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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#10.側妃と息子

 後宮で生活するお妃様は今16人いらっしゃいます。その内正妻――正妃と呼ぶと王后陛下とごっちゃになるので区別します――が5人で、側妃が11人です。そしてなんと側妃11人の中7人が国王陛下の側妃様です。


 なんだぁ。あんなに素敵な正妃様がいるのに結局王様ってそういうのか。男って最低ぇ〜、やっぱ結婚なんかしないで子供だけ欲しいなぁ。とか、そんな話ではありません。


 その7人の側妃様の中4人が、前の旦那さんを国の為に亡くした女性で、子供が居て且つ再婚の難しかった方々だそうです。そういった背景で側妃となった場合、比較的簡単に外出許可が出て、社交会等で再々婚相手を探すことも出来るようですよ。勿論お手付きがあったら話が別のようですが、要するに救済措置が取られているわけです。


 その4人は解った。でもあと3人も居るじゃない!


 と、仰る方も居るかもしれませんが、あとのお三方はこれまた奇妙な立ち位置にいる方々です。

 国王陛下の側妃であることに変わりはないのですが、先の妃晩餐会でクラウド様のコイバナに食い付いていたお三方は、ソフィア様の取り巻きなのです。え? いや、だから、


 ソフィア様の取り巻きです。


 中等学院時代から「お姉様」を慕って後宮まで付いて来たのだそうです。側妃と言っても政略的意味合いが無いわけではありませんから、実家と王家で合意し、後宮に入ることは考えられます。もしくは、正妃に子供が出来ないことを見越して実家が娘を後宮に押し込むこともあるそうです。それから双方又は片方の想い故に側妃として後宮へ入ることもあるでしょう。


 しかし、王妃様を慕って後宮入りしたお三方……なんですかそれは?


 そのお三方を最初に見たのはレイテシア様達と一緒に後宮のお庭を散策している時でした。

 レイテシア様の散策は普通の王族の散策より大所帯です。それは、レイテシア様が王太子妃であることは勿論ですが、レイフィーラ様とキーセ様も一緒だからです。まあ当然と言えば当然ですね。

 しかしある散策の時、こちらより大所帯な一団に遭遇しました。その一団は複数の王族が混ざったような陣容で、明らかにこちらよりベテランの侍女が揃っていたのです。そして、その一団を率いて先頭を優雅に歩く長身の熟女。いいえ。この熟女は「年老いた女性」という意味ではありませんよ。「成熟した大人の色香を纏った女性」という意味です。


 その女性が他ならぬ王后陛下ソフィア様でした。


 まあここまでなら「あんな年の取り方が出来たら良いなぁ」という話でしかないのですが、予想の斜め上を行ったのはソフィア様とレイテシア様が挨拶を交わしたあとでした。


 挨拶のあと、お二人が当たり障りのない会話を始めるや否や、お三方はソフィア様の横まで出て来て勝手に話始めたのです。その内容は、今年の侍女見習いはどうだとか、上位貴族が婚約したとか、今年の夏至のドレス祭りはどうだとか、なんてことはない話題です。ただ、いえ、レイテシア様を直接貶めたりはしていないのですが、一々ソフィア様を持ち上げるのです。

 中等学院からだとしたら一体何十年あんなことをしているのでしょうか? ソフィア様が打ち切るまで延々と話を続けるお三方の勢いは、大阪のオバハンもかくや、といった具合でした。

 いえ、お三方共見目麗しい淑女ですし、断じて失礼なことをしているわけではありませんよ? ただ、亀の甲より年の功と言いましょうか、お姫様育ちのレイテシア様が敵う方々ではありません。


 ご苦労様ですレイテシア様。


 話を戻しましょう。11人中7人が陛下の側妃ですから残りは当然4人です。4人共お三方のように特殊な側妃ではなく救済処置を含めた普通の側妃なのですが、その中2人が王弟殿下の側妃で、1人が第二王子(王太子の弟)の側妃です。そして最後の1人が王太子殿下の側妃メリザント様です。


