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ドレッシングは誰が身にかかる?  作者: ロンギヌス
第一章 はじまりと人間王国編
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第八話 街の危機


 今ミナミサカイの街は重苦しい緊張感に包まれている。時刻は夜の8時、周囲は既に闇に包まれ、焚かれた篝火がそれに抗わんとその身を激しく燃やしている。カイシの街ができるまで、このミナミサカイの街は魔物を牽制する国境の街だった。一千年の戦争のうちにミナミサカイ以南の街はことごとくが滅び、北カイシ山地を天然の要害とすることでなんとか保ってきた。無論今まで街を守り抜いてきた要因はそれだけではない。全ての兵士が高度に訓練されていたということも大きい。しかし、今となってはその精兵たちは新たに拓かれたカイシの街に引き抜かれ、ミナミサカイに残るは精兵から脱落した二流ものか、最前線に立つには歳を重ねすぎた老兵のみ。そんなときに五百を超えるゴブリンの群れの襲撃。今度こそダメかもしれない……街の住民の多くはそんな思いに囚われていた。


「俺ら百人ぽっちで、どうしろってんだ」


 先日南門で門衛をしていた兵士がぼやく。そのぼやきに老兵の一人が苦い顔で応じた。


「なあに、儂らが一人で五匹ずつ屠ればよいだけのことじゃ。今はクラウディア様も居られる、一年前の、お帰りになる前に襲ってこられた場合を考えればゴブリンごとき物の数ではないわ」

「小隊長、そりゃいくらなんでも無理がありますぜ。たらればを言やぁ、子爵様がご乱心なされなければゴブリンの千や二千は敵じゃなかったでしょう」


 南街壁に設置された櫓の上でそんな軽口を交わしていると、西から半鐘を叩く音がグギャグギャという汚い喧噪にまぎれて聞こえてきた。ついに小鬼どもが攻めてきたのだ。



「魔法隊、弓隊構えーッ……撃て、撃て、撃て!」


 林から湧き出るように駆け寄ってくる緑色をした小人たちに向け、辛うじて輪郭を浮き上がらせることに成功した篝火を頼りに矢と魔法が走る。何本もの矢を受けた戦闘の小鬼が声を出す間もなく絶命し、後ろの小鬼に踏み砕かれて赤い液体を撒き散らす。そんな屍を踏み越えて進むゴブリン共に、水を投げ槍状に固めた魔法が襲い掛かる。一匹を貫いただけでは止まらずその背後にいた小鬼をも食い破りようやく水の槍はその魔力を失った。しかし、小人たちの足は止まらない。三十匹ほどを大地に還したところでついに街壁に到達するゴブリンが現れ始める。


「くそ! 数が多すぎるってんだ! こんなボロ壁すぐに抜かれちまうッ!」


 壁に取りついたゴブリンを優先的に排除しながら、徐々に手が回らなくなってくる。伝令に走らせた一人が戻ってきたが、焼け石に水だ。三十分ほどそうした対応に追われそろそろ援軍を要請すべきかと考えたとき、壁の丸太が重い一撃に半ばからへし折られる音が響いた。慌てて音がした方を見やる。


「馬鹿な……ストーンゴーレムだと……」


 そこには絶望が立っていた。





 西門がついに斬り合いに発展したのと同じころ、北門と南門も同じ状況に陥っていた。伝令がそれを知らせ、中央広場に設営された天幕の中で大男が唸る。


「小癪な。三方向からの飽和攻撃とはいえ、ゴミ共の数は合わせて五百を上回るかどうか。うすのろの石くれをこちらに気付かせずに寄せる手段があるのだ、未だに攻めがない東が本命だと言っているようなものだぞ」

「子爵閣下、行かれますの?」

「敵が魔族や獣人ならばともかくな、たかがゴミ共が知恵を回せるものか。逃げ口を用意するなら北か南を空けておくはずだ。わざわざ東を空けるなど俺達を生かす気がないと見える」


 金髪翠眼の女に獰猛な笑みを向け、将机に立てかけていた大剣を掴み立ち上がる。悠然と東へ向かう男を見る女の目は、哀しげな光を浮かべていた。





 ストーンゴーレムが破った壁を踏み越え、次々と小鬼が街の中に押し寄せてくる。兵士たちが盾を前にかざして必死に押さえつける。右手に持った剣を振るおうとすればその隙を狙って小鬼の棍棒が襲い掛かる。かろうじて大きく侵入させてこそいないものの、数を減らせないのだから突破されるのは時間の問題だろう。破られた壁が一箇所ならばなんとかなったのだが、石の巨人は一体だけではなかった。見える範囲でも五体もいるのだ。全てが別々に穴を拡げているわけではないとはいえ、全部で三箇所の壁が破られてしまっている。配置されている二十人だけで抑えるのはもう無理だろう。いっそ中に引き込んだところを潰したほうがいいか。そう考え後退指示を出そうとしたところで、ゴブリン共を薄い靄のような闇が包み込んだ。


