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側妃って幸せですか?  作者: 岩骨
第一章 侍女見習い
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#9.妃晩餐会

 侍女見習いになって4ヶ月が経過しました。大変ですが充実した毎日を過ごしています。


 レイフィーラ様とルームメイトのミーティア様とはかなり仲良くなれましたし、レイテシア様付き侍女のお姉様方とも打ち解けてきました。まあ当たり前と言えば当たり前ですが、仕事で認められたりはしていません。ただ、変に怒られたり距離を置かれたりはしていません。一応同僚の一人として認めて頂けたようです。


 それからクラウド様とはあの後何度となく顔を合わせていますが、相変わらずの無愛想です。

 と言うか、キーセ様も含めて兄弟三人の対面はいつも微妙な空気です。決して仲が悪いわけではありませんし、嫌々会っているようにも見えないのですが、クラウド様は無愛想でキーセ様は無口なのでお三人だけだとお昼のお茶の時間が妙に静かに過ぎて去って行くのです。下手をすると、部外者の私とレイフィーラ様の会話が一番多いぐらいで……。

 でもレイフィーラ様はクラウド様と会うのが嬉しいようで、クラウド様とのお茶会の前はニコニコなレイフィーラ様が拝めるのです。絵本から出てきたお姫様に笑顔を振り撒かれたらこっちも自然と笑顔になってしまいますよね?


 そんな微笑ましい?話ばかりなら良いのですが、今日私はとても、いえ、極めてピリピリした空間でレイテシア様の後ろに控えています。

 確かに誰一人として控えている侍女に何か頼む方はいらっしゃいませんが……嵌めましたねナビス様。恨みますよ?


 今日後宮で開かれたのは「妃晩餐会」です。


 妃晩餐会。言い換えれば妃限定晩餐会。そうです。いないのです。間に入る人が。せっかく居るのですから二人の間に入るお孫さんを入れましょうよ。そうじゃなくてもせめて息子さんを入れるとか、役立たずかもしれませんが旦那さんを入れるとかあるじゃないですか!


 お嫁さんとお姑さんが同じ部屋で食事なんて間違えてる!


 いいえ。正妃様も王太子妃様も淑女ですから遠回しにも相手を非難したりしてませんよ。普通の挨拶をして、普通の質問をして、普通の答えを返しているだけです。だけど――――


 だけど何でこんなにピリピリしているのですか!!


「話は変わるけれどレイテシアさん。クラウドはどうかしら?」


 長テーブルの端、上座からその対面に座るレイテシア様に声が掛かります。その女王然とした声の主は勿論正妃様。鮮やかな青い髪を縦ロールにしたその女性はアイスブルーの瞳を持つ長身の迫力美人です。声も然ることながら雰囲気も「女王様」と言った感じです。

 いえ、正妃様ですよ。王様はちゃんといらっしゃいます。現国王クラウディオ陛下の正妃ソフィア様は、王国に二つしかない公爵家の一つエリントン公爵家のご出身で、物心つく前に結婚が決まっていたのに国王様とはラブラブだそうです。アラフィフでラブラブって羨ましいですね。


「クラウドは魔法だけでなく剣にも才能があると伺いましたわ。まだまだ学ぶことも多く至らぬ点も多いでしょうが、将来国を背負い立つ者として頼もしい成長を見せてくれています」

「長子としてしっかり育っているようなら朗報ね。わたくしも正妃として応援していると伝えて欲しいわ。ただ、わたくしは別の話を聞いたのだけれど?」


 女王様、いえ、正妃様は何かを試しているのでしょうか? この質問は非常に危険な臭いがします。


「別、と仰いますと?」

「クラウドがどうやら恋をしたとか?」


 え! クラウド様が恋ですか?


 本当だったらおませさんですね。まあ恋と言っても八歳ぐらいの恋は情と区別がつきませんからね。親愛の情なのか、恋心なのか本人すら区別出来ないのではないでしょうかね?


