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032.Don't Let Me Be Misunderstood<ニホン式ミートソース>

「ユウさん、このパスタ注文を入れました?」

定期配送便の検品を担当していたアンが、厨房に居たユウに尋ねてくる。


「あれっ、いつもの太さのデ●チェコの大袋を注文したつもりだったんだけど。

 ニホン製の2.2mmパスタって、久しぶりに見たなぁ」


「こんなに太いパスタって、初めて見ましたわ。

 イタリアでもこんな太さのパスタは、食べたことがありませんけど」


「2mm位のヴェルミチェッリはデ●チェコでも作ってるんだけど、これはそれよりも微妙に太いかな。

 これはね、ニホン料理のナポリタンとかの俗に言う『ロメスパ』っていうのに使うんだよ」


「それって、どんな料理ですの?」


「カレーとかと同じで、ニホン風解釈の独特なパスタ料理って言えば良いかな。

 昔は師匠に教わったレシピで駐在員の人達に作るだけだったけど、ニホンに来てみてこの料理だけの専門店があるんでビックリしたよ」


「今の話だけだと、イタリアのパスタ料理との違いは全くわかりませんわよね」


「ああ、もしかしてマリーは食べ応えがあるから気に入るかも知れないなぁ。

 じゃぁ返品しないで、昼食用に出してみようかな」


「それなら私も御相伴にあずかりたいので、ぜひ呼んで下さいね」


「うん……別に構わないけど。

 ところでアンちゃん、米帝でミートボール・スパゲティを食べたことはある?」


「はい。一応ありますけどそれが何か?」


「美味しく食べられた?」


「いいえ、あれはイタリア料理ではありませんわ。

 パスタは茹で過ぎで柔らかいし、ソースや挽肉の味も酷かったですわ」


「ああ、やっぱり。

 でも私が自分用に作っていたボロネーゼは、味見して美味しいって言ってくれたよね?」


「あれは、私の料理の師匠でもあるアイさんのレシピですわよね?不味いわけがありませんわ」


「う~ん、そうか……やっぱりね」


                 ☆



 数日後の昼食前のキッチン。

 

 誤って配送された太いパスタのためにニホン風のロメスパを作る羽目になったユウだが、本当にニホン風の再現レシピで作って良いものか考え込んでいた。

 新しいメニューがレパートリーに加わるのは嬉しいが、少なくとも食べる側であるメンバー全員から良い評価を貰えないと作る意味が無い。

 もちろんロメスパ専門店の味を忠実に再現しただけでも、ニホン人寄りの味覚になりつつあるマリーならば美味しく食べてもらえるだろう。

 だがアンや他のメンバーの場合は茹で置きしたパスタを炒めた料理を、気に入るとは到底思えないのである。


(やっぱり、口に合わないかも知れないけどニホンで普及しているのはこういう味なんです、っていうのはナシだよね)

 微妙な評価を受けるのが確実な料理をメンバーに出すのは、ユウとしても自分のプライドにかけて許せないのは当然である。

 イタリアで作られている2mm前後の太さのヴェルミチェッリは、濃くて粘度の高いソースを掛けて食べると聞いている。

 2.2mmの太さのパスタなら、かなりしっかりと麺に絡まないとソースがセモリナ粉の強い小麦粉の風味に負けてしまうだろう。


(だからあのナポリタンの味付けなんだろうなぁ。

 他に麺にしっかり絡むというのは『あんかけスパ』とかになるけど、でもあのコショウが強い味もニホン人以外には難しいだろうな。

 こうなったら、トロミを加える正攻法でやってみるしかないかな)


 ユウは昔母親から習った、ボロネーゼソースをまず作り始める。

 ソフリットを作って旨みを増すのはいつものやり方だが、今回は牛挽肉が意図的に大きな塊になるように調整している。

 仕上げとしてストックしてあった煮込んだ牛筋を挽肉と大きさを揃えてから投入し、その後にとろみを強くするブールマニエを少しづつ加えて粘度を高くしていく。

 いつもより長い煮込み時間を経て、通常のボロネーゼソースより濃厚な味のソースがこうして完成したのであった。


 ……


「ユウ、なんでソースが上に掛けてあるの?」

 いつもの巨大なパエリア皿に載ったニホン風のミートソースを前に、マリーが疑問の声を上げる。


「これはボロネーゼ・スパゲティじゃなくて、ニホン式のミートソース・スパゲティだからね。

 カレーライスみたいに混ぜながら食べるんだけど、粉チーズを含めて自分でソースの味の濃さを調整できるんだ」


「ふ~ん」


「ソースの味が強いから、いつもよりチーズを多めに掛けても美味しいよ」


「……バスタが太くて食べ応えがある!」


「保温器に入れたパスタがまだあるから、お代わりが欲しければ追加できるから言ってね。

 アン、米帝のミートボール・スパゲティに比べてどうかな?」


「とっても美味しいです!

 前に味見させて貰ったボロネーゼよりも、味が濃くてトロミが強いですわね」


「ニホン風であるのは間違いないけど、結局調理方法は自己流になっちゃったけどね」


「ユウ、おかわり!」


「はい、ちょっと待ってね!」

 保温器に入った茹でパスタは少しづつ状態は悪くなるが、セモリナ粉の太麺なのでソースと炒めた後の作り置きよりは状態をキープできるのが利点である。

 多めに作ったミートソースは余っても冷凍できるので、マリーの食欲に合わせても無駄が出ないのがニホン式である大きなメリットであろう。


「パスタでお代わり出来たのは初めて!とっても嬉しい!」

 味も気に入ったのか、マリーは2杯目の巨大ロメスパもあっという間に完食したのであった。


 その後、マリーの強いリクエストによって、ニホン式ミートソース・スパゲティはユウのレパートリーに加わる事になったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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