#110.ゲームの開始
シルヴィアンナ視点です
「ビルガー公爵令嬢マリア様。お相手はビルガー公爵令息エリアス様」
ん? 金髪?
んん? 赤髪?
んんん? 大きな階段を降りる二人?
わたくし知っているわこのスチル!
えーと確か……恋する……恋する学園、何か違うわね。ええとぉ……恋する学校、いえ、恋する学院だわ。そう『恋する学院〜魔法の力であの人を〜』ね。
あぁ、考えてみたらクラウドってメインヒーローだわ。エリアスもカイザールもヨーゼフも攻略キャラだし、ヴァネッサは悪役。ヘイブスのオルトランもいたかしらね?
あ! わたくし第一王子の婚約者だわ。ハンナはカイザールの敵役で……身内ばっかりじゃない。投稿小説では良く有る話なのに……玲を見付けたあと藍菜を捜すのに夢中になり過ぎたわ。これだけゲームキャラに接していながら今の今まで気付かないなんて……まああのゲームをやっていたのは、隠しキャラの最強騎士様の激甘ボイスを聴きたかったからだから、メイン攻略キャラはほったらかしだったわけだけど。
それにしても17に成るまで気付かないなんて酷いわね。没落エンドとか無かったわよね? ああ、ダメだわ他のキャラのエンドなんて殆ど覚えてない。隠しキャラの出現条件だったから一回は攻略している筈だけれど……。
ヴァネッサは意地悪なキャラだったけれどわたくしはそうでも無かった気もするわ。何よりわたくしは第一王子の婚約者ではないのだし。
あれ? 第一王子?
……思い出した。第一王子と第二王子で太子の座を争うイベントがあったのだわ。だからゲームでクラウド様は王太子ではなかった筈よ。わたくしが婚約フラグを折ったから王太子に成れた……とは考え難いわね。もしかしたらクラウド様の周りに転生者が、藍菜が居るのかもしれないわ。だとしたら――――
「マリア・ビルガーと申します。宜しくお願い致しますわ」
ふんわりした金髪とぱっちりした碧眼には惹き付けられるモノがあるし、小柄で華奢な体格には確かに庇護欲そそられるわ。高く綺麗な声はどこか癒される空気を宿しているし、貴族らしさのない豊かな表情に親しみを覚える者も少なくないでしょう。そしてその幼さの残る小さな顔は、十人が十人可愛いと言うほど愛らしい。流石は主人公と言ったところですわね。
「シルヴィアンナ・エリントンですわ。同じ公爵家の令嬢として仲良くしましょう」
「是非ともお願い致しますわ。クラウド様のこともお伺いしたいですし」
クラウド様? 何か勘違いをしているのかしらね?
「クラウド様とはそれほど親密ではありませんのよ。まあでも、マリア様がお望みになるならクラウド様との仲を取り持つことも出来なくはありませんわ」
と言うより、積極的に取り持ちますから、わたくしを正妃候補のリストから外して下さい。
え? ……何がそこまで不服なのかは解りませんが、幾ら可愛い顔でもそんなしかめっ面していたら周りの方が逃げてしまいますわよ?
「何不躾な面をしている。常に微笑んでいろと母上に言われたのをもう忘れたのか?」
「申し訳ありません」
「人のことは言えませんわよエリアス様。マリア様の挨拶回りに付き合わされて不快なのは解りますが、クラウド様並みの無愛想顔で横に居られたら、マリア様が幾ら可愛らしくとも貴方の印象ばかりになってしまいますわ」
あの無愛想顔の傍にずっと居るのなんてどういう感覚なのかしらねあの娘。それとも二人キリの時は笑ったりするのかしら?
