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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第六章 ゲームの開始
110/219

#109.シルヴィアンナのお願い

クラウド視点です

「――――それからクラウド様。これが養子のマリアです。うちの養子と成りましてまだ一年でごさいます故至らないことも多くございますが、幸い魔技能値に恵まれた娘。王国の未来を繋げるだけの素質ある娘と自負しております。であるからして――――」


 去年の停戦協定の影響で、今代々外務大臣を務めるビルガー家への風当たりは相当強い。故に公爵本人が長い口上を垂れるのも仕方がないと言えば仕方がないが……エリアスも大変だな。


「ほれ、クラウド様に挨拶しないか」


 金髪。それに青い瞳。偶然とは言え、奇跡的な確率だな。

 公爵に押し出されて王太子用の椅子に腰掛ける私の眼前に出て来たデビュタントの娘は、愛しき人と同じ色を持つ小柄な美少女だった。


「マリア・ビルガーと申します。クラウド様。宜しくお願い致します」


 エリアスの言っていた通り、確かに容姿は非凡だ。それに美人特有の気配がある。ヴァネッサやハンナと言った上位貴族令嬢らしい美人とは違うが、一線を越えた美人の気配だ。とは言うものの、贔屓目無しにティアには遠く及ばないし、レイフィーラやリシュタリカ嬢より劣るがな。


「クラウド・デュマ・セルドアスだ」


 何故不思議そうに私を見る? 無駄に持ち上げて来たり、はしたなくダンスに誘って来る女は珍しくないが、小首を傾げられたのは初めてだ。


「……あのわたしに興……王太子様なんて初めてでどんなお話をしたら良いか全然分からなくて」

「そちらの事情は一応把握している。気にする事は無い」

「……なんで?」

「なんで? 何かおかしなことでも有ったか?」


 挙動不審とまではいかないが変な女だな。


「いえ、魔法学院でも宜しくお願い致します」

「ああ」


 身分に萎縮したり逆に無頓着だったりする平民ぽさはないし、貴族令嬢らしい淑やかさもない。どうにも中途半端な女だ。仕方がないことか。貴族として生活して一年でデビュタントなんて者は早々いない。変に見えるのは私の目が貴族に慣らされているからだろう。


「それではクラウド様。わたくし共はこれで」

「息災でなビルガー公」


 魔技能値135ともなれば王族に嫁げなくともどこかしらの上位貴族に嫁ぐことになるだろうから当然だが、エリアスはあの娘と挨拶回りか。ご苦労なことだ。

 それにしても、セルドアで金髪というのは珍しい。セリアーナ様のように特殊な出地ならば解るが、彼女はビルガー領の小作農家の生まれだ。母親は金髪ではないという話だし、何か関係があるということだろうか? まあ私の瞳のように覚醒遺伝というのも少なくない。薄くとも血の繋がりがあるということであろうな。






 年が明け授業が再開する三日前に学院に戻ると、必要以上に接触して来ない彼女からお茶の誘いがあった。二日後には新入生歓迎舞踏会で踊ることになる彼女とこの時期にお茶をする必要性は皆無だが、今回は正妃候補としての誘いではないらしい。断っても良かったが、それなりに理由がない限り彼女はこんなことはしない。


 さて、今回はどんな誘導尋問に合うことやら。


 お茶会の場所は本校舎内の貴族令嬢達が良く使うサロンだ。いや、今は……。


「はい。どなたですか?」

「クラウドだ。シルヴィアンナ嬢に茶に誘われたのだが?」


 サロンの扉をノックをすると直ぐに返って来た声。それに応えて取り次ぎを頼むと、


「「「きゃぁーー」」」

「本当にいらしたの?」

「シルヴィアンナ様のお誘いで?」

「もうこれは決まりなのではないかしら?」

「いいえ。もう疾うに決まっていたようなことですわ」


 返って来たのは黄色い声だった。どうでも良いからさっさと取り次いでくれ。


「皆様はしたないですわよ。クラウド様。お入り下さい」


 近くにいたのか。


「失礼する」


 扉を開けてサロンに入ると、こちらを向いて立つ十数人の令嬢達が視界に入った。……取り巻きがまた増えていないか? そして、正面の奥には淑女の微笑みを湛えて佇むシルヴィアンナ嬢か……出迎えられた形だな。


