010.Every Morning<余り物には>
ユウは俗に言うニホン食しか作らないので、自らの食事当番でバゲットを食卓に出すことは無かった。
ただし子供の頃から母親の作るフランス料理に親しんでいたユウにとって、バゲットは馴染み深い食材でもある。今でも好きなパンと言えば、食パンよりもバゲットと迷わずに答えるだろうし、出来映えについても店毎の特徴を指摘できる程度には味はわかるつもりだ。
Congohトーキョーでは定期配送便で有名ブーランジェリーから出来たてのバゲットを仕入れるのも可能だが、メンバーからの要望が無いので必要な時にだけ商店街のパン屋さんから購入する事にしている。
このパン屋さんはマリー馴染みのビストロにバゲットを卸している店で、表皮が香ばしく内部は柔らかい出来映えがメンバーにも概ね好評だ。
ユウは極少し余ったバゲットを生パン粉としてブレンドして使ったり、自分用のサンドイッチを作るのに使っていたが、朝食メニューとしてメンバーに披露する事は無かった。
何故ならCongohトーキョーではニホン式の朝食が当たり前で、ご飯・納豆・お味噌汁・主菜一品いう組み合わせが定番になっているからである。
前日の夕食はフウが当番で作ったポトフだったので、当然の事ながらマリーの為に大量のバゲットが用意されていた。
だが味見したポトフの味付けが意外と濃かったので、最近ニホン食を食べ慣れているマリーはバゲットでは無くご飯で食べたいと言い出した。
この組み合わせが何故か好評でメンバー全員がご飯でポトフになってしまい、用意したバゲットが手付かずで残ってしまったのである。
Congohトーキョーでは食材を無駄にするのはご法度だが、その時食べたいと思ったモノを無視して良いという事にはならない。
翌朝の朝食当番はユウだったが、当然のことながら、キッチンにはビニール袋で密封したバゲットの山が残っている。
手を加えたとしても、水分が抜けていくこのバゲットの消費期限はこの日の午前中が精々だろう。
(ニホン食以外は作れないなんて言ってると、このバゲット全部が無駄になっちゃうよな……)
ユウは母親と行った旅行で、フランスのブーランジェリーで食べたバゲットサンドの味を思い出し調理を始める。
一日経過してしまったので、バゲットは霧吹きで加水した後オーブンでちょっとだけ火を入れる。
この辺りは、普段自分用のサンドイッチを作る場合に使っているちょっとしたTIPSである。
粗熱が取れたら、スライスして普段は使わない発酵バターを気泡が多い切り口にたっぷり塗っていく。
挟む具材は、ハウス冷蔵庫に常備してあるジャンボン・ブラン (フランス風の白いロースハム)とエメンタール・チーズ、レタスとトマト等の野菜。
薄くスライスしたハムは、昔食べた記憶から何枚も重ねて挟み込み見た目のボリューム感を出している。
こうして味の記憶から試しに作ったバケットを半分に切って、ユウは大きく口を開けてかぶりつき味見をする。
(おお、あの時食べたサンドイッチと同じ味!これなら朝食に出してもフウさんやマリーも文句を言わないよね)
流石に味噌汁と一緒に食べるのは無理があるので、ユウは大量のサンドイッチを作る片手間に豚汁を作り、最後に多めのバターを投入する。
白味噌とバターがたっぷりと入った豚汁は、サンドイッチと一緒に食べても違和感が無い具沢山のスープとして楽しめる筈だ。
☆
朝食の時間帯
「あらっ、ニホン食じゃない朝食は久しぶりですわね」
「ユウ、このサンドイッチとっても美味しい!」
「今日の味噌汁の具は……おおっ今日は味噌汁じゃないのか?」
「ええ、バターをたっぷり入れた豚汁です。サンドイッチとも良く合うと思いますよ」
「ユウさん、このサンドイッチの作り方どこで覚えましたの?」
「子供の頃パリで食べたのを、思い出して作ってみたんだ」
「道理で、本格的な味ですわね」
「記憶だけでこれだけ作れるものなのか……さすがアイの娘だな」
この日の朝提供したメニューがあまりにも好評だったので、バゲットサンドと豚汁の朝食はCongohトーキョーの定番メニューになったのであった。
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