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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第六章 ゲームの開始
115/219

#114.私が死んだ事件

タイトル通り前世の話です。そして最後は────

「金の力で繋ぎ止めようなんて、本当に汚ない女なのねあなたは。一条のお嬢様だかなんだか知らないけれど玲をたぶらかすのは止めて頂戴。あなたなんかに振り回されて玲が可哀想だわ。

 それに、杏奈と玲のことを応援するとか言って置いてあなた結局奪ったじゃない。嘘つきで性根の腐ったあばずれ女に寝盗られるなんて杏奈がどれだけ悔しい思いをしているか分からないの? それが友達面しているんだからたまったモンじゃないわ」

「真理亜さん私は――――」

「何? 奪ってないと言う積もり? 玲にそうじゃないと言われたから? それとも杏奈も応援してくれるから?

 どっちにしたってあなたが杏奈から玲を奪ったことに変わりはないでしょう? それとも、杏奈は玲のことを好きではないと言う積もり? それこそあなたの目が腐っている証拠。誰がどう見たって杏奈は玲を大事に思っているわ。それを引き剥がそうなんてあなたには人の心が無いの?」


 本当は違うと頭では解っていても、玲君の想いに応えられていない私の心は真理亜さんの言葉の一つ一つで重く深く抉られていました。


「さっさと別れなさい。そして劇団から出て行きなさい」


 強い怒り、殺意とも言えるぐらい鋭い眼光を向けて来る真理亜さんに対して、私は微動だに出来ません。玲君は応えられないぐらい強い気持ちを私に向けて来たのは間違いないのに、一言も反論出来ないままただただ睨まれどれぐらいの時間が経ったでしょうか?


「藍菜? どうしたんだこんなところで?」

「あ! 玲! 藍菜が演技に付いて悩んでいたみたいだから相談に乗ってあげたのよ。

 それより玲。二幕のリハは終わったの? なら控え室で休んだ方が良いわ。梨買って来たの剥いてあげる」


 舞台裏で話していた私達を見付け優しく声を掛けてくれた玲君。それに対して媚びるような仕草で玲君に触れる真理亜さん。玲君は苦々しい顔を浮かべているのに私は何も言うことが出来ません。気の弱い自分に腹を立て、落ち込むだけで。


「ちょっ真理亜さん!」


 強引にその手を引き玲君と一緒に控え室の方へ向かう真理亜さんは、去り際に振り向き勝ち誇った顔を私に向けました。私は悔しいとも妬ましいとも思いません。


 ただ、それから数ヶ月真理亜さんの言葉は私を捉えて離しませんでした。






 そんなやり取りから二年。

 劇団「TAFU」はこの一年で大きく成長を遂げました。団長の上森さんの頑張りは勿論ですが、去年は玲君が、今年は杏奈さんが、それぞれ大学を卒業し劇団に専念出来るようになったのも大きいのです。

 こういう言い方をすると杏奈さんに怒られてしまいますが、一応主演女優の一人の私も大学を卒業しましたしね。この一年でスポンサー契約も何件か決まりましたし、団員のアルバイト率も下がってより質の高い舞台をお客さんに見て貰えるようになったのです。公演会場もどんどん大きくなって、これからもっと大きくなるでしょう。

 まあお父様が影で色々口を利いてくださったのは間違いないのですけどね。私には「何もしない」とか言って置きながら結局娘に甘い父親ですから。お母様に「知らないふりをしてあげなさい」と言われましたから何も言いませんけど、ありがとうございますお父様。

 なんて、ちゃんと実力を認めていない限りお父様がそんなことをして下さる筈はないですから、私は兎も角「TAFU」はお父様のお眼鏡に叶ったということです。


 いずれにしても、軌道に乗っている劇団「TAFU」ですが、ついこの間行われた夏公演も満員御礼に終わり、今は晩秋公演に向けて準備に入っています。ただ、所詮は芸能事務所には所属していない人達で運営している劇団ですから、演技だけが仕事ではありません。小道具や衣装作りを手伝うことは珍しくありません。


 そんな中で今日は、志田様という老齢の資産家の方に呼び出されて山奥の別荘地に来ています。志田様はスポンサー契約の前に主要キャストである私達三人を呼び出したのです。


 バス停から山へわけ入るような道を歩くこと三十分ほど。漸く目的地の住所のログハウスが見えて来ました。……資産家の別荘というより山小屋みたいですね。


「志田。ここだね」


 ポストに張られたシールを見て玲君が敷地へと入って行きます。門もなく庭も広くないその別荘。三人は敷地の入口から二十秒もしないうちに玄関の前に並びました。


「平屋だし、庭の手入れも全然してない。資産家の別荘には見えないわ」

「高い車が止まってるよ」


 確かに黒塗りで高級そうな雰囲気のある車ですが、国産車のようですし資産家と言える方が乗る程高い車でしょうか?


