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026.Dream Come True<自家製ハンバーガー>

 マリーはハンバーガーが大好きである。

 生命の危険がある悲惨な食生活を体験した彼女にとって、ボリュームがあって綺麗にラッピングされたハンバーガーは『夢のご馳走』のようなイメージがあるのだろう。


 だが現在のTokyoオフィスのメンバーは欧州やニホン寄りの食事が好みなので、米帝のジャンクフードであるハンバーガーやホットドックはキッチンで作られる機会が無い。

 たとえばユウが個人的に好物のホットドックが食べたければ、余ったフランスパンに常備している手作りソーセージを挟めば簡単に作る事ができるだろう。

 だがハンバーガーの場合はそう簡単に行かない。パティは手作りできるがバンズの代用品は無いし、マリーの食べる量に合わせて用意するにはそれなりの手間が必要になるからだ。

 よってマリーがハンバーガーを食べたいと希望した場合には、ユウやシンがジャンプして『黄色い矢印のプリントされた紙袋』を現地で調達してくる事になるのである。


 もちろんニホンにもマリー好みのハンバーガーチェーンは存在するのだが、手作りで出来立てを提供するそのチェーン店は大量注文に向いていない。

 店内で飲食するためにマリーが来店すると、彼女の注文だけで店は一時パニックになってしまう。

 マリーのお気に入りの米帝のチェーン店のような、効率と味を両立したチェーン店は残念ながらニホンには存在しないのである。


                 ☆


 ある日、アリゾナベースで炊事兵を一週間担当することになったシンを、ユウは様子見に訪ねていた。

 ユウはこの近辺にも土地勘があるので、ジャンプの目的座標になる場所には事欠かないのである。


「ユウさん、この冷凍パティって見たことあります?」

 シンが着任する以前に定期配送便でストックされていたそのパティは、段ボールに入っていて見るからに業務用とわかる品である。

 通常サイズのハンバーガーのパティは50グラム前後だが、そのパティは直径も若干大きく一枚の重量が100グラム前後はあるだろうか。


「この生産牧場は、たしか州内にあったと思うけど。ということは、地元産のビーフパティなんだね」

 ニホンでは業務用の冷凍パティと言えばオーストラリア産が当たり前という常識だが、シンやユウは勿論そんな事は知らない。


「バンズが手に入らないのでとりあえずサンドイッチに使ってみたんですけど、味はどうですか?」


「うん、冷凍しない挽肉で作ったハンバーガーとほとんど遜色が無い味だよね。

 というか良質の赤味肉を粗びきにしてるみたいで、かなり美味しいね」


「成分を確認してみたら片栗粉と香辛料がちょっと入ってるだけで、増粘剤とか酸化防止剤も入ってないみたいですよ。

 これって、学園のカフェテリアのメニューに使えませんかね?」


 その時ユウの頭の中では、カフェテリアでの利用よりも『マリーのハンバーガー食べ放題』が実現できるかも知れない可能性が浮かんでいた。

 彼女の大好きなIN-O-OUTはミートパティの旨さは抜群だが、味のバリエーションが少ないのが難点である。

 定番のケチャップやマヨネーズ以外にも、テリヤキやチリソースなどの味の変化があれば飽きずにかなり大量に食べる事が出来そうな気がする。

 またユウやシンの持ち帰りでは両手を使っても30個が限界だが、Tokyoオフィスのキッチンでは材料のある限り作り続ける事が出来るだろう。

 そして何より、本当に出来立てのハンバーガーを彼女に提供できるのは大きな利点になりそうな気がする。

 

