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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第七章 マリアと愛妾達
116/219

#115.ゲームと現実

 マリア視点です。地雷にご注意下さい。


 何で? どうしてゲームの設定とこんなにも違うわけ?


 魔力暴走でビルガー公爵家の養子になって一年後に魔法学院に入学する。これは丸っきりゲームの通り。攻略キャラだって皆居るし、ライバルキャラも悪役令嬢もいる。舞台はセルドア王国の王立魔法学院。これも一緒。学院のマップもそのままだし、王都のマップだって学院の北側に湖があってその向こうに南から繁華街、貴族街、王宮と並んでた。大まかな設定はこれだけ符合しているのに、なんでキャラ設定が全然違うわけ?


 そもそもビルガー公爵家は筆頭公爵家で、シルヴィアンナのエリントン公爵家より力がある家だったはず。だからこそシルヴィアンナが婚約者に選ばれた筈なのに、私が養子になった時既にエリントンの方が力があったって話なのよね。加えて停戦協定で更に追い込まれて今ではあのヴァネッサのベルノッティ侯爵家に迫られてるとか。お陰でクラウド王子を落とせとか言われたけど……まあこれは大して気にするようなことじゃないわ。全員落とせば良いだけだし。


 問題なのは、設定が違うからイベントの起こし方とか選択肢が違うかもしれないってことね。


 まあでも、逆ハーにしても他のルートにしても基本は一緒。好感度の上げ易いエリアスを先ず攻めて、院生会室に出入り出来るようにして貰えば良いだけ。ステータスが見えないから体力パラがどれだけあるか分からないけど、ゲームみたいに突然バッドエンドなんてこともないわよね?

 その後は第一王子を中心に好感度を上げて、第二王子との対決イベントの前までに全員の好感度を一定以上まで上げられれば逆ハールートに入れるわ。エリアスも第一王子もゲームキャラだけあって凄いイケメンだし、今から楽しみね。


 それにしても何でエリアスが院生会会長なのかしら?

 ゲームでは第一王子が会長でエリアスは副会長。それ以外も一個ずつずれて、レイノルドなんて院生会にいなかった。幸い第一王子も院生会に出入りしてるらしいからそれはいいけど、レイノルドって確か第一王子の正妃エンドでシルヴィアンナの相手としてしか出て来ない超脇役なのに……。


 まあ何にしても、エリアスが副会長ではなく会長なら院生会室に出入りするのはゲームより簡単かもしれないわ。問題はそれ以外のキャラの設定変更ね。


 先ずはカイザール・ベルノッティ。ゲームではヴァネッサとセットで登場して姉依存から脱却させるキャラだったのに、オープニングの夜会の時からバラバラだった。なよなよしてるのは同じだから自立させるっていう攻略法は同じかもしれないけど、イベントはだいぶ異なるかもしれないわ。

 次にヨーゼフ・クライフアン。重度のシスコンキャラの彼は妹と距離を置かせる間に私に惹き付ければ良いだけ。楽勝キャラの筈なのにオープニングの夜会と新入生歓迎舞踏会で二回挨拶しても妹の話をしなかった。何で? まあでも私に興味は持ったみたいだからあとはアプローチするだけなのかもしれない。


 それからオルトラン・ヘイブス。ナルシストキャラの彼はハーレムに誘われた時に「心が汚い」と言えばイベントが進んで行くけど、ゲームのハーレムは精々五人程度だったのに、今二十人近く囲い込んでいるみたい。何が起きたのか分からないけど、オルトランの場合はキャラ設定が変わってるとは言えないからイベントに変更はないかもしれないわね。でもハーレムモブの嫉妬イベントには注意しなきゃ。モブに刺されてバットエンドなんて最悪だし。


 四人目が一番イベントの変化が大きそうなルンバート・ベイト。普通の性格の美少年の彼は、女装癖という周囲に受け入れられない性癖を持っていて、それを周囲に認めさせるのがイベントの殆どだったのに……まさかオープニングの夜会からドレスで登場するなんて思わなかった。お陰でエリアスも挨拶しなかったしどう攻略すれば良いのか一番分からないキャラね。


