021.Do It Again<柔らかくて美味しいって?>
二ホン料理店で修行をしていたユウのレパートリーは幅広く、頻繁に作る夕食でもネタが無くなるという事はあり得ない。
だがユウの頭の中には、初めて食べて感銘を受け自らも再現してみたい料理のリストが並んでいる。
レパートリーを拡げるというよりも、違う調理法や目先を変えた料理を考えるのはユウの楽しみの一つであり、これは料理人の習性というべきものなのであろう。
だが本人の意気込みと評価が、必ずしも一致する訳では無いのが悲しい世の常である。
意気込んで作った割りには評判が悪かった『ミルフィーユカツ』や、逆に『薄く叩いたチキンカツ』のように意表を付いて評判が良かったりするメニューがあるのは悩ましい所である。
二ホンでは最近柔らかい食感ばかりが重視されるようになり歯ごたえのある食品は敬遠される傾向にあるが、フランスでも老舗店のバゲットが徐々に柔らかくなっているという話もある。
その点Congohトーキョーメンバーの味覚は保守的であり、過度に柔らかさを追求した食品は好まれない。
ステーキなら霜降りの柔らかいものより赤身のある程度の歯ごたえがあるものが、鶏肉でも歯応えがある地鶏で味が濃いのが好まれる傾向にある。
巷で評判の『ミルフィーユカツ』がメンバーに評価されなかったのはこの点であり、「歯ごたえが無さ過ぎて美味しくない」とマリーに言われたユウは暫く落ち込んでいたのである。
リベンジを心に秘めたユウは、前日の仕込みでどんぶり用のチャーシューを圧力鍋で煮込むのと一緒にロース肉の塊も鍋に入れていた。
また煮込んでいる最中に、先日の寿司の日で余った車海老を白身魚のすり身を繋ぎにして小判型に整形し、フライ衣を付けて冷凍庫に入れておく。
ユウ担当の夕食前のキッチン。
まず前日に仕込んだ柔らかくなっているロース肉の塊を、通常のとんかつよりも分厚くカットして巨大なロースカツとして揚げる。
通常このサイズならば簡単に火が通らないので二度揚げの技法を駆使する必要があるが、すでに中身は加熱済みで下味も付いているので通常のカツと同じ揚げ方で問題無い。
高温で堅めに揚がった衣が剥がれないように慎重にカットを入れてから、アンから分けてもらった自家製のデミグラスソースをかけて完成だ。
一緒にフライヤーで揚げていた当日仕込んだミルフィーユカツと、先日冷凍庫に入れていた小判型のカツも、盛り合わせの一品として同じ皿に載せていく。
「こんな厚みで火が通ってるのかな……うん、美味しい!デミグラスソースの濃い味が、厚めの肉に良く合っているな」
「ボリューム感がある割りには、さくさくと食べやすいですわね」
「ユウ、これ美味しい!こんなに厚くて食べやすいトンカツは初めて!」
盛り合わせメニューのメインは、ユウが過去に食べた事がある老舗トンカツ店の煮込みトンカツを再現したもので、かなり好評の様である。
「あとこれが先日評判が悪かったミルフィーユカツの改良版です。
これは最初にソース無しで食べてみて下さい」
「ああ、あの歯ごたえがなかった奴ね……おっ、かなりしっかりとしたチーズの味がするな」
「この濃いめのチーズの味と豚肉の組み合わせは、良いですわね」
「中央の芯の部分と、ミルフィーユして重ねてる部分にニホン産の燻製チーズが入れてあるんですよ」
「ユウ、これは歯ごたえと味が変わっていて美味しい!」
「二ホンのプロセスチーズにはこんな使い方があったのか!溶けにくいのを逆手に取った良いアイデアだな」
「これはトマトソースとの愛称が良いですわね」
「そして盛り合わせの最後が、このちょっと小さ目のカツです。
中身は……まぁ食べてみて下さい」
「おおっ、これはエビのカツレツか!」
「二ホン式エビフライはボリュームが乏しいですけど、これは厚みがあって満足感がありますわね」
「この白いソース美味しい!」
「タルタルソースは甘酢ラッキョウと高菜を使って味を調整してありますから、このエビカツに合うと思いますよ」
「フライもの3品の組み合わせはちょっと重たいかと思ったが、それぞれ味が違うのが良かったな」
「ええ、味付けも具材もバリエーションがあって、さすがユウさんですわ」
「ぜんぶ美味しかった!また作ってね!」
マリーの最後の一言で、一瞬にして機嫌が直ったユウなのであった。
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