1日目=夜食は夕食より食べる。
夜が一番好きだ。
真顔で母親に言うとなんで?!と驚いていた。
茶碗を洗う母の背中に"仕事したいなぁ"とスプーンを行儀悪くくわえて喋った。
"選ばなかったらたくさんある"
正論すぎてなにも言えなくなってまた"仕事したいなぁ"と他人事のようにまた口からこぼれた。
「次ランク8の緑の大鳥行こう」
『またかぁ?俺次の9行きたいんだけど?』
「俺の装備が揃ってない素材強化の道具が手に入らない」
『好きだな、強化』
「攻撃は最大の防御って名言あるだろ」
ヘイヘイと諦めた声がイヤホンからしてきてパコソンのキーボードを操作しながらマウスを滑らせる。
電気もつけずに暗い部屋に明るく照らされる色とりどりの光。
プハァーとタバコをくわえるとキーボードを連打する。
"熱いな"とイヤホンから聞こえてくる男の声に夏だからに決まってんだろ、と心の中で毒づいた。
『おい、ゆう、俺明日仕事だから出来ても一時までだぞ』
「社畜ゴロウ…か」
『ニートが』
「ニートでいいだろー!うはは!」
『…はぁ…』
キャラクター名で笑いながら話すと呆れたようなため息が聞こえた。
たまたまサイトで紹介されていたのを見てやったことがないと手をつけた。
先輩として先に遊んでいたゴロウと初心者歓迎という掲示板に載っているのを見付けたのだ。
最初はぎこちなかった操作も今ではスムーズにこなせる。
3日で無理だと言われていた職業に就き、あっという間にゴロウのレベルを越えた。
課金?と聞かれたこともあったがニートなので、と言ったら納得された。
時間があればいくらでもできる。
「あー、疲れた、夜食食ってからねっかなー」
『体壊すぞ、いつもお前何食べてんの?』
「朝昼は食わん、夜に一合の米をおかずなしで食べる、水は1日2リットル飲む」
『病院行け』
「おいこら」
『夜食は何食うの…』
「ラーメン3袋!」
『おやすみ』
通話の終了を知らせる音がピコン、と優しく耳に届いてまじか、と口が動いた。
時計を見れば2時近く。
これは申し訳ないことをした。
だが、私はこれからラーメンを作りに出陣する。
遅くまでありがとう、と入力して最後にenterを軽く叩いた。
「あーっ…食った…さて、音楽聞きながら妄想!くーっ!最高!!…幸せ体験してますなぁ、俺」
サラリと流れる金髪の前髪を払ってスマホの画面に指を走らせる。
自然に鼻唄を歌っている辺りこれかな?と再生ボタンを押す。
ぽんぽん、と膨らんだお腹を叩いて太鼓のような音を鳴らした後に優しく撫でた。
うとうとし始めた意識に妄想の為に働いていた脳が休んでいくのを感じた。
景色が変わらない映像を最後に夢へと意識を飛ばした。