015.Don't Try To Stop Me Now<皆大好き!>
ちょっとした出来事から月一回開催されるようになった『寿司の日』。
基本的には、マリーがユウが作る握り寿司を心置きなく堪能する為の催しなのだが、これが徐々に参加者が増えてしまい……
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まず参加メンバーの中でも空腹や大食いのメンバーには、散らし寿司が入った大きな飯台があてがわれる。
ネタは当然握りと同じものだが、全種類が載せられているので見掛けも味もとても豪華だ。
これは大食漢が多い参加メンバーを握り寿司だけで満足させるには無理があるので必要な措置なのであるが、握りと違ってスプーンで気軽に食べれる散らし寿司を目当てにしている招待客も実は多い。
好き嫌いが無い愚連隊のメンバーは、ユウが作り置きしてあった握りの寿司桶の前に陣取って黙々と食べ続けている。
リビングにはビールサーバーも設置されているので、ピッチャーにビールを満たしてジョッキ代わりにぐいぐい飲んでいるパピの姿が見える。
カウンターには上司であるキャスパーが陣取っているので、遠慮して距離を取っているのかも知れないが。
ジェラートショップの店長のクリハラさんは、飾り巻き寿司が好物な様でユウが彼女の為に特別に作った寿司桶の前に釘付けになっている。
「ユウ、まず漬けを頂戴!」
「ユウ、滅多に食べれない大トロ頂戴!」
「ユウ、続けて中トロも頂戴!」
急ごしらえにしては立派な組み立て式カウンターで、ユウにべったりと貼り付いたキャスパーが握りの注文を連発している。
ユウは寿司下駄に握りを二貫づつ並べていくが、キャスパーは会話もそこそこに握りを頬張り続け、自分でビールサーバーから注いだ生ビールを美味しそうに飲んでいる。
「ねぇキャスパー、マグロ以外の注文は?」
「じゃぁ、鉄火巻き頂戴!」
「をい!マグロ以外の注文と言ったろ!」
「あれっ大将、今日はご機嫌斜めだね?」
大き目のビアグラスをぐいっとあおりながら、キャスパーはおどけた口調で言う。
アルコールにはかなり強い彼女だが、もしかしてビールを飲み過ぎたのだろうか?
「もうっ!はいお待ち!」
ユウは密かにマグロでは無く、先日好奇心から切り身で仕入れた『鮪のような赤身』で作った鉄火巻きをユウの前に差し出す。
「うん、美味しい。マグロと殆ど味が変わらないよね。『赤マンボウ』って」
驚いたユウの表情を見たキャスパーが、にんまりと笑みを浮かべている。
「へへへ、これでも味覚は鋭い方なんだよ。じゃぁ『本物の中トロの鉄火巻き』を追加ね」
「キャスパー、ユウを独占していて狡い!」
散らし寿司の入った大きなすし桶から直接スプーンで食べていたマリーが、キャスパーに向けて文句を言う。
「ユウ、玉子!」
カウンターにやって来たフウが、湯呑を置きながらユウに注文する。
「フウさん、ホント玉子焼きが好きですよね?」
ユウはシャリ無しの厚焼き玉子を、フウの目の前の寿司下駄に置きながら言う。
「いや、ユウが作る玉子焼きが好きなだけだよ。二ホンに来るまではそんなに好物じゃなかったのにな。あと、光り物を何か貰えるか?」
フウは美味しそうに玉子焼きを頬張りながら、追加で注文を出す。
ユウは酢で〆てあったえぼ鯛のネタに、少量のワサビとおぼろを挟んで握る。
「はい、どうぞ」
「ああ、甘味を強く感じて美味しいな。段々とユウの味に慣れてしまって餌付けされている自分が怖いが」
「ところでフウさん、この催しについてゾーイさんに連絡しなくて良いんですかね?あとで怒られそうな気がするんですが……」
「ああ、この間別件で連絡した時に言っておいたよ。今度ニホンに来る時には、寿司の日のタイミングを合わせて来日するそうだ」
「ははは、あの人お寿司がよっぽど好きなんでしょうね。
あっそうだ!一旦カーメリ基地に研修で行けば、次からジャンプして出前も出来ますよね?」
「ユウ……それは内密にしておかないと出前で忙しくて仕事にならなくなるぞ」
「今はマリーのハンバーガーを買いに行く位で、殆ど疲れませんから大丈夫ですよ」
ちらしの入った寿司桶を二つ食べきったマリーが、カウンターにやって来てユウに言う。
「おまかせで!」
ユウはマリーに笑顔を向けてキャスパーとフウの注文を握りながら、二人の注文と重ねてマリーの分も握っていく。
米帝のバイトではお客の前に立つ機会は殆ど無かったユウだが、家族の様なメンバーや知り合いの前では気後れする事も無い。
あらかじめ用意したちらしと握りの寿司桶が空になると、いよいよあとはカウンターのユウの独壇場だ。
食べ過ぎてギブアップしたクリハラさんはテーブルでアンと二人で別腹デザートを食べているが、それ以外のメンバーはまだ胃袋に余裕があるようだ。
ユウの手許のネタケースにはオーソドックスな江戸前のネタも沢山あるが、それ以外にもサーモンや海老天、ハンバーグなどのお子様向けのネタもしっかりと用意されている。
フウやケイの渋めの注文と、お任せのマリーの注文を捌きながら、キャスパーや愚連隊のメンバーにも様々な種類の握り寿司をどんどん握っていく。
特にパピやベックは握り寿司に関する知識がそれ程無いのか、定番メニュー以外にもアボカド・サーモンや海老天等のお子様向けメニューの注文が多い。
ケイがシャコを美味しそうに頬張っている姿を、二人が微妙に嫌そうな顔をしているのはユウから見ても面白い光景だ。
だが煮穴子の握りを二人に出すと、ほぐれるように柔らかい身と詰めタレの味が気に入ったようで繰り返し同じものをとリクエストする。
父親に喜んで貰うために研鑽を積んだ握り寿司の技術は、父が亡き後も身近な人達に喜んで貰うために十分役立っている。
今では自分の作った食事を喜んで食べて貰うのが、ユウの生活の大きな部分を占めるようになっているのだから。
(マリー以外のメンバーも、喜んでくれたみたいで良かったな)
ほとんど空になったネタケースを見ながら、ユウの長い一日はようやく終わろうとしていたのであった。
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