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030.Cookie Jar<自家製ハンバーガー2>

 とある平和な日。


「おにいさん、バンズ頂戴!」

 商店街での外食での帰り道、エイミーは馴染みのベーカリーに立ち寄った。


「ああ、マリーちゃんいらっしゃい。

 この間の特注バンズ、出来上がってるよ」


「ありがとう。

 さっそく試してみる!」

 両手一杯にバンズが入った大きなショッピングバックをぶら下げながら、彼女はとても嬉しそうである。


 最近のマリーは、コンビニやスーパーでスイーツやお菓子類を買いだめすることが無くなった。

 空腹を感じると彼女はキッチンに入って、自分でハンバーガーを作る。


 ユウが冷凍の美味しいビーフパティを見つけてきてから、ハンバーガーはマリーが唯一作れるメニューになった。

 バンズさえ手に入れば、他の材料はキッチンに沢山ある。

 挟む野菜の選択、チーズの種類はどれにするか、ソースは何にしようか、パティは何枚挟んで大丈夫か、ハンバーガー作りは思ったより楽しい。

 バンズについても、自分のアイデアを優しいベーカリーのおにいさんがすぐに形にしてくれる。


 食べることも仕事だったマリーが、食事を作ることを楽しんでいるというのはかなり大きな変化である。

 何より古今東西のハンバーガーを食べつくした彼女は、Tokyoオフィスの誰よりもハンバーガーの味が分かるのである。


                 ☆


「ユウ、モ●バーガーみたいなテリヤキソースが欲しい!」

 キッチンで夕食の仕込みをしているユウに、マリーはリクエストをしてくる。


 ケチャップベースの味付けを完成させたマリーは、最近は和風の味を加えたオリジナルソースを考えているようだ。

 米帝の伝統料理でもあるハンバーガーは、本場においてはケチャップ以外の味をベースにすることはあり得ないが、味覚のニホン化が著しい彼女は少しの違和感も感じていないようである。


「それって、醤油味のソースのこと?」


「うん。キッチンと食材庫にあるソースはみんな味見してみたけど、味が単純すぎて美味しくない。

 みたらし団子のたれみたいなぼんやりした味だと、辛味の強いチェリー・ペッパーに負けちゃう」


「市販の照り焼きソースは、醤油、みりん、酒、砂糖をブレンドして作ってると思うけど。

 それじゃぁ、同じ材料で作ったこんなのはどうかな?」

 ユウは冷蔵庫から小さな(かめ)を取り出して、味見用の小皿にすこし中身を注ぐ。


「……そう!こういう複雑な旨みがあるソースが欲しい。

 ユウ、これはどこのソース?」

 茶色く濃い色の液体を味見したマリーは、すぐに声を上げる。


「これは煮穴子の握りにつかう、ツメという自家製のソースなんだ。

 穴子を煮た汁を、濃縮して作るんだよ。

 まだ量があるから、ハンバーガーに使っても構わないけど」


「……ん、残念だけどそれは駄目。

 それだと自分で作ったことにならないし、ユウが居ないと味を再現できなくなる」


「だったら、市販されてる照り焼きソースで、出汁が入ったのを探すと良いよ。

 多分ニホンのメーカー数社が作ってると思うから」


「うん、ありがとう。もう暫く研究してみる!」


                 ☆


 数日後。


「うわっ、このソース美味しいね!

 この味を市販品ソースのブレンドで作ったの?」


「うん。ニホンで売ってる照り焼きソースは全部試して、この味になった。

 大型スーパーでも手に入らないのは、SIDに頼んで取り寄せてもらったから。

 もちろん売ってるそのままじゃなくて、他の材料もブレンドしてるけど」


 レシピとしては大手メーカーの昆布出汁入りの照り焼きソースに、ナガノ産ケチャップと濃い口醤油を少量混ぜたシンプルなものだが、その完成度はとても高い。

 ユウは繰り返し、マリーが試作したソースの味見をする。


(やっぱりマリーの味覚は凄いんだな。

 味の許容範囲が広いから普段の食事で文句が出る事は無いけど、細かい味までちゃんと判別できてるんだね。

 もしかしてハンバーガーチェーンの、コンサルが出来るレヴェルかも知れない)


「それで、完成品はこっち。食べてみて!」

 白いラッピングペーパーで包まれたハンバーガーの山を、マリーは指し示す。

 ユウが包みに手を伸ばすとまだ温かいので、作ってからそれほど時間が経過していないのだろう。


 バンズはすでにマリーが特注したものになっているし、ユウが試作したハンバーガーとはすでに全くの別物である。

 冷凍のビーフパティの焼き上がりも絶妙で、挟んでいる具材も含めて完璧なバランスに仕上がっている。


「うん!すごく美味しいよ。

 もうハンバーガーを作るのは、マリーに任せた!

 自分で作るよりも、マリーが考えたレシピの方が明らかに美味しいからね」


「本当に美味しいですわ!マリーさんこれなら米帝でも商売出来る味ですわよ」

 キッチンで一緒に味見しているアンも、その味を絶賛している。


「えっへん!」

 試行錯誤を繰り返しようやく作り上げた味を絶賛されたマリーは、誇らしげに小さな胸を張ったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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