「ダークネス……引き裂く(クルーエルカッター)




「一網打尽か。ゴブリンはともかく、ゴーレムすら一撃なんて末恐ろしいな」


 全身を切り裂かれ赤い血を海よできよとばかりに流すゴブリンを見つめる黒い人影。傍らには林に伏せていた奇形の狼どもの死体が散乱している。少しすれば薄青い光の礫となって消えていくだろう死体にはもはや興味がないのか、まっすぐに街壁、その奥を見通すように睨んでいる。


「行くぞリルー。ここからじゃ東までは見えん」


 そう言うと、いつの間にか現れていた巨犬に飛び乗った人影は闇にまぎれながらその場を後にした。




「引っ込んでろ、雑魚がァ!」


 叫び声とともに大剣が振るわれ、その剣から百メートル先までのモンスター全てが両断され崩れ落ちる。光属性の魔法剣、伸びる光剣(レーザーブレード・エクステンション)。ゴーレムすらバターのように切られ、攻めかかってきたゴブリン達二百匹が一瞬で散った。光剣を振るった大男はつまらなそうに鼻を鳴らすと、真っ直ぐ歩き出す。その先に小鬼たちの指揮官がいると確信しているのだ。


 散発的に襲い掛かってくる狼モドキを切り捨てながらどんどん進み、その視界についに他のゴブリンとはまるで違う何者かを捉える。


「貴様がゴミ共の親玉か。少しは楽しませてくれるんだろうな?」


 そう言葉を投げかけると、光の玉が浮かびその異形を男にしっかりと見えるように。その姿を見た男は言葉を発することができなかった。ぼさぼさだが、金髪の髪を生やし翠色の瞳をしている。薄緑色の皮膚はゴブリンというよりも人間に近いと感じさせる質感、なにより……その顔は亡き夫人にそっくりだった。


「マリナ……? なぜ、なぜその顔を……」


 茫然と立ち尽くす男に、しかし小鬼は容赦しなかった。


「ロックジャベリンレイン」


 岩で作られた槍が頭上から雨のように降りかかる。男の魔法防御を貫き、鎧の肩部分を脱落させるだけでなく右足の甲を縫い付ける。そこに至ってようやく我に返った騎士鎧の男は、歯を砕かんばかりに食いしばると、身を屈め力を溜める。次の瞬間には体に突き立った岩の槍ごとゴブリンに肉薄、上段から大剣を叩きつける。王国の正騎士でも対応できるか怪しい閃く稲妻のような一撃、だが目の前の異形はしっかりと受け流し、それどころかカウンターのように水の弾丸をガディオンの腹に叩きこむ。


「ぐゥッ、舐めるな!」


 流れた体勢を無理やり引き止め、力任せに横薙ぎを繰り出す。技も何もない力だけの一撃。されどゴブリンは受け流しきれず、盾にした棍棒が叩き折られる。衝撃に耐えられずわずかに体が浮いたところをガディオンが回転の遠心力を乗せた同じ斬線を払い、結果内臓が飛び散る凄惨な光景を作り出した。


 荒い息を吐いて気を整えようと視線を地面に向けた、その時。数メートル先の地面が複雑な文様を浮かべ輝きだす。その範囲は大きく、半径十メートルはある。


「石くれのカラクリはこれか」


 男はそれを召喚陣だと見切る。さて何が出てくるやらと剣を構えて見据える。傲慢さすら漂わせた正眼の構え。しかし、召喚され輪郭を確かにしていく存在を前にその驕りは吹き散らされていった。二枚の翼、爬虫類の足で大地を踏みしめ、長く筋肉がつまった鈍器のような尾。そしてそれと対をなすように伸びる首と、黒い角が誇り高く突き出た頭。覗く牙はその強靭な顎に導かれ挟んだものの生を許さないだろう。知らず震えだす男を真正面から睨む、金色の龍眼。高位竜の証。全長でいえば十メートルはくだらない、怪物。


「グォアアアアアアアアア!!!!」


 戦場から、咆哮以外の音が消えた。






ガディオン=ナイト・サカイ・サウスボーダー子爵(48歳)

称号:近衛騎士(HP・VIT上昇大)

レベル81

HP 1470/1470 称号にて+100%(元は735)

MP 220/ 220

STR 70 +25

VIT 150 +30/称号にて+100% (実際は75)

DEX 70 +25

AGI 45

INT 45

MIN 45

LUC 45

(メイン)

 剛剣 剛槍 騎馬 守護 威圧 礼節 重装備

 火属性魔法 土属性魔法 光属性魔法 氷属性魔法 

(サブ)

 身体能力強化 体力強化 筋力強化 走力強化 

 毒耐性 サバイバル 長弓 麻痺耐性


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