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ドレッシングは誰が身にかかる?  作者: ロンギヌス
第一章 はじまりと人間王国編
31/98

第二十九話 そのうちホムンクルスとか出したいな。材料はせいえ(ry

ほぼ王都についての説明回。

あとは生産作業。

――ゲーム内23日目、現実時間5月1日午前7時~8時――


 シェイドは王都を見くびっていた、といっていいだろう。前日は日も落ち、宿を探すことを優先していたせいで気付かなかったのだが。見つけて止まった宿は王都にあるものではなく、城下町のさらに外にある外縁町とでも言うべき場所にあるものだったのだ。

 王都は、王城とその周辺にある最初の城下町、そこから3層の城壁に囲まれた範囲を指す。そしてイリアの言った城門とは、その第三城壁のものである。しかし、その周辺にはさらに町が広がっているのだ。具体的に言えば、第三城壁からさらに2つの壁があり、それぞれに門が築かれている。外縁町とは、その第五壁の外部に広がった町のことなのだが、外周の一辺は25kmほどもあるという巨大なもの。

 王城があり上級貴族の居住区画でもある第一城壁の一辺は3kmで、これは近衛や王族直属の騎士団の兵舎もあるため広くとられている。籠城できるようにいざとなれば畑を作れるように、各邸宅に広く庭が与えられていることも大きいのだが。そんな第一城壁は東西南北に一つずつ門があり、高さは10mで厚さは5mほどにもなるという。また南は王城の正門があるので特に発展する傾向がある。

 そして第二城壁だが、一辺は5kmほど。一直線に進軍させないために、城門は1時4時7時10時の方向にずらして作られており、高さ厚さは第一城壁と同等。この区画は下級貴族や豪商、中級の役人などが住む。第一城壁内とは違い、数は少ないが豪商が直接営む商店もあり貴族や富裕層でいつも賑わっている区画だ。

 次に城壁としては最も新しい第三城壁。王都というときはだいたいこの城壁までを示し、高級職人や成功した商人、そして一定以上の実力をもった魔法使いたちが主な住人となる。住人の性質上、魔道具や高級な魔物素材を扱う商店はこの区画に集中しており、貴族でなくとも立ち入れることから一般の国民にとってこの王都第三区画こそが憧れの場所である。城門は東西南北に素直に配置されており、しかし城壁の高さは5m、厚さも3mほどでいささか堅牢とはいいがたいもの。もっとも、その分を水堀で補っている。城壁を挟むように3mずつ張られており、実質10m近い城壁と遜色ない。さらに、堀には水棲型の魔物が放たれており泳いで渡ることも難しい。城門にかけられた跳ね橋を巡った攻防を想定して望楼なども配置されており、見た目以上に守りは堅い。

 続いて第四壁。これは魔神大戦時に築かれた防塁などを流用したもので、魔物素材を加工した幕を貼り付けた木壁だ。逆棘状にした丸太が二列並べられ、それを魔物素材を貼り付けた木の板で挟んだ形。この壁は、物理的な衝撃にも十分強いのだがむしろ魔法的な攻撃に対する耐性が非常に高いものだ。そのため、この壁の前後には魔法実験施設や魔法を使うための訓練場、魔法だけでなく諸々の手段を用いた職人たちの工房が立ち並んでいる。騒音も無視できないため、その周辺は第四壁内は安宿などが集まる下町になっている。第三城壁に近い区画は平民たちの住宅街になっており、そのため一番人通りが多いのはそれらの中間だろう。必然的に商店や城壁外区域の行政施設が集まっている。門は東西南北に二つずつある。

 第五壁。前述したように第四壁との境目は騒音が激しいため、半スラム化している。第五壁自体は柵と空堀の組み合わせであり、せいぜいが野生動物避けといったところ。魔物への抵抗力はほとんどないと言っていいだろう。とはいえ、それは外から見た場合の話だ。第五壁のすぐ内側はかなりの急勾配になっており、さらに操作一つで飛び出す障害物や罠が張り巡らされている。いざ敵に攻め寄せられたときにはあえてこの第五区画に侵入させ、退路を断ったうえで殲滅することを目的とした区画なのだ。そのため、この区画には兵舎や練兵場が多い。またそれらの家族が住むための住宅地や、遊ぶための歓楽街が主な施設だろう。門は東西南北一つずつだ。

 最後に外縁町。ここは魔神大戦が完全に終結したここ20年ほどで形成された町で、最も活気がある区画である。門らしい門がないために、実質入場税などが存在していない。そのために流れ者や夢追い人が多く集まり、壁外なのに新興芸術家のサロンなどまである。しかし、そういった若い街にありがちなように、お世辞にも治安が良いとは言えない。それでも、一旗揚げようとやる気に溢れた若者たちが中心となって活動している場所なので、格式ばっていない穴場的な店や宿がちらほらとあるため物好きな貴族などがお忍びで訪れたりもする。貴族子弟の度胸試しなどもあるし、単純に人目につかないためというのもある。シェイドたちが滑り込んだ宿もそんなところの一つであった。