「クラウド様が? 本当ですのソフィア様!」

「お相手は? どんな方なの? シルヴィだったら嬉しいわ!」


 比較的正妃様の近くに座っていたお妃様数人がその話に食い付きました。外見は全くそうは見えませんが、正妃様はアラフィフです。今反応した方々も同世代です。女性のコイバナ好きは永久不滅ですね。


「落ち着きなさいパトリシア。オデットもはしたないわよ」


 正妃様が興奮し過ぎた二人を窘めます。そして、場が収まったのを見計らって切り出しました。


「下位貴族の令嬢と伺ったのだけれども、噂の方が間違いかしら?」


 質問の形式を取ってますがこれは只の確認ですね。正妃様はたぶん確定的な情報を掴んでから探りに来ています。侍女ですから後ろに控えているしかありませんが、レイテシア様がどういう顔をなさっているのか気になりますね。

 それにしても今のクラウド様に下位貴族の令嬢との出会いなんてあるのでしょうか? 子供達の交流会もあるそうですが、出席者は皆上位貴族の子女だった筈です。10歳足らずでは視察に出ることも少ないですし……。


「さあどうでしょうか? 本人も何も話していなければ、わたくしとしてもそんな噂は耳にしていませんのでなんとも。只の噂の類ではないのでしょうか?」

「そうなの残念だわ。まあ、クラウドにはまだ婚約者が居ないからそういった噂は飛び易いのでしょうねぇ。

 しかし噂というのは厄介なモノだわ。一度広がり始めると無責任に誇張されて想像も着かない大きさになる。注意しなくてはいけないわ。本当に」


 最後の部分を強調して放たれたその言葉は、レイテシア様だけでなく他の妃達そして侍女達にも向けられたモノでした。ちょっと怖かったです。


 クラウド様にはまだ婚約者が居ません。


 そうです。キラキラ王子様なのに性格がアレで寄ってくる女の子がいないので、王家が打診しても断られてしまうのです。次期王太子の最有力候補なのに縁談一つ無いなんてこの国の行く末は本当に大丈夫でしょうか?

 嘘です。クラウド様は貴族の間で「無二の駿傑」なんて称される程非常に高く評価されています。行く行くは必ず王に成ると言われている方ですから、外見と相まって同世代の上位貴族令嬢の第一標的です。引く手あまたですね。


 そんなクラウド様に今のところ婚約者がいない理由は大きく分けて二つあります。


 今現在、セルドア王国もその周辺諸国もこの国と強い結び付きを求めていません。北のルダーツ王国からは既にレイテシア様が嫁いで来ていますし、東のルギスタン帝国とは小競り合いを続けていますから、お姫様が嫁いで来る可能性は極めて低いです。北東のハイテルダル皇国はルギスタン帝国の同盟国ですし、それ以外の比較的小さな周辺国はセルドア国王の正妃としてお姫様を嫁がせるような国力を持ちませんから、クラウド様がそれらの国のお姫様と結婚する可能性はほぼありません。これがひとつ目の理由、外交上の理由です。


 一つ目が外交上なら二つ目は内政上の理由です。今セルドア王国は極めて安定した内政状態にあります。


 え? 安定しているなら婚約者ぐらい決められる?


 それは逆です。安定しているからこそバランスが崩れる次期王太子妃は安易に決められないのです。とは言え王権は安定していますから国が大崩れする事はないと思いますが、安定しているからこそ慎重な選択が必要なのかもしれません。


 一年程前、クラウド様の婚約話が具体的に浮上したことが有るそうです。そのお相手はシルヴィアンナ・エリントン公爵令嬢。王后陛下ソフィア様のお兄様のお孫さんです。当然その縁談はご破算になったわけですが、その一番の理由は、ソフィア様がエリントン公爵家の出身だから、だそうです。又従姉弟で血が濃すぎるなんて言う理由ではありません。レイテシア様が外国出身ですから、国内の出身の正妃だけを考えると二代続けてエリントン家から出る事を懸念したようですね。バランスを維持するのって大変なことですね。

 だからと言って、シルヴィアンナさんとクラウド様の結婚の可能性が無くなったわけではないようです。エリントン家出身なのは最初から分かっていた事なのに具体的な話が出る程優秀な方のようですし、保留状態にあるようですね。

 上位貴族の令嬢って余りお話しした事がないので(侍女見習いは下位貴族中心)一度お話してみたいですね。仲良く成れるといいのですが……。


 え? それはそうですよ。だって未来の上司かもしれないんですよ? 勿論、私が後宮の官僚として残れればの話ですが。






次回 2015/09/12 12時更新予定です。


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