 メリザント様は、中立派のルセデイア侯爵家出身で、青髪が綺麗な長身モデル体型の美人さんです。ただ鼻筋が通っていて狐目なのできつい印象を受ける女性ですね。

 え? 今ご本人を観察しながらお話しているので間違いはありませんよ? ただ、


「私は体調が優れないので部屋に戻りますわ。ウィリアム、夕食は予定通りよ」

「ご無理なさらなくても夕食などいつでもご一緒出来ます。母上はゆっくりお休み下さい」

「そう? ありがとうウィリアム。あなたは優しいのね」


 何故か演技臭いので見た目の特徴以外はお話していないだけです。この母子はどうも苦手です。なんて言うか、やることなすこと全て本心と別のところでやっているというか……。一言で言ってしまえば「胡散臭い」です。


 まあアラサーのメリザント様だけがそれをやっているなら「そういう人も居る」で流せるのですが、


「お大事にお母様。サンナさん。母をお願いします」


 メリザント様のご子息でクラウド様の腹違いの弟、七歳のウィリアム様までも同じようになされるのが、どうにもむず痒いです。


「せっかくお時間を頂いたのに申し訳ございません」


 ウィリアム様は、謝罪しながらレイテシア様に向けて笑顔を向けます。謝罪しながら笑顔って……子供ですからそれで良いとも思いますが、計算してやっていませんか?


 残念ながら、彼に付いている侍女の一部はその笑顔に陥落しているようですね。私にはうさ……自重しておきます。


 私がウィリアム様の顔をまともに見るのは今日が初めてなのですが、なんというかそうですね。クラウド様がキラキラ王子様ならウィリアム様はギラギラ王子様でしょうかね?

 真っ青な髪が印象的で人好きのする笑顔がデフォルトな彼は、将来性充分のイケメン候補生なのですが、その妙な色気の漂う笑顔が曲者でして……クラウド様は無愛想ですし、キーセ様は無口過ぎます。そしてウィリアム様は似非スマイ、ゴホン、なんで残念な王子様ばっかりいるのでしょうね?


「気にすることはないわウィリアム。貴方もメリザントさんと一緒に居たいのなら行っていいのよ?」

「いいえ。今は兄弟で過ごす時間です。それに兄上は私の目標ですから、傍に居れば何かと吸収出来ることも多いでしょう」


 何かと吸収出来るって……七歳児の言葉ではありませんね。あ、でも考えてみると、クラウド様も年相応とは思えない発言も多いですね。「王族として」とか「将来役立つ」とかそういう言葉が自然と出て来ます。王族故なのか本人の性格故なのかは判りませんが、少なくとも責任感は強い方ですね。

 ただ、ウィリアム様はそうは見えなくて、全体的に胡散く……自重します。


「兄弟の交流会などで学ぶことなど大してないだろう。ここは息子としてメリザント様に付いていた方が良いと思うが? ましてや晩餐の予定を狂わせる必要もない」


 クラウド様は無表情に淡々と言いました。クラウド様とウィリアム様は今一つ仲が悪いみたいですね。


「いいえ兄上。私は単純に、腹違いとはいえ兄弟達との交流を図りたいのです」


 その声は硬質で妙な緊張感が宿っていましたし、常に浮かべている笑顔にも陰りが垣間見えました。ウィリアム様はクラウド様を敵視しているということでしょうか? 王位争いがあるとは聞いていませんが……。


「そう。なら皆仲良くね」


 レイテシア様。お二人の間に在る不穏な空気は無視ですか? 先に禍根を残さない為にもここでちゃんと解決しておいた方が良い気がします。


 うーん。どうしましょう。って私の考えることではありませんし、どうにか出来そうでもありませんね。


 なんて考えていたのですが、私は思わぬ形でこれに巻き込まれてしまいました。






次回 2015/09/14 12時更新予定です。


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