 イリアもリルーもさすがに疲れ切って宿に着くなり倒れるように寝てしまった。リルーは影の中だったが、人化中ならばスペースに問題もない。取れた部屋がツインルームだったこともあり、シェイドはイリアとリルーをそれぞれベッドに寝かせてやった。すぐに寝息を立てた二人を後目に、シェイドは最近できていなかった生産活動に取り掛かることにした。

 まず作るのは、錬金術用の道具だ。これまで使ってきたのはミナミサカイで仕入れた入門用セットと、適宜作ってきたオリジナルの道具だ。オリジナルと言っても、大きさや形を少し変えてある程度なのだが。しかし、これから作るのはこれまでの道具よりも高性能だ。端的に言えば、生産道具を錬金したアイテムから作り、さらに道具そのものにもエンチャントを施す。それによりできるのは。


【特製携帯錬金釜】

 シェイド特製の携帯用錬金窯。素材から手作りした一品で、特殊な機能も解禁された。

 特製の生産道具は一流職人の登竜門であり、みな自分で使いやすい納得のいく道具を自作するものである。道具専門の職人にツテがあるならばその限りでもないのだが……。

 品質:91。

(効果)

・サイズ自在

・品質向上+1

・劣化防止+2

・範囲拡大+2

・魔力があふれる



 品質向上+1というのは、作成するアイテムの品質がある程度底上げされるというものだ。劣化防止+2は多少の失敗なら品質に影響しないようになる、大量作成時には嬉しい効果。範囲拡大+2は、作成したアイテムにつけられる効果が増えるらしい。サイズ自在は文字通り、釜の大きさを自由に変えられる。

 最後の“魔力があふれる”だが、これはシェイドにはよくわからなかった。錬金術で消費するMPを軽減できるのは確定だが、それ以外にも何か効果がありそうなのだが……。


 他にも鍛冶道具やら細工道具やらを作成し、錬金術のスキルレベルが200を超えた。マスターしたわけではないが、これまでと違って高度なアイテムを作れるようになったようにシェイドには感じられた。

 実は、この200というレベル。生産系スキルでは一つの節目である。200より上のレベルで作成されるアイテムは、一般の市場にはほとんど流れない。素材だけなら見かけることはあっても、スキルレベル200未満の職人では扱っても他の下位素材と同様の効果しか引き出せず、宝の持ち腐れとなる。そう、200以上用のアイテムは、素材からして高級。ゲーム的にはここからがやり込み要素としてのスタートラインである。具体的に言えば、錬金術レベル200以上になると人造人間(ホムンクルス)生きている武具インテリジェンスアイテム、賢者の石などが視野に入れられるようになるのだ。もっとも、200では中間素材ですら成功は覚束ないのだが。


 さて、そんなこんなで生産道具のアップグレードも完了し、シェイドはいよいよ装備の更新に入った。以前入手した上位竜素材と、自らの体を素材とした装備である。レッドドラゴン素材は、レッドというだけあり火との親和性が非常に高い。そう、鱗をすり潰した上で中和剤を添加して錬金することで、上質な火薬となるのだ。鱗をはじめとして彼の竜素材は山ほどある。竜骨を素材に弾丸を作り、それと鱗火薬を錬成すれば現在シェイドが望める最高の弾丸の完成だ。とはいえ、素材に限りがある以上はとっておきとして無駄遣いはできない。普段使いは自分の体を使った素材――凝縮影材――を弾丸にしたものを撃つべきだろう。

 この凝縮影材、込める影の量を変えることで硬さなども変えられる。糸のようにして布状に錬成してから服として仕上げたりもできる。なにより、凝縮しても影であることに変わりはないようで影操作で弄ることも可能という、シェイドにとっては夢のような素材となった。

 張り切って武器防具アクセサリーを作成して、準備万端。気付けば朝になっており、イリアがちょうど着替えを終わったところだった。


「おはよう、イリア。それにしても、派手な格好だな?」


 シェイドがそう言ったイリアの格好とは、紫色のグラデーションがかかったイブニングドレスに、賢者の石を宝石のように散りばめた水色のストールを肩にかけ、イヤリングとネックレスには大きな紫水晶をあしらったアクセサリーをしたもの。髪も結い上げており、清楚さの中に見せる妖艶さはパーティ会場では息つく暇もないだろう社交界の華といった風情。もっとも、シェイドに対しどうだと言わんばかりの得意げな顔を見せつけているところを見れば華というよりも妖精族らしい陽気さが浮き彫りになるのだが。


