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020.Farmer Sez<ブームの果てに>

この話に登場する外食店舗とそのメニューはフィクションであり、実在するチェーン店やメニューとは何の関係もありません。

 Congohトーキョーの定期配送便では様々な食材が届けられるが、わざわざ配送される生鮮食料品は一部の食肉とニホンで入手が難しい野菜類のみである。

 ヨーロッパ由来の野菜も最近は近隣のスーパーで手に入るものが多いので、アンやフウが調理する時には配送を依頼せずに使い切る分量を近隣で購入する事も多い。

 Congohでは食材の無駄はなによりも忌避するものとされているし、メンバー一同は二ホンの『もったいない』精神をとても良く理解しているからである。


 だが牛肉に関しては都度スーパーで購入するとあまりにも割高になるので、二ホン国内の物流部門で一頭買いで入手している。

 解体や保管を外部に委託してもかなり単価が抑えられるのと、流通の中間工程を省力して鮮度の高い牛肉が真空パックされ迅速に各拠点へ届けられるメリットはかなり大きい。

 またメンバーは霜降の牛肉よりも上質な赤味を好む関係でA3以上のグレードの高い高級肉を仕入れる事は滅多に無く、結果的にはスーパーの特売に匹敵するかなり割安の牛肉を食べている事になるのである。


 朝食後のCongohトーキョーのリビング。

 マリーがお気に入りのワイドショーのグルメ・コーナーでは、今日はロッポンギにある高級ステーキハウスの紹介が行われていた。

 そのステーキハウスは米帝にある高級店の支店で、『乾燥熟成』させたTボーンのプライムビーフを強火でこんがりと焼いて提供している。

 米帝スタイルの焼き方には好みがあるのだろうが、余計な肉汁が出ていない旨みが詰まった赤味のステーキにはグルメ・リポーターも絶賛の声を上げている。

 このテレビコーナーのお陰で何度か痛い目にあっているマリーは、食べてみたいという一言の前にまずユウに質問してくるようになっている。


「ユウ、あのステーキって本当に美味しいの?」


 オワフ島のショッピングセンターにある支店で現物を食べた事があるユウとしては率直な感想を言う事が出来るのだが、若干の躊躇の後マリーに控えめな一言で答える。


「不味くはないけど、ちょっと割高かな」


「あの熟成肉ステーキって、ここで同じものが作れる?」


「う~ん……」


 ニホン料理の師匠や母親から叩き込まれた知識や経験を使って肉の熟成には日頃から気を使っているユウだが、さすがに『乾燥熟成された牛肉』をここTokyoで仕入れるのは伝手を頼っても難しいだろう。


「ここではちょっと難しいから、予約を取ってあの店に皆で食べに行ってみようか?」

 ユウはフウが小さく頷くのを横目で見ながら、マリーに言った。


「うん。楽しみ!」


 ユウは数週間後のスケジュールを調整し、出張予定のレイを除いたメンバー全員分でステーキ店に予約を入れたのであった。



                 ☆



 某日、ロッポンギのステーキハウス。


 多分4ポンドは重量がある『取り分け用ステーキ8人前』をマリー一人分として注文したのには驚かれたが、それ以外は特に問題は無く食事は進行した。

 周りをこんがりと強く焼くことで香ばしさを出す米帝スタイルの焼き方や、余分な油が流れるように傾けた皿のサーブの仕方等にも特に不満は出なかったし、メンバー全員は黙々とステーキを塩胡椒のみの味付けで平らげている。


 言うまでも無いが、テーブルに置いてあるオーセンティックという表示があるハウス・ソースには誰も手を付けていない。

 見るからに『A●ソース』と同じで、古典的な米帝の味付けであるのが分かってしまったからである。


 ユウはステーキの味はともかく、前菜のシュリンプ料理や付け合わせのポテト、厚切りベーコンの素材の味にとても感銘を受けていた。

 アリゾナの自宅で母親が作ってくれたの同じ古典的な米帝風料理は、久しぶりに食べた懐かしさだけでは無く掛け値なく美味しかったのである。


 だが自炊と近隣の商店街の食事に慣れているメンバーの金銭感覚は、黒いクレジットカードを所有している割にはかなりシビアで辛辣だ。

 帰路のタクシーの中では、結果的に辛口の感想が延々と続く事になる。


「焼き方は好みじゃないが普通に食べやすい赤身のステーキだったな、とんでも無く高いけど」


「美味しかったですわね。でも長期熟成?って感じはしなかったですわね。無駄に高いけど」


「う~ん、アリゾナで食べた母さんが焼いてくれたステーキには遠く及ばないなぁ……高かったけどね」


「味はさっぱりしていて普通。白ご飯と一緒に食べたかった!えっご飯って注文できたの?……残念。

 それでこの店って高いの?」



                 ☆



 後日、食事をした顛末を母親にメールで報告したユウは、直ぐにシビアな内容の返信を受け取った。


『長期熟成は、役牛の硬い肉を何とか食用にするために使われた実用的な手法です。

 グレードの高い牧草牛にそれを無理矢理施す事に、どれだけの意味があるのかは高い授業料を払った貴方なら理解できたでしょう?

 過剰なエージングは歩留りを悪くするし、衛生面でも体調の悪い人は体にダメージが与えられてしまう可能性があります。

 料理には、簡単に美味しくなる便利な魔法は存在しません。雑多な情報に踊らされずに本質を見抜けるように、日頃からもっと研鑽を積みなさい』


「I’m ashamed to hear it」

 ユウにとって耳の痛いいつものお小言に、ユウは思わず呟いてしまうのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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