029.Hate Everything About U<生?卵>
気の弱い方は、バロットに関して画像検索しないようにご注意下さい。
Tokyoオフィスのティータイムの雑談。
「バロット?ああ、珍味だけど結構美味しいよ。
でもあれは欧米の人にはハードルが高すぎるような気がするけど」
「ユウさん、あれはジビエとはちょっと次元が違う食べ物かと思いますけど?」
「そう?ソフトシェルクラブみたいに、ちょっとパリッと骨とかくちばしの触感が……」
「ユウさん、卵かけごはんでもハードルが高いのに、それは難易度が高すぎるよ」
「えっ、ルーって生たまごが食べれないの?」
「うん。だって子供の頃から、生の卵なんて食べた事がないもの」
「私もニホンに来るまで、生の卵を食べられるなんて思いませんでしたわ」
「欧米のスーパーで売ってる卵は、生食用としては管理に問題があるからね。
そうだ、じゃぁ今日はルーの生たまごの食わず嫌いを直しちゃおうかな」
「そんなに簡単に行くとは思わないけどね」
……
ユウがリビングに転がしてきたワゴンには、炊飯ジャーと卵が並んでいる。
卵のうち数個が明らかに大きく、鶏の卵で無いのが明白に分かるのが不吉ではあるが。
「生理的に嫌だと感じるのは、多分この白身なんだよね。
半熟の卵の黄身が嫌いな人は、あんまり居ないと思うし」
「あれっ、この炊飯ジャーに入ってるご飯、色がついているし香ばしい匂いがするね」
「自分用に作った昆布出汁で炊いた茶飯なんだよ。
これに生卵の黄身だけを載せて……さぁ食べてみて」
「美味しい!でもこれって、親子丼とかカツ丼と同じような味がするよね?」
「うん、白身は先に固まるからね」
「これで克服したと言えるのかなぁ?」
「別に美味しければ良いのではないですか?」
「この味を食べ慣れると、普通の卵かけご飯も食べれるようになると思うよ。
じゃぁルーには次なるサービスを」
「あっ、なにこれ?
脂の固まりみたいだけど」
「ルーの好物のサーロを細かく刻んで、溶けやすくしたものだよ。
これをさっきの味付きご飯にかけて、かき回すと……」
「うわぁ、これは好みの味だよ!
すごく美味しい」
「ユウさん、これって猪油撈飯ですよね?」
「そう。醤油をかけたのとほぼ同じ味だよね。
まぁ庶民の味っていうのは、世界中どこでも同じ発想なんだろうね」
「ユウ、自分たちだけ美味しそうなものを食べてずるい!」
「あれっ、マリーいつの間に来たの?」
「私にもよそって特盛で!」
「じゃぁ茶飯を大盛にして、サーロとこのタレをちょっとだけ掛けてっと……さぁどうぞ」
「具がないけど美味しい!ひつまぶしを食べてるみたい」
「ユウさん、そのタレは何ですの?」
「近所の老舗ウナギ屋さんから分けて貰った、つぎ足しの秘伝のタレだよ」
「じゃぁ次はバロットに……」
ユウが大きな卵に手を延ばした瞬間、試食をしていたユウ以外のメンバー全員がガタッといきなり席を立つ。
「ユウさん、ちょっと用を思い出したから寮に戻るね、ごちそうさま!」
「ああ、私かたずけなきゃいけない書類が部屋に……ユウさんちょっと失礼しますね!」
「ユウ、ごちそうさま!夕飯が食べれなくなるから、これ位にしておく!」
和気藹々と味見をしていたメンバーが、ユウが返答する間もなく何故か脱兎の如くリビングから居なくなったのであった。
「なんだぁ、バロットになっていない普通のダチョウの卵なのに……みんな食わず嫌いが激しいなぁ!」
Tokyoオフィスは今日も平常運転である。
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