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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第五章 新婚生活と魔法学院
108/219

#107.来年の入学生

 今日クラウド様は珍しく院生会室の応接間でお茶をしています。普段は奥の執務室にずっと居るクラウド様がこの部屋で皆と一緒に雑談している理由は――――


「ハイテルダルとデイラード、ゴラの三国が連携してるというなら、停戦協定は当然じゃないかな?」


 緑色の髪で中背のゴリマッチョ。副会長の二年生、ヨーゼフ・クライフアン様がそんなことを言うと、


「そんな不確かな情報で停戦協定など結び、三十年前の恨みを忘れろというのは強引過ぎる」


 赤い髪の長身の美丈夫。会長の二年生、エリアス・ビルガー様が応えました。


「情報が不確かだったのはデイラードの動きを見落とした外交部の甘さだろう。ビルガー家の人間にそう言われても説得力がない」


 銀髪の長身細マッチョ、一年生クラウド・デュマ・セルドアス様が呆れたように言い放ちます。


「真価が問われるのは期限が切れる時で停戦協定は猶予期間。どうせ小競り合いは十年一度しか起こらないのだから二年伸びても大して変わらない」


 黄色い髪、細身で長身な一年生書記、カイザール・ベルノッティ様が現状を丁寧に説明しました。


「猶予期間など美しくない。ルギスタンなど叩き潰してしまえば良い」


 橙色の髪で中背細身な一年生会計、オルトラン・ヘイブス様の発言は……。


「全てを統括するのが王家だ。デイラードの警戒を怠ったのは、外交部の甘さというのは責任転嫁に過ぎん」

「デイラードに対して無警戒だったことは確かに我々の怠慢だろうな。だがここ数年、ハイテルダルとゴラはの動きには細心の注意を払うよう命じていた。デイラードに対する動きを見落としたのは外交部だろう?

 それとも、外務省の人事にまで王家の方で口を出せということか?」


 「ハイテルダルとゴラの連携はデイラードに対するモノ」という先入観が外交部にあったのは間違いないでしょうね。逆に王家直轄の諜報部隊は確信は持てなくともこの動きを掴んでいました。結果的にルギスタンの中央の方が動きが早かったわけですが、僅か一ヶ月で停戦協定が結ばれたのはその為です。ま、ビルガー家の知らないことですけどね。


「どちらにせよ、この状態がこのまま百年続くなどあり得ないと思いますが、王家ではどう見ているのでしょうか?」


 エリアス様とクラウド様の間で少し緊張感のある空気が流れたのを嫌がるように、レイノルド・ルアン様が質問しました。

 二年生の監査、レイノルド様は濃紺の髪で優しい顔立ちのスマートな男性です。院生会では他が上位貴族令息なのもあってあまり発言しない方ですね。少し気の弱そうな方です。まあ、私は時々しかいませんので詳しくは知りませんが。


「セルドアとルギスタンの関係がどうなるかで大陸西部の情勢は大きく変わる。まずはルギスタンの動きを注視する必要があるな。もしルギスタンがゴラに付くような動きを見せたなら、セルドアも動かざるを得ない」


 ゴラとデイラード、ハイテルダルそしてルギスタンが合わされば、セルドアとルダーツを合わせるよりもかなり大きな戦力となります。ちゃんと連携が取れるかは大きな疑問符が付きますが、懐柔するにしても強行するにしてもセルドアとして能動的に動かざるを得ないでしょう。


「飽くまで受け身ということか?」

「そもそも、ハイテルダルとデイラードは兎も角、ゴラとデイラードの連携はまだ確定とは言えないのだ。実際公には動いていないわけだしな。

 ルギスタンが敏速に対応してセルドアとの停戦協定が成立したことで停滞状況に陥ったとも考えられる。我々の動きを向こうも注視している。中途半端に動けば足許を見られるだろう。

 それとも、「西の盟主」がオロオロしている所を見せろとでも言うのかエリアス」


 どっしり構えていれば良い。そんか言い様をしたクラウド様です。横綱相撲ですね。


「入るよぉ」


 ノック無しに扉が開くと同時に入室を告げる声がしました。院生会室の入って来たのはグレイ・ベイト様です。グレイ様は弟ルンバート様と同じ紫色の髪をしていますが、男性としては小柄で線の細いルンバート様とは違い中背でがっしりした体格の方です。