「あぁ。シルヴィアンナ様とクラウド様が並ぶ姿をこんなにも近くで拝見出来ますのね」

「これ以上ない至福だわ」

「シルヴィアンナ様。わたくしは後宮までお供しましてよ」


 ……ソフィア様と同じだな。


「皆様。クラウド様が困っていますわよ?」

「あ! 申し訳ございませんクラウド様」

「気にするな」


 私に言い寄って来ない分、ここに居る令嬢達はまだマシなのだ。


「奥にどうぞクラウド様。それから皆様。大事な話をしますので二人キリにして下さいませんか?」

「二人キリ?」

「ええ。お嫌で?」


 正妃候補としてのお茶会ではないのに二人キリ? 狙いが見えないな。だからと言ってシルヴィアンナが何か仕掛けるとは考え難いが。


「いいや、構わない」

「では奥に」


 シルヴィアンナが奥へと歩き初めると、取り巻き達は黙ってサロンから退出した。


「少しは自重させたらどうなのだ?」

「あら? 何か粗相がありまして?」


 確かに私には何の粗相もないが、


「貴女が望んでいるようには見えない」

「利益と不利益の計算ぐらいしてましてよ。彼女達にも彼女達の打算もあるのですからこれで良いのですわ」


 持ちつ持たれつか。女は強かだな。ティアは本当に特別だ。


「お座り下さいクラウド様」

「ああ」


 私が椅子に着くと程なくして茶が出て来た。流石にエリントンの侍女は優秀だな。まあ侍女でありながらこいつは学院生だが。


「ルチア。貴女も下がって頂戴」


 ルチアは私達が見せ掛けの友義を結んでいることまで知っている、シルヴィアンナが最も信用している侍女だ。その彼女まで下がらせるのか。


「シルヴィアンナ様?」

「お願い」


 暫し視線を交わした二人。やがて、


「承知致しました」

「御免なさいルチア」


 物寂しそうにしたルチアが下がり扉から出ると、部屋の外から驚いた女達の声が響いて来た。取り巻きですら驚くようなことなのか……いったいどんな話をする気だ? と言うか、


「扉の前で待っていたのか?」

「その様ですわね」


 流石に呆れているようだな。


「あまり待たすのも悪い。本題に入ってくれないか?」

「長い時間二人キリでなんかいたら、恋人に不義を疑われますものね」

「そうだ。だからさっさと話を進めてくれ」


 本当にやり難い相手だ。


「クリスティアーナ様との仲は順調かしらクラウド様」


 相手がティアであることは明言していなかった筈だが……惚けても無駄であろうな。


「順調だ。それが本題なのか?」

「あら? お認めになられるの?」

「どうせ認めるまで追及して来るのだろう? 確信を持っていてわざわざ質問しないでくれ。それに、貴女のデビュタントの時に相手が金髪であることはバレている。惚けるだけ時間の無駄だ」


 相手が変わっている可能性もあるだろうが、クリスがこの二年ずっと私の侍女であったことぐらいエリントン家なら簡単に分かる筈だ。


「少しの疑いも掛けられたくないほど大事になさっているのですわね?」


 ……これはいったい何だ? 確認か? いつもとは調子が違うぞ。


「クリスと私の仲を確認してどうする積もりだ?」


 まさか準正妃になったという疑いを持っているわけではないだろうな?


「そんなに警戒なさらなくてもわたくしクラウド様とクリスティアーナ様との間を裂こうなどと思っていませんわよ」

「なら何故二年前から知っていたクリスのことを今更? 時間が無いんだ遠回しなやり取りは止めてくれ」


 此方に大きな変化があった一年前に探りを入れて来たのなら納得が行くが、今更クリスのことを訊いて来るなど時期がおかしい。


「クラウド様にお願いしたいことがあるからですわ」


 お願い? シルヴィアンナが私に?


「クリスティアーナ様と直接会ってお話したいのです」


 ティアと会って話したい?


 あとで考えればシルヴィアンナのこのお願いが切っ掛けだったのだ。このあと始まった三つ巴の争奪戦の。






 翌日。お茶の時間。


 こちらの条件を全てのんだシルヴィアンナは、私の寮の応接室まで己の身一つで来た。

 そこまでしてティアとの面会を望んだシルヴィアンナの真意はまだまったく分からないが、近衛二人と私が同席していて妙な真似が出来るとは思えない。

 まあ流石にそこまで警戒する必要はないとは思うがな。実際、「そんなに大事にされてクリスティアーナ様はお幸せですわね」なんて呆れられたが、それでも彼女は了承したのだ。シルヴィアンナにとってこの会合がそれほど重要ということだろう。

 だとしてもティアが嫌がれば断わったが、彼女はまったく躊躇なく了承した。だから、


「気を許すなよ。隙を見せると漬け込まれるぞ」

「警戒し過ぎではありませんか? シルヴィアンナ様が私に何か仕掛けて来るとは思えないのですけど」


 忠告したわけだが、気に掛けていない。


「それはまったく根拠がないだろう?」

「私はクラウド様を信じているだけです。私が幾ら警戒してても魔法が使えるシルヴィアンナ様相手ではどうにもなりません。それに、本当に信用してないならばクラウド様は此所に招き入れたりしない筈です」


 確かにシルヴィアンナが何かするとは思っていないが……。


「分かった行くぞ」

「はい」

「クラウドだ」

「どうぞ」


 ノックをしながら名乗ると直ぐにシルヴィアンナの返事が来た。待ち望んでいた。そんな心境が扉越しの声からも読み取れる。


「入るぞ」


 応接室に入ると下座側に立って待ち構えるシルヴィアンナとその後ろで警戒にあたる近衛の姿が見えた。そのまま歩いて上座に回り込んで立ったまま挨拶する。


「随分お待ちかねのようだなシルヴィアンナ。これがクリスティアーナだ」


 面倒な挨拶は良いだろう。


「お初お目に掛かりますシルヴィアンナ様。クリスティアーナ・ボトフと申します」


 ボトフか。早く本当の名を名乗れるようにしてやらないとな。


「シルヴィアンナ・エリントンですわ。わたくしは全然初めての積もりはないのだけれど?」


 ちゃんと挨拶したことはないだろうが。


「失礼致しました。ご健勝のこととお見受け致します。お忙しい中お越し下さりありがとうございました」

「クリスティアーナ様。大事な質問をしますがよろしいかしら?」

「はい? はあ……何でしょうか?」


 突然口調を変えたシルヴィアンナにティアは付いて行けていない。シルヴィアンナのペースだ。


 しかし……大事な質問? 早々に本題ということか?


「一条藍菜をご存知かしら?」


 イチジョウアイナ? なんだそれは名前か?






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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