「ああ、この味ならあとはバンズだけ仕入先を見つければ良いかな。

 Tokyoオフィスでフランスパンを仕入れてる、あのパン屋さんに相談してみるよ」


 ……


 数日後のTokyoオフィス


「あのパティは、小さなハンバーガーショップ用に細々と製造している地元メーカー産みたいだな。

 ハンバーガーに煩い現地の誰かが見つけて、Congohの定期配送便に乗るように手配したんだろう。

 まぁユウが関与してたカレールーみたいに知る人ぞ知るという食材で、ニホン以外には結構配送されてるみたいだが」

 ユウに相談を受けたフウは、冷凍ビーフパティについての情報を仕入れていた。

 マリーの食生活の改善は、それがどんなものであれ優先順位が高いのである。


「冷凍パティというのは、盲点でしたね。

 じゃぁとりあえず試作してみたいんで、Tokyoオフィス分でオーダーを入れてみます」


                 ☆



 Tokyoオフィスへの定期配送便が到着した翌日。

 空輸されたハンバーパティの品質が問題無いのを自らの舌で確認したユウは、バンズの調達に近所のベーカリーを訪れていた。

 ここはフランスパンの仕入れでお世話になっているので、店主とユウはすでに顔馴染みである。


「ハンバーガーバンズが欲しい?」


「ええ、ここなら相当美味しいバンズがあるかなぁと思いまして」


「スタンダードなハンバーガー用のバンズは、レギュラー商品として店に置いてますよ。

 甘味があって歯離れが良いタイプなので、ハードタイプのパンがお好みの方には物足りないかも知れませんが。

 それと特注で、近所のハンバーガーショップ数件に卸してます。

 それと同じスペックで宜しければ、前日注文で作るのも可能ですね」


「じゃぁ在庫のこのバンズを、とりあえず全部貰っていきます。

 もしかしたら、少しだけスペックの変更でお世話になるかも知れませんが」



 Tokyoオフィスに戻ったユウは、早速フウと連れ立ってキッチンで試作を始める。


「へぇ、このまま食べても美味しそうなバンズだな。

 あれっ、そのケチャップも大手メーカー製じゃないんだな?」


「ミサワ基地に居たときに、隊員食堂のチーフに教えて貰ったんですよ。

 ナガノのメーカーで、うちの母さんもここのケチャップのファンみたいですよ」


 ユウはポーションオールディスペンサーという業務用の器具にケチャップをセットする。

 これは親指でレバーを押し込むと、粘度の高いソースが定量落ちてくるという古典的な調理器具である。


「アイが気に入ってるっていうことは、相当美味しいんだろうな」


「う~ん……ハンバーガーの場合はケチャップで、そんなに味の違いが出ないと思いますけどね。

 これはオムライスに使うと、後味が良くてとっても美味しいんですよ」


 ユウは180度にセットしてある電気グリドルに冷凍されたままのビーフパティを3枚並べ、重量があるステンレス製のプレス板を上に載せる。

 キッチンタイマーをスタートさせると、同時に予熱をかけてある上火のオーブンでバンズをトーストしていく。

 最初に作るのは、ケチャップとマスタードだけの味付けのスタンダードなハンバーガーである。


 タイマーの時間を確認し、プレス板を外したビーフパティを裏返し、塩とコショウを振り掛ける。

 トーストされたバンズの切り口を上にして、ディスペンサーでケチャップ、マスタード、みじん切りのオニオンを並べると、およそ3分前後で焼きあがったパティをバンズに乗せていく。

 最後にバンズの平たい部分を合体させて、シンプルなハンバーガーの完成である。


「おおっ、店で食べるのと違ってバンズの品温が高いな……うん、旨いじゃないか!」


「ええ。これならマリーも喜んで食べてくれると思いますが、折角なのでここから一工夫しましょうか」


「また何か新しい食材でも調達するのか?」


「いや逆です。このハンバーガーパティとバンズ以外は、出来るだけ普段のTokyoオフィスの定期配送便の食材だけを使います。

 そうでないと、いつでもマリーの為に用意できるレギュラーメニューになりませんからね」



                 ☆


 数日後。

 ユウが考案したマリー専用バーガーは、とりあえずユウ本人の納得できるレベルまで出来上がった。

 バンズは入手し易いように市販品のままだったが、Congohトーキョーの冷蔵庫にいつも入っているホッカイドウ産のプロセス・チーズと、良質な生ベーコン、そしてマリー好みに調整した甘辛いソースが何よりの特徴である。

 ソースの辛味には彼女が気に入っているチェリーペッパーのレリッシュを使用しているので、しっかりと甘いテリヤキソースのアクセントになっている筈である。


 事前予告無しに、いつもの夕食が並ぶ前にマリーの前にだけハンバーガーが2つ並んだ皿が出される。

 

「これは?」

 マリーのみ追加の一皿が並ぶのは珍しくないが、ハンバーガーが食卓に並んだことは無いのでマリーが怪訝な顔で質問する。


「ちょっと試食してくれる?」

 ユウは簡単な一言だけ返すと配膳のためにキッチンへ戻っていくが、リビングのテーブルではフウが横目でマリーの様子をさりげなく見ている。

 自家製という説明を省いたのは、もちろんバイアス無しに味をマリーに判断してもらう為である。


 マリーはちょっと首を傾げながらも、空腹なので厚みのあるハンバーガーに齧り付く。

 大き目のビーフパティがダブルで挟まれているので見た目のボリューム感はかなりあるが、一口目、二口目と大きく口を動かしたマリーは一個目をあっという間に食べ終えて指についたソースを舐めとっている。

 2個目も同じ勢いで食べきったマリーはいきなり立ち上がると、キッチンからワゴンを転がしてくるユウの元に近寄ってくる。


「ユウ、これどこのハンバーガーなの?」


「実は自家製」


「今まで食べたことがあるハンバーガーの中で一番美味しい!もっと沢山食べたい!」


「ああ、味を気に入ってくれて良かった!

 今日は夕食の用意が出来てるから、また今度ね」


「うん。約束だよ!」


 こうしてTokyoオフィスのレギュラーメニューに、新しい一品が無事に加わったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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