031.Do You Feel Like We Do<脂ギッシュ!>
Tokyoオフィス、カレーの日。
ユウ監修のカレールーが犬塚食品の通販で手軽に入手できるようなったにも関わらず、相変わらずリビングルームは途切れる事が無い来客で盛況である。
これからはカレーの日にわざわざ足を運ぶゲストは居なくなるだろうとユウは楽観的に考えていたのだったが、現実には来客の数は全く減っていない。
もちろんカレールーの味は完全に同じなのであるが、トッピングの揚げ物や炊き立てのご飯の味の差については、ユウは全く想定していなかったのである。
「ユウさん、このカツカレーのカツって、何で脂身が少ないの?
長崎庵のカツ丼だと、もっと脂身が入ってるよね」
絶賛しか聞かれない評価の中で、ルーの発言はあくまでもニュートラルで正直である。
「ああ、ルーは豚肉の脂身の旨さがわかるんだよね。
サーロとか食べなれてるからかなぁ」
「?」
「Tokyoオフィスのメンバーは、マリーを除くと脂身が苦手なメンバーが揃っていてね。
牛肉や豚肉は、霜降りじゃない脂身が少ない赤身だけを仕入れてるんだよ。
それにお客さんもほとんど日本のカツカレーを食べたことが無い人達だから、カツの味について特に不思議に思わないんだろうね」
「ええっ!、牛肉は兎も角、豚肉に関しては脂身が無いとなんか物足りない気がするなぁ」
「じゃぁ今度カツを使った料理をするときには、ルー用のスペシャル・トンカツを用意するから期待しててよ」
「うわぁ、楽しみ!」
☆
「ユウさん、今日の配送でイベリコの脂が多い部位が来ましたけど、注文入れました?」
「うん。あれはルーとマリー専用の在庫かな」
「イベリコが美味しいのは知ってますけど、あのベジョータの脂の多さはちょっと……」
「まぁ、ここのメンバーに限らず、食べ慣れない脂身が生理的に駄目な人も多いけどね。
ルーはロシアに居た期間が長かったみたいで、サーロとかを食べ慣れてるし。
寒い土地だと脂身の多い食事っていうのは、当たり前だからなのかなぁ」
「シンの話だと三枚肉は中華料理で使うらしいですけど、あの脂だらけのブロックは何に使いますの?」
「そりゃぁ、もちろんトンカツだよ」
「ええっ、あの脂身の塊で揚げ物なんて大丈夫なんですか?」
「じゃぁアン用にも用意するから、まぁ騙されたと思って味見してみてよ」
☆
「ルー、スペシャル・トンカツの味はどう?」
「もうっ、最高だよユウさん!
これこれっ、この脂身の溶けるような美味しさが堪らないんだ!」
「アン、まず最初はソースをかけないで塩で食べてみて」
ルーの絶賛を繰り返す様子を怪訝な表情で見ているアンに、ユウは声を掛ける。
アンはカットしてあるトンカツに小皿の塩をつけると、躊躇いがちに口に運ぶ。
「……あれっ、なんか思ったほど脂っぽく無いですね?」
「ふふふ、そうでしょ?
ベジョータの脂身は融点が他の豚肉よりも低いから、旨みだけが口に残るんだよね」
「ソースをかけても……やっぱり美味しいですわね」
「どう、少しは脂身の旨さを分かってもらえたかな?」
「ええ、この豚肉に関しては完全に食わず嫌いでしたわね。
でもユウさん、うちで仕入れているベジョータは、グラム単価が銘柄豚の10倍近い本物ですから。
カーメリでもコスト管理と品薄で仕入れを自重しているのに、ゾーイさんから怒られても知りませんわよ」
「ああ、それは大丈夫。
普段からあれだけ我儘を聞いてあげてるから、まさか文句は言ってこないでしょ」
数か月後。
久々に会ったゾーイからベジョータの大量仕入れに長々と嫌味を言われ、ベジョータを使ったカツカレーを大量に作る羽目になったのはここだけの話である。
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