「ちっ。行くぞマリア。上位貴族全員と挨拶しなくてはいけないのだ」
なんだかんだで、ちゃんと兄として振る舞っているようですわね。昔の俺様な性格のままだったら親に言われてもこんなことはしなかったでしょうけど。まあ一つ下のクラウド様に剣でボロボロに負かされたりしたら俺様なんてやってられないわよね。
ん? オープニングでさっきのスチルが登場して、そのあとわたくしに挨拶なんて……してないわね。ゲームと現実は違って当然だけれど、エリアスと一緒に挨拶回りなんてしなかった。そうよ。この夜会で何処に行くかで、ある程度ルートが決まってしまったのだわ。
他は良く覚えていないけれど、庭に出ると入れるルートは王子様二人と最強騎士様のルートだったのは間違いないわ。此処で騎士様に出会えないとほぼ攻略出来ないものだから、出現率がとても低い騎士様が出るまで何度やり直したか分からないもの。
オープニングが矢鱈と長いからスキップ機能には感謝したわね。やっと出たと思ったら恋人と一緒に居たものだから好感度が上がらずにぶちギレたことがあったけど……。
最強騎士様のお名前は確かアンドレアス・ボトフ。学院の臨時講師だったわ。だからあまり会えないのよねぇ。
あ! そう言えば、魔撃科の特別講師がクラウド様並みの男前だって取り巻きの子達が言っていたわね。
ん? 既婚者だからどうのこうのって話していたような……わたくしと騎士様は一切関わっていないし、玲もそうでしょうね。とすると、やっぱり転生者が居るのかしらね。あと最低一人は。
ああそうだ!
騎士様と第一王子には因縁があったのだわ。騎士様の妹さんがクラウド様の妹の看病をしてそのまま両方の妹が亡くなった。更には第一王子も病気にかかっていて、自分の病気に気付かず弟にうつしてしまい、弟まで亡くしてしまうのよね。それで父親とも母親ともギクシャクして疎遠になり孤独な王子を主人公が癒す。そんな話だった筈だわ。
騎士様は騎士様で妹を亡くしたのは看病をさせることを隠して召集した王家に問題があると思っていて、近衛として忠誠を尽くせていないと主人公に悩みを打ち明けるわけだけど……何で恋人から主人公に乗り替えたかは正直疑問なのよね。
一途で優しい恋人には同情したわ。まあ確かに亡くなった被るモノが有ったら声を掛けるぐらいしても良いかもしれないけれど、リアルであの恋人を捨てる男がいたらぶん殴ってるわね。藍菜が玲をふったから良いけど、玲が藍菜をふったとしたら絶対ぶん殴ったし。
あ、なんか思考が逸れていますわね。
恋人には同情しつつ、主人公に優しい最強騎士様の激甘ボイスに身悶えしていた前世の私は横に置いておくとして、今わたくしはゲームの記憶を掘り出しておかなければなりませんわ。
と言っても、騎士様のルートなんて今思い出したのが殆ど全て。オープニングイベントで出会ったあとは、パラメーターを上げてランダムに登場する騎士様を求めて学院の鍛練場や街をうろつくだけだものね。ストーリーも単純で特別変わったことない普通のラブストーリー。最後は主人公が拉致されて危うい所を助けられる。そんなベタなストーリーだったわ。
変わった所と言えば妹の話程度でそれも酷く引き摺っている話ではなかった。よっぽど第一王子の方が騎士様の妹のことを引き摺って……そうだわ! 第一王子の初恋の人が騎士様の妹。しかも――――
金髪。
だから第一王子も騎士様も主人公に興味を持ったという設定だったわ。そして、今間違いなく生きているあの娘。
「ねえお父様」
「ん? なんだいシルヴィアンナ」
「一つお願いがあるのですけれど」
「シルヴィがお願いとは珍しいなぁ。男以外だったらなんでもあげるよ言ってごらん」
相変わらずの親バカですわねこの父親は。
「調べて欲しい人がいるのですわ」
「調べて? 若い男はダメだよ? そいつを殺したいから調べるというなら協力してあげるよ」
「誰であってもわたくし人殺しはごめんですわ」
「そうかい? シルヴィに無体に真似をする男なんて抹殺すべきだよ?」
……お父様はいつも半分は冗談だけれど半分は本気なのよねぇ。
「そもそも頼みたいのは女性の調査ですわ」
「女性? 誰だい?」
「アンドレアス・ボトフの妹、クリスティアーナ・ボトフですわ」
彼女かレイフィーラ王女のどちらかが転生者である可能性はかなり高いわ。
2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。