 最後が第一王子クラウド。なんだかんだで一番色んな設定が変わってるのがこのキャラ。先ずは妹も弟も死んでないから孤独な子供時代を過ごしていない。だからなのか冷たい感じはあっても人間不信には見えなかった。主人公の役目は孤独を癒すことなのにこれじゃあ成立しない。

 それから初恋の人と同じ色を持つマリアに興味を引かれる筈なのに、ダンスをした時も一切それには触れて来なかった。しかも、「はっきり言うが、君がビルガー公爵家の養子だから踊っただけだ」と告げられた。詰まり、踊りに誘ってくれたのは正妃候補だからで、私だからではない。第二王子ともギクシャクした雰囲気はなかったし、第一王子もイベントがどう進むか分からないわ。

 そうそれに、シルヴィアンナと婚約していない。いえ、これは何人かの攻略キャラ共通の変更点ね。クラウドとシルヴィアンナ。エリアスとヴァネッサ。カイザールとハンナ。ウィリアムとジョセフィーナ。それぞれ婚約者の設定だったのに皆婚約していないわ。更には、アンドレアスとミーティアに至っては結婚しているし、オルトランの姉リシュタリカは学院に居ない。アンドレアスは逆ハーに無関係だから良いけれど、リシュタリカが居ないのは痛いわ。あんまり教官室に通いつめるとオルトランの好感度が下がる欠点があったけど、あの美人教師はパラ上げで重宝するキャラだったから本当に痛いわ。


 変わってないように見えるエリアスやウィリアムも変わっているのかもしれないし……。


 ああもう! なんなのよ! 折角逆ハーを築く為に準備してるっていうのに!


 あ! もしかしたらまた私の邪魔をしている女がいるの?


 一番怪しいのはシルヴィアンナね。婚約者フラグを折ってマリアの動きを封じ込める気だったのかもしれないわ。しかも、婚約者ではなくても婚約者候補には留まっているし、二日連続でお茶をしたなんて密かに連携を取っている証拠だわ。第一王子を誑かして正式に婚約はせずに裏で契約してる。そうに違いないわ。

 ああでも相手は同じ公爵家。前世の二の舞は御免だし……絶対証拠を掴んでやるわ。


「マリアお嬢様。何か考え事ですか? 夜更かしは美貌の敵と言いますよ」

「昨日の舞踏会を思い出していたの。つい一年ちょと前まで小作農の娘だったわたしが舞踏会でお貴族様と、ううん、王子様とダンスをして語り合うなんて夢みたいな時間だったの。今思い出しても心臓がドキドキするの」


 居間のソファーで寛ぐ私に声を掛けたのはハビッツ。彼は私がビルガー家に入った直後から私に付いていた侍従ね。女子寮でも一人だけは侍従を連れて来れるから、私から希望して付いて来て貰った細身のイケメン。日常にだって潤いは必要なのよ。


「私の前で他の男と踊って夢のようだったなんて話をするなんて貴女は罪な方だ。私を嫉妬に狂わせたいらしい」

「ご免なさいハビッツさん」

「いいえ。許しません。嫉妬した分だけ癒しを頂きます」


 ソファーの後ろに回り込んだハビッツは、後ろから私を抱き締めた。

 テクはないけど紳士的に女を盛り立てるハビッツは悪くはないわ。今世はまだ大して遊んでいないからこの男程度でも満足出来るのは幸いね。攻略キャラ程ではないにしてもイケメンだし。


「私なんてなんにも出来ない。ハビッツさんを癒すなんて出来ません」

「身を任せてくれるだけで充分です。辛い経験をした貴女にとってはそれだけでも大変な覚悟が必要なことですから」


 バカな男。まあ缶詰状態の中でも潤いがあるのだから、このバカな男にも感謝しなくてはならないわね。


 なんて言っても、誰かしら好感度を上げて部屋に行けるようになるまでだけど。






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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