「随分ピリッとした空気だったみたいだけど何を話していたんだい?」


 貴方の登場で真剣な空気は壊れてしまいましたけどね。


「グレイは少し真面目に何かしようとは思わないのか?」


 いつも飄々としていますからねグレイ様は。


「珍しいなぁ。クラウド様がこっちにいるのか。どんな気紛れだい?」

「姉上が居ないから」


 そうです。今日はヴァネッサ様が居ないのです。


「ああそういうことか。そんなにヴァネッサが嫌ならシルヴィアンナを正妃にしてしまえば良いんじゃないかい?」

「ヴァネッサが嫌なわけではない。ヴァネッサが付け上がるからここで茶を飲むわけにはいかないだけだ」


 クラウド様は別に女の子が嫌いなわけではないですからね。言い寄って来られるのをあしらうのが面倒なだけで。


「ふーん。じゃあ正妃はどうするんだい?」

「グレイ様。お茶はいかがですか?」

「頂戴」


 ソファーに腰掛けながら軽く質問するグレイ様に問うと、軽く答えが返って来ました。


「まだ何も。父上からは二十歳までに決めろと言われているがな」


 お前は全部知っているだろう。そんな目でグレイ様を睨んでいるクラウド様です。


「ふーん。二十歳ねぇ」


 そこで私を見るのは止めて下さいグレイ様。バレます。


「どうぞ」

「ほい。ありがとう」


 紅茶を出した私に対して軽くウィンクしたグレイ様です。だから止めて下さい。


「そう言えば、ビルガーに凄い魔才値を持った女の子が入ったとかいう話があったのはどうなったんだいエリアス?」


 唐突な質問をしたのはヨーゼフ様です。いえ、正妃の話をしていたのですから唐突でもありませんね。


「さあな。夏至休業で家に帰った時に一応顔は合わせたがそれだけだ。どうも何もない」


 魔力暴走の話のあとビルガー家の正式な養子となったという話はありましたが、以降私達のところにも何一つ情報は入って来ませんでした。恐らくビルガー家内で英才教育を受けている最中でしょう。


「ん? 今年15じゃなかったっけ?」


 ……良くご存知ですね。グレイ様。


「そう言えばデビュタントのパートナーをやれと言われたな」

「と言うことは、今年受験で来年入学して来るのか。魔技能値135というのは興味あるな。どんな娘なんだ?」


 クラウド様やお兄様とそう変わらないので私は興味はありませんが、皆様は興味津々のようです。

 クラウド様はとっても嫌そうな顔をしていますけどね。私を正妃にする積もりなら正妃候補が増えるなんてマイナス要素でしかありません。クラウド様にとっては面倒が増えるだけでしょう。


「容姿は良い。だがそれ以外はただの市井の娘だ。矢鱈と俺に絡んで来たがな」


 イリーナ様を見初めたエリアス様です。女性を見る目は肥えているでしょうからエリアス様が容姿は良いと言うならばかなりの美人さんなのでしょうね。


「美しいのか?」


 オルトラン様が食い付きました。ある意味ぶれない方ですね。まあオルトラン様は自分からあまり声を掛けないようですけど……。


「シルヴィアンナには及ばないが、ヴァネッサやハンナとは互角に立つだろうな」


 この評価は凄いですね。シルヴィアンナ様は並の美人さんから頭二つ抜けた出した超絶美女ですから及ばないのも当然ですが、ヴァネッサ様もハンナ様も上位貴族の女性の中でもお綺麗な方です。平民出身でそれと並び立つ美人というのは相当です。


「へー。ハンナやヴァネッサと互角ねぇ。あ、僕は来年卒業してしまうから会えないねぇ」

「デビュタントが過ぎたらどうせ社交に引っ張りだこだろうからどこかで会えるよ」

「まあそうかなぁ。

 あ! 来年と言えばルンバートが入学して来るから皆宜しく頼むよ。見た目はちょっと、いや、相当変わった弟だけど、中身は普通の男だから」


 確かにルンバート様の見た目は変わっていますが、実の兄なのにその言い方は酷いと思います。


「ベイトの五男か。伯爵家で最も力の有るベイト家がそうまで変わり種揃いとはな」


 嘆くように言っていますがエリアス様。私から見たら貴方の性癖も充分異常ですからね。


 そう言えば、来年はウィリアム様も入って来るのです。……来年は今年以上に変わり種が此所に集合することになりそうですね。






 その数日後、上位貴族男子寮の遊戯棟。妾の集い。


「ソアラさんだけですか? カマラさんは?」






2015年11月中は毎日零時と十二時に更新します。

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