025.Make A Family<ペリメニ?>
Congohトーキョーのキッチンで、中華料理が作られることは無い。
偶に外来者のシンがフウのためにチャーハンを作ったりしているが、手際の良い彼でもマリーの為にチャーハンを作るのは遠慮するだろう。
言うまでも無いが、中華鍋を振る手が腱鞘炎になってしまうのが確実だからである。
もちろんチャーハンを作る中華鍋以外の道具もちゃんと揃っているが、それらが本来の役割で使われることは無い。
中華料理が得意なメンバーが誰も居ないというのが大きな理由だが、満足出来る味の専門店が周辺に沢山あるというのもその理由の一つであろう。
だが唯一の例外がある。それはお取り寄せした生餃子の焼き上げである。
ユウが修行をしていたニホン料理店では餃子はメニューに載っていなかったが、お客からの事前リクエストがある場合のみ中華料理とは違う家庭料理としての焼き餃子を提供していた。
よってユウは餃子の皮から中身まですべて手作りで作る事が出来るが、Congohトーキョーではその腕前を披露する機会は無い。
それは何よりマリーの食欲に対応する量の仕込みが、ユウには時間的に不可能である点が大きい。
如何に彼女の手際が良くても、手で一つずつ包んでいく餃子は仕込みの手間を省略することが出来ないからである。
幸いなことにユウやマリーの馴染みの中華料理店には、持ち帰りやネットで注文出来る生餃子の販売がある。
それらを厨房で焼くことで、味や量についてはなんとか満足できているのである。
☆
だがマリーが満足できる量をTokyoオフィスの厨房で焼くのは、それほど簡単な事では無い。
店舗では少量しか注文できず日頃の鬱屈が溜まっているマリーは、ジャンボ餃子であっても100個は楽に食べてしまうので厨房で焼くのが間に合わないからだ。
やむを得ず大きな鉄鍋でまとめて焼くことになるのだが、鍋のままテーブルに出すと余熱で餃子が焦げてしまうので皿に移す必要がある。
この高温の鉄鍋からまとめて大皿に移す手間が、かなり大変なのである。
「厨房に新しい機材を入れたい?まだ設置できる場所はあるから反対はしないが、どんなのを導入するんだい?」
「それは勿論、自動の餃子焼き器です」
「ああ、なるほど」
ユウが餃子を作る度に、ひじや上腕に小さいながらも火傷をしているのを見ていたフウは直ぐに賛同する。
大量に焼き上げた餃子を重い鉄鍋をひっくり返して皿に移すのは非常に危険な作業だし、何より油が飛び散って火傷をしても作業を中断することが出来ない。
かと言って隙間なく敷き詰められて焼きあがった餃子をターナーを使って取り分けると、皮が破けてしまうのでユウにはこれが我慢できないらしい。
普段の調理で手際が良い彼女が怪我をするシーンなど見たことが無いので、フウも何とかしなければと思っていたからである。
……
数日後、出入り業者によって設置された餃子焼き器の前で、ユウはフウと一緒に試し焼きをしていた。
ガスの火力を内蔵されたマイコンで調整するこの機器は、グリルに餃子を並べてレバーを下げるだけでスチームによる蒸らしと焼き上げを自動で行うことができる最新型である。
「大型のグリル面が2つありますから、ジャンボ餃子でも一回で100個以上は楽に焼けますね」
テストのために焼き上げた餃子を大皿に細長いターナーで移しながら、ユウが呟く。
「うん美味しい。鉄鍋で焼くより火が均等に通ってるから、焼き目も綺麗だな」
「ええ、スチームもむらなく当たるので、火の通り具合も絶妙ですね」
「これなら、イケブクロのジャンボ餃子を大量注文しても大丈夫だな」
☆
数日後、餃子がメニューの夕食時。
「ああ、餃子焼き器で焼いても全然追い付かない!これは予想外だな」
大量に注文してあった生餃子を餃子焼き器のグリルに並べながら、フウが声を上げる。
「ルーがこんなに焼き餃子を気に入るとは……」
ロシア料理の餃子である『ペリメニ』が大好物のルーが、ニホンの焼き餃子をこれほど気に入るとはユウも予想していなかったのである。
マリーは日頃の習慣として餃子をご飯のオカズとして食べているが、ルーは大ジョッキを片手に餃子をつまみにしてビールをぐいぐいと飲んでいる。
「ユウ、焼き具合がお店で食べるのと一緒で美味しい!」
「ユウさん、このニホン風のペリメニって美味しいね。皮が香ばしくてもちもちしていて、幾らでも食べられそう!」
結果的に二人は同じペースでジャンボ餃子を食べ続けているので、焼きあがったばかりの大皿もあっという間に空になってしまう。
「ユウ、厨房にはまだ空きスペースがあるよな?」
「ええ。広い厨房で良かったですよね」
斯くして、Congohトーキョーのキッチンには、追加でもう一台の餃子焼き器が導入されることになったのであった。
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