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018.Hate Everything About U<ショートプレート>

この話に登場する外食店舗とそのメニューはフィクションであり、実在するチェーン店やメニューとは何の関係もありません。

 Congohトーキョーに納品される食材は、生産国が多岐に渡っている。

 ジビエの肉類とハムや乳製品はヨーロッパ産が多いし、逆にフレッシュな鶏肉や豚肉は完全にニホン産だ。

 牛肉については料理によって産地を使い分けるが、いずれもチルドで配送されるので冷凍肉を使う事はあり得ない。


 ユウは味覚の許容範囲が広く、食材の品質が低くてもそれ程気にならないと自分では思っていた。

 残留薬剤については神経質なユウの母親も牛肉の等級についてはそれほど拘りは無く、ユウが自宅で食べていた牛肉は米帝で一般的に好まれる赤身が多い部分が殆どだったのである。


 米帝に進出している有名牛丼チェーンで初めて牛丼を食べた時にも、バラ肉の妙な脂臭さが気になったが食べれないほど不味いとは思えなかった。

 よって防衛隊大学校へ進学しニホンに来た時にも、抵抗無く同じチェーン店の牛丼屋に入店し注文したのであるが……

 食べ始めた瞬間にユウは愕然とした。


(駄目だ……生理的にこれ以上口に運べない!)


 これはユウにとって人生で初めてと言って良い経験である。

 昆虫の蛋白質料理であろうと、ジビエのグロテスクな外見の料理も抵抗無く食べれる自分が、普通の牛丼を食べれない。

 脂身のしつこい風味と濃い目の味付けの牛肉が、どうしても喉を通らないのである。


 勿論ユウの修業先のニホン料理店ではすき焼きがメニューにあったし、脂身が多めのプライム・ビーフを使ったメニューもあった。

 だが脂身が多くても肉の旨味がしっかりとしていて、忌避すべき味だと思ったことは全く無かったのである。


 数分間ショックでフリーズしていたユウだが、慌ただしく会計を済ませると店員さんの怪訝な目線から逃れるように顔を伏せながら店を後にしたのであった。

 それ以来冷凍したバラ肉を使っている二ホンの牛丼店は全て、ユウにとって外食での『鬼門』となってしまったのである。



                 ☆



 ある日の、朝食後のCongohトーキョーのリビング。


 ワイドショーのグルメコーナーを見ていたマリーが、いつもの一言を発した。

「ユウ、あれ食べてみたい!」

 嫌な予感がしたユウだがエスプレッソを口に運びながら画面を見てみると、巨大な器の牛丼を手にしたレポーターがスプーンで牛丼を口に運んでいるシーンが目に入る。

 

 思わずカップを落としそうになったユウだが、助けを求めるように視線を送った先にはフウの姿が無い。

 アンはすでに登校しているのでもちろん建物の中には居ないし、レイは長期出張中なので暫く此処には帰って来ない。

 ユウはため息を付きながら、エスプレッソの残りを飲み干してから言った。

「じゃぁ、お昼はあれを食べに行こうか」


「うん!」


 SIDに急遽調べて貰うとあの巨大な器の牛丼は『裏メニュー』と言うべきメニューで、チェーン店ながら扱っていない店舗もあると言う。


 近隣の店舗で注文可能なのをSIDに確認して貰い、徒歩で二人は店舗へ向かう。

 もちろんマリーの軽快な足取りに比べて、ユウの歩みは重くまるで登校拒否をしている学生の様である。

 到着したロードサイドの店舗には大きな駐車場もあって、それなりに繁盛している様に見える。


 カウンターに腰かけるとマリーにはあの巨大な牛丼を、ユウ自身には牛肉を使っていない小盛りの焼き鳥丼を注文する。

 注文が早々に運ばれてきたので、ユウはちいさな丼の焼き鳥丼を恐る恐る口に運ぶ。


 ご飯はパサついていて甘味が全く無いので、思わず隊員食堂の悲惨な味だった備蓄米を思い出す。

 鶏肉はブロイラーの香りを誤魔化すためかタレの味が濃すぎるが、食べれない程不味くは無いしとりあえず気持ち悪くなる事も無い。

 ほっとしてマリーの方を見ると、彼女はスプーンを持ったままフリーズした状態で身じろぎしていない。


「マリー?」


「Ce n'est pas du tout bon」

 ようやく頬張った分の牛丼を無理矢理飲み込むと、マリーは潤んだ瞳で呟いた。

 彼女が思わず口にしたフランス語に堪能では無いユウでも、彼女が何を言っているのかはすぐに分かる。

 ユウが知っている限り、外食で彼女がこの様な状態になったのは見たことがない。


 カウンターで急いで会計を済ませたユウは、茫然自失のマリーを連れて店外へ出る。

 マリーは店外に出ると、はっと気が付いたようにニホン語で叫ぶ

「ま・ず・い・っ!」


「美味しく無い」や「もう要らない」という言葉は何度か聞いた事があるが、これほど直接的な表現をマリーが使うのは珍しい。

 

「冷蔵庫に美味しい牛肉があるから、口直しにすき焼丼でも作ろうか?」

 朝食で炊いた炊飯ジャーの御飯が、若干残っていたのを思い出したユウがマリーに言う。


「うん!もう牛丼はユウが作ってくれたのしか食べない事にする!」


 食に煩いニホンでこんな味の牛丼チェーンが繁盛しているのをユウは心底不思議に思うが、酸化した脂の味に関しては食べ慣れると余り気にならなくなるのだろうか。

 長期間温度管理がずさんな状態で冷凍された屑肉と本来なら捨てられるべき脂身の組み合わせは、マリーにもかなりのダメージを与えた様だ。


 ユウは回転寿司のネギトロも同じように食べられないが、これも妙な脂臭さがあって食べると気持ち悪くなるのである。

 作る側から言ってもあんなに脂分が多いマグロを安い値段で出せる訳が無いのでショートニングを混ぜていると確信していたが、自分に子供が居るなら絶対に食べさせたくない種類のネタだと言い切れるであろう。


(二ホン食なら何でも安心して食べれると思っていたけど、外食ってこういう怖い事もあるんだよな)

 当たり前のように異物が混入されていた某国の食品工場ほどでは無いが、食べ慣れてしまった味については違和感を感じ難くなってしまうのは恐ろしい。


 こうして食の安全に関して、自らの認識を新たにするユウなのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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