017.Closer To The Edge<お代わりは如何ですか?>
Congohトーキョーのメンバーは皆麺類が大好きだ。もちろんニホン料理であるうどんも、その例外では無い。
外国人には苦手な人が多い煮干しのダシも気にしないし、腰のある麺もアルデンテのようにかみ応えを楽しむ事が出来る。
綺麗な箸使いでメンバー全員がチュルチュルとうどんをすする様子は、もはや外国人とは思えないかなりシュールな光景である。
ユウもCongohトーキョーのキッチンでうどん打ちをする事があるが、マリーが居る場合にはメニューから外すことにしている。
うどんは蕎麦ほどでは無いが茹で置きをすると冷めやすく味が落ちるし、大量に美味しく茹でるにはキッチンで一番大きな巨大寸胴にお湯を貼らないといけないので兎に角手間と時間がかかるのである。よってマリーがうどんを食べたいと言い出した時には、近隣のショッピングセンターに入っている大手うどんチェーン店に足を運ぶ事にしている。
ここはフードコート内の店舗でうどんや汁を毎日自製している良心的なチェーン店で、大きな釜揚げ桶に入った家族うどんというメニューが存在する。
サヌキうどんを名乗っている事について地元の方々には大きな異論があるようだが、ユウにとってその論争はただ食べるだけの部外者なので全く関係無い。
セルフサービスの店なのでトレイを持ってつけ汁だけを受け取ると、カウンターに並んでいる天麩羅やいなり寿司をマリーはてんこ盛りに取っていく。
ユウは自分のかけうどん大を受け取り、イカげそ天だけを取って一緒に会計を済ませる。
10分後、店員さんによって7人前のうどんがお湯をはった釜揚げ桶で運ばれてくると、マリーはすごい勢いで食べ始める。
普段は決して早食いでは無いマリーだが、釜揚げうどんは冷めると美味しくないのを良く理解しているからだ。
マリーが食べ始めると同時にユウはカウンターに足を運び、2桶目の家族うどんを注文する。
カウンターの店員さんは怪訝な顔をしているが、多分マリーを接客したのが初めてだったのであろう。
2桶目の家族うどんが運ばれてくると、ユウは一桶目を食べ終えていたマリーに尋ねる。
「もう一つ注文しておく?」
マリーは無言でこくりと頷く。
ユウがカウンターに足を運び追加の一桶を注文した後、揚げたての天麩羅といなりを大量にトレーにのせて会計を済ませる。
3桶目の大桶も運ばれて来たが、マリーの箸がここでピタリと止まった。多分単調なつけ汁の味に、飽きてしまったという事なのだろう。
「ユウ、味に飽きた……まだお腹一杯じゃないのに」
「大根おろし?それとも温泉たまご?」
「両方!」
ユウは再びカウンターに足を運び、トッピングの小鉢と4桶目の家族うどんを注文する。
ここで店員さんはマリーの事を(勝手にフードファイターだと)理解したのか、怪訝だった表情が成程と納得したようなものに変わっている。
家族うどん4桶といなり20個天ぷら多数を余裕で完食したマリーは、ウエスト回りもすっきりとしていて8kg近くのうどんを食べたようには到底見えない。
テレビに出ているメイクの濃いフードファイターの女の子は、食べた後に妊婦のようなお腹をしていたのにマリーの場合は食前と体型が全く変わらないのが本当に不思議だ。
以前ナナにマリーが食べたものはどこへ行くのかと聞いた事があるのだが、新陳代謝のメカニズムと褐色細胞が云々という全く理解できない説明で誤魔化されたような気がする。
「ユウ、次の店へ行こう!」
うどんの桶や小鉢をカウンター横へ返却したマリーが、元気よく声を上げる。
これが決して小食では無いユウが、うどん店で大盛り一杯しか注文しなかった理由である。
いったんこのフードコートに足を踏み入れると、マリーは気が済むまで各店舗で食べ続けるのだ。
早々に満腹になってしまうと、ただひたすらマリーが食べるのを眺めていなければならないので、それぞれの店で少しづつ注文するのがマリーの同行者としての正しいあり方なのである。
フードコートに並んでいる各店舗のカウンターの中で、マリーの事を知っている数人は『頼むから今こっちへ来ないで』という商売人らしからぬ空気を出している。
この状況は学校で『先生、私を指さないで』というのと同じだが、ハイスクールに通った経験が無いユウと、過去の記憶を無くしているマリーには決して理解出来ないだろう。
何せいきなり現れた小柄な美少女が、フードファイター以上に常識外れの量の注文を次々と出してくるのだ。
持ち帰りならばまだ対応できるだろうが、事前準備無しで常識外れの注文を出されるとマリーの注文を捌く事ができずに、他の注文が溜まって店内がパニックになるのは避けられない。
ユウがタッチパネルで注文できる店やフードコートに必ず同行しているのはこの点を懸念しているからであって、マリーが外食先で不快な思いをしたり出入り禁止になるのを避ける為の調整役でもあるのだ。
幸いにしてたこ焼き屋には、家族用の24個入りのパックがあるし、サンドイッチ屋さんにも6人前のパーティメニューがある。
この辺りのメニューをマリーが食べ終わる度に順次注文していって、店側に過剰な負荷をかけないようにユウは注意しなければならない。
ユウのコーディネートでフードコートのメニューを満足できるまで食べ尽くしたマリーは、デザートのダブルクリームのバナナ・チョコクレープを頬張りながら満足げに微笑んでいる。
絶えず食べ続けなければ自らの存在意義に関わるマリーのプレッシャーというのは、本人以外には到底理解出来ないだろう。
普通のメトセラは食事に気を遣わなくても、並外れた体調管理能力で躰が勝手に体重を補正してくれるのだから。
せめてマリーが食べたいものを、いつでも快適な環境で食べさせてあげたい。
それが同僚としてのCongohトーキョーのメンバー全員の思いなのである。
最近は回転寿司やファミレスに行く機会は無くなったが、マリーを不快にさせる事態を避けるためのコーディネーター的な立場も板についてきたユウなのであった。
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