会計にも一人ずつ対立候補が立ちましたが、事前に選挙戦を戦っていた二人が圧倒的優位でしたね。


 結果的に下位貴族が上位貴族を押し退ける形になった再選挙の影響で学院内はもっと荒れるかとも思いましたが、一週間もしないうちに平穏を取り戻しました。


 まあ極一部、というか一人だけ、大荒れになられている方が居ますけどね。それは他でもないマリア様です。エリアス様が院生会員ではなくなったので、院生会室には殆んど出入り出来なくなったそうです。いえ、それは当たり前のことなのですが、その代わりと目していたのがオルトラン様だったようでして、「オルトラン様の落選に酷く荒れている」というのがサリサ様の見解です。

 クラウド様は「マリアが居なくなってもヴァネッサが戻ったから同じ」と言ってましたけど。……正妃には成って欲しくない方々ですね。


 こんな感じが本日四月十五日、クラウド様の十七歳の誕生日の現状です。


「皆でお祝いしたいとは思われないのですか?」

「ティアの心の籠ったモノもが貰えれば充分だ」


 今年は靴をプレゼントしました。靴には流石に刺繍は出来ないのでオリジナリティは有りませんが、足のサイズを正確に測る為に寝ているクラウド様と格闘することになったのです。


「旦那様は……」

「なんだ? 訊き難いことか?」


 ソファーの上で自分の膝の上に座らせ後ろから抱き締めた私を、後ろから、というより上から覗き込んできた旦那様です。


「私に飽きたりしませんか?」

「飽きるどころか一昨年より去年、去年より今年。ティアへの想いは強くなり続けている。絶対に離さない」


 蕩けるような甘い声が私の脳天から降り注ぎました。


「ご免なさい。余計なことを訊いて」

「いや、良い。オルトランだろう?」

「……はい」


 オルトラン様は今、ソアラ様とは当然のように、自分のハーレム達とも距離を置きつつあるのです。原因は間違いなくマリア様でしょう。


「旦那様……大好きです」


 旦那様を見上げながそういうと、甘く優しいでも熱いキスが降りて来ました。


「私もだ。ティア。愛している」






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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