「うーん……なんか期待出来ない。歩き損な気がするわ」

「ここまで来て会わないわけにもいかないよ杏奈」


 そうですね。


「行きましょう。会ってから考えれば良いだけです」

「押すよ」


 疑問を持ちながらも玲君はログハウスのチャイムを押しました。


 そしてその僅か五分後、


「どういう積もりだ! ここから出せ!」


 若い男性に案内されたログハウスの地下の部屋。そこは一見普通の部屋にしか見えないけれど、中からは扉の開けられない監禁部屋でした。そして、


「出すわけないでしょう。私は貴方達を此処で殺すのだから」

「なっ。ふざけるな真理亜!」


 監禁部屋の天井にある穴から顔を出したのは真理亜さんでした。驚くと同時に憎しみと殺意に溢れた彼女の鋭い眼光を目にした私は、真理亜さんを見上げたままその場で動けなくなりました。


「ふざけてなどいない! あんたが! あんたが私を裏切るからいけないのよ!」

「勝手にオーディションを受けて勝手に抜けるとか言い出して裏切ったのはお前の方だろうが!

 劇団に籍を残したまま他の仕事だって出来たのに、結局辞めたのは真理亜自身だ。挙げ句一年もしないうちにまた入れろなんて言い始めて。頑張ってた藍菜を虐めて追い出そうとまでしたんだろうが!」

「ヒッ」


 玲君の怒声を受けた真理亜さんの鋭い眼光が確かに私を捉えてました。私は息を呑んで後退りしましたが、天井の穴からはこの部屋の全体が見下ろせる構造になっています。その強い視線から逃れることは出来ません。


「結局あなたが私から全てを奪ったのよ藍菜」

「そんなことない! 真理亜さん。いえ、安藤真理亜。あなたが抜けた穴を埋める為に役者の経験なんて全く無かったこの子がどれだけ努力したか分からないの?」


 杏奈さんが後ろから私を抱き締めてくれました。それで少し落ち着いた気もしますが、未だに私を強く睨んで来る真理亜さんから眼を逸らすことが出来ないでいます。


「なんであんたがその子を庇うのよ! その子はあんたから玲を寝盗ったのよ! 金で脅して嫌がる玲と無理矢理付き合っているのよ!」

「まだそんなことを根も葉もないこと言っているのかお前は! そもそも当時僕は杏奈と付き合っていなかった。寝盗ったなんてあり得ない。しかも今僕が付き合っているのは杏奈だ。藍菜じゃない」

「そうよ。藍菜と玲が付き合っていたのは去年の10月まで。そしてこの春から玲と私は付き合い始めたの。だから、真理亜が藍菜に嫉妬するのはお門違いよ」


 杏奈さん? 何で私を?


「あ、んな、さん?」


 やっと真理亜さんから目を逸らして小柄な私より随分と高い位置にある杏奈さんの顔を見ると、そこには紛れもない笑顔が、優しい笑みと優しい瞳が私を見下ろしていました。


「嘘よ。嘘だわ。なんでそんな女庇うのよ!」

「嘘じゃない。藍菜が今付き合っているのは上森さんだ。本人に確認してみれば良い」


 玲君のその言葉を聞いて目の色を変えた真理亜さんは、何を思ったか穴から顔を引っ込めてしまいました。


「バカ。真理亜さんは上森さんも自分のモノにしたがってたんだから逆効果ってこともあるでしょうが」

「あ」


 杏奈さんの懸念は残念ながらその数十秒後現実のモノとなりました。


「何? 水?」


 天井の穴からプラスチックのチューブの端が顔を出し、そこから液体が垂れて来たのです。


「違うこれ――――灯油だ」


 え?


「そう灯油。丁度良いでしょう? 私を裏切った玲と、上森さんまでたらしこんだ悪女を焼き殺すには。それに、こんな山奥なら目撃者なんかいないわ。全部燃えれば誰がやったかなんて分からない」


 再び顔を出した真理亜さんの顔にはもう怒気は浮かんでいません。浮かんでいるのは私達に対する嘲りでしょうか? ゴミを見るような目。真理亜さんはそんな目で私達を見ています。


「だとしたら杏奈さんは? 関係ないのなら杏奈さんを解放して下さい」


 私の必死の訴えは、


「そんなことを言って扉を開けて貰おうなんて無駄よ」


 あっさりと却下されました。


 そして、絨毯やソファーに火が燃え広がるには充分と思われる量の灯油が撒かれると、火の着いた布らしきモノが投下され火は直ぐに広がり始めました。


「杏奈、藍菜。本当にごめん」

「バカ」


 茫然とただそれを見ていた私と杏奈さんを抱き寄せて玲君が謝ります。


「「ごめんね藍菜」」


 そしてその直後、何故か私に謝った二人。何も言えないまま黒々した煙りにのまれて行った私が口に出せずに最後に願ったのは――――


「来世で二人が幸せになれますように」






 二日後、上森さんのところに現れた真理亜さんは放火殺人犯として逮捕されました。その逮捕の決め手は玲君が携帯に残したダイイングメッセージ。


 ――放火殺人犯は安藤真理亜。他若い男性一人。上森俊に接触の可能性あり――


 携帯電波は遮断出来る監禁部屋でしたが、携帯やそれ以外のものが燃え残る可能性には考え至って無かったという間の抜けた話です。


 勿論、死んでしまった私は知らないことです。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 あちゃちゃ〜。


 自殺しないで何するのかと思ってたらあのビッチ。三人も運命を歪めちまいやがったよ。まあこれも運命っちゃ運命だがな。ちょっと報われねえわな。


 そうだ。徳の分だけボーナス付けて転生させてやるか。


 ああ。どうせあのビッチも死刑だから徳の分だけボーナス付けて転生させてやるか。


 フッフッフッフッフ。





2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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