011.I Can't Be Satisfied<金●部屋ちゃんこ>
朝食後のCongohトーキョーのリビング。
グルメ番組で相撲部屋の食事風景を見たマリーは、ユウに『ああいう食事』をしてみたいといういつものリクエストを出してきた。
相撲部屋でちゃんこ鍋と大量の料理を囲んで食べる様子が、彼女には美味しそうに見えたのだろう。
鶏ソップのちゃんこ鍋はユウの修行先でも良く注文されていたメニューだったので、材料と鍋さえあれば作るのは難しく無い。
(炊き出しに使う打ち出しの大鍋とガス接続のコンロは倉庫にあるから、あとは材料かな。
鶏ガラと味の濃い鶏肉がちょっと大目に要るな。あとは〆のうどんも大量に)
午後は特に急ぎの業務が無いのを思い出し、ユウはマリーに今日の夕食はちゃんこにすると告げて買い物に出掛ける。
美味しい地鶏を扱う近所の肉屋には、運がよい事に地鶏の鶏ガラも大量に在庫していた。
鶏ガラと腿肉を大量に購入したユウは、近所のスーパーで煮込み用の腰があるうどんも大量にカゴに入れる。
(相撲部屋の食事風景だと、おかずも大量にテーブルに並んでいたよね。
多分マリーは、あの相撲部屋の雰囲気も含めて食べてみたいって言ったんだろうな)
マリーは食事の好みに関しては自ら選べる環境にあるが、限界まで食べ物を詰め込む相撲部屋のような食事をした経験は無いだろう。
食べる事も仕事で体重を維持する必要があるのはマリーと似ているが、マリーがお気に入りの料理で満腹になった様子をユウは見た記憶が無い。
(偶には、相撲部屋みたいな食事も気分転換に良いかも知れないな)
全ての料理を自前でまかなうのも時間的に無理があるので、近所で評判の総菜店から揚げる前の状態の生コロッケや生メンチカツ等のフライものを大量に分けて貰う。
また昔ながらの和菓子屋では、マリーの好物であるいなり寿司を店頭のガラス・ケースに入っている分を全部包んで貰う。
大使館に戻ると、ユウはキッチンに篭り仕込みを始める。
鶏ガラを丁寧に下処理をして濃い目のスープを作り、冷蔵庫にある野菜を下ごしらえする。
大型ジャーでご飯を炊き、時間を合わせてフライヤーで揚げ物を大量に挙げていく。
手が開いたタイミングで、酢の物や簡単なサラダと寿司の日には作らない海老フライや棒カツを具にした太巻きを作り、リビングの大テーブルには大型のガスコンロとダシをはった大なべを設置する。
もも肉から作ったつみれと、大きく切ったもも肉を入れてから、野菜や他の具材を入れて大きなフタをする。
鍋が煮えるまで、テーブルの上にバラエティに富んだ料理を整然と並べていく。
テーブルの上は雑多な種類の料理が所狭しと並び、いつの間にかTokyoオフィスのリビングはマリーがテレビで見ていた相撲部屋の食事風景そのものになっていたのであった。
夕食時。
「良く短時間でこれだけ用意できたな」
フウが大量の料理を眺めながら、感心したように言う。
相撲部屋で良く見かける山盛りの唐揚げや焼き肉はマリーも外で食べ飽きているだろうから作らなかったが、それでもマリーはテーブルの上にずらりと並んだ好物の料理を見て満面の笑みを浮かべている。
「テレビで見た相撲部屋の雰囲気を再現しました。でも揚げ物はパン粉が付いた状態の既製品を分けて貰ったので、作ってませんよ」
「でも揚げたてじゃないか?」
「ええ、冷めたコロッケやメンチカツは美味しくないですから」
「この鍋のスープ、良い味ですわね」
「うん、野菜や他の具材も美味しいな」
「鶏肉も味が濃いですわね」
「地鶏だから、歯応えがあって旨みが強いと思うよ」
「ユウ、とっても美味しい!」
普段我慢している鬱憤を晴らすように、マリーは次々と好物を頬張っている。
特に珍しい太巻き寿司は気に入ったようで、鍋の中身と一緒にどんどん大皿が空になっていく。
「では、鍋の中身も少なくなったので〆のうどんを入れます!」
「わくわく」
「さぁマリー、沢山食べてね!」
「うん!」
大きなラーメン丼に盛られた煮込みうどんを、ちゅるちゅるとマリーが食べていく。
驚いた事にこれだけ大量に用意した夕食は、マリーとメンバーによってほぼ綺麗に食べ尽くされたのであった。
☆
翌朝、マリーは珍しく朝食の席に出てこなかった。
様子を見に行ったユウは、ドアの隙間からベットで満足気に朝寝しているマリーの姿を見て嬉しくなる。
朝食前にお腹が空いたという台詞を聞かなかったのは、ユウがここに来て初めてのような気がする。
複雑な旨みを吸った〆のうどんはマリー以外のメンバーにも特に好評で、ちゃんこ料理は冬の定番メニューとしてトーキョーオフィスに定着することになった。
折角だから名前をつけようとフウが悪乗りし、ちゃんこ鍋の日は『金●部屋一般公開日』という名称になったのであった。
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