「それはそうですよ。これから高い馬車を借りて第三城壁の門番に事情説明に行くんですから」


 そう言ってストールに隠れるようになっていた勲章をチラリと見せる。


「王都での武装は刃より金銀財宝ってことか」


 寝ぼけ眼をこすりこすりしているリルーに、影の中に入って新調した武具をつけるようにいいながら、納得したように頷くシェイド。王都では下手な武器防具よりも勲章やそれをつけるに相応しいような服飾のほうが効果的ということだ。現代日本で生きるプレイヤーたちにはなかなかに縁遠い世界。マナー程度ならともかく、本格的な宮廷作法など知らない以上はイリアに全て任せた方がいいだろう。


「ということは、私がいる必要もあまりないか。タルクステンの救援を編成するのにどれくらいかかるか、だいたいでいいが分かるか?」


 シェイドの質問にイリアは少し考えるそぶりをしてから答える。さらりと流れる前髪が目にまぶしい。


「そうですね……早くても10日はかかると思いますよ。王都に常駐している兵力は、王族の直卒軍2万と貴族たちの私設軍合計1万くらい。それらを全て援軍に充てても3万にしかなりませんから。召喚士を上手くかき集められれば、その3万と合わせれば足りると思いますが」

「10日か。ならちょうどいいかもしれないな」


 イリアの言葉にシェイドは思案顔になる。そう、シェイドはここまでずっとログインしたままだ。仕事の方は安定期に入っており、正直に言えば1週間くらい休んでいても大きな問題にはならない。このゲームプレイも一応は仕事のうちに入れることもできるから、無断欠勤ということにもならないでいる。


「早くても10日ですよ? カイゼル共和国が本格侵攻を考えているのなら、王都の戦力を動かすわけにもいきませんから……。新規徴兵で当座を補充するとしても1ヶ月かかると思っていたほうがいいです」


 さすがに新兵の調練からしている時間はないが、それはタルクステン救援に限った話だ。さすがに王都付近に兵が伏せてあればそれを察知しないはずもなく、つまりは熟練兵を救援に充て、足りない分も安全な後方地から兵力を抽出してそれも救援の軍に充てる。その際に不足する安全地や王都の兵力は新兵を徴兵することで確保すればいいということだ。そのための体勢づくりや招集した軍の再編成などのもろもろにかかる時間が1ヶ月、30日ほどということなのだ。しかし、それではあまりに悠長すぎるのではないか。その疑問をシェイドは留められず口にする。


「間に合うのか? 30日と移動時間で10日くらいかかるんじゃ」

「そこは大丈夫です。タルクステンの結界は25日間くらいもちますし、シェイドさんのおかげでここまで4日しかかかっていませんから。招集と編成さえ終われば、兵の移動には空間魔法が使えますので。幸い、タルクステンは大規模転移術式の受信が可能な町の一つ。上手くすれば結界が破られる前に敵の後背を衝けます」

 

 シェイドの心配に対して、イリアは気安く請け負う。確かに25日ももつなら差引10日程度防衛できればいいのだからイリアがあまり心配していないのも納得だ。8千程度の戦力でも、守りに徹すれば10万相手に10日ならなんとか凌げるはずだ。

 イリアが前日の間に頼んでおいたという高級馬車に二人は乗り込み、外縁町の道を進む。高級と付くだけあり、揺れはほとんどない。魔力の気配からして、風魔法で空気圧を操作、水魔法で水圧を操作することでサスペンションの代わりをさせているようだと判断する。さすがに重力魔法はそうそう使えるものはいないからこそ回りくどい方法で揺れを抑えている。もっとも、重力操作系の魔法を使えるなら、その術者は第3区画に住んで一端の魔法使い人生を謳歌するためわざわざ御者をやったりはしないというのが一番の理由である。

 馬車には幻属性が付与されたガラス窓が取り付けられていて、そこから外を眺めることができる。シェイドはその窓からありがたく町の様子を眺めさせてもらった。無論、魔法などのレベル上げを同時進行させているのだが。

 外縁町は人通りも多く活気がある場所だった。全体的に若いものが多いようで、しかし人間はあまりいないようにシェイドは感じた。獣人や魔族がメインなのではないだろうか。

 第5区画は、畑や練兵場などが広い場所を取っており、城の傍での野戦にはうってつけだろう。何しろ第五壁付近以外は平坦で、馬を駆けさせるのにちょうど良さそうなのだから。これは分かっていても兵を進めたくなるような場所。実際大戦時には何度も屍山血河が広がった場所であり、戦士たちの骸が肥沃な土壌を支えたという笑えない歴史がある。

 第4区画。ここは外縁や第5区画とは違い随分と猥雑な雰囲気。第5区画にも確かに歓楽街はあった。あったのだが、健全な酒場や料理屋の類ばかりなのだ。その点いわゆる風俗店もあるこの区画の雰囲気が他と違うのも仕方がないところだったりする。

 そうして第3城壁が見えてきた。これまでの2つの門では止められることもなかったのだが、それらとは明らかに違う。門番など、既にこちらの馬車に槍を向けているものが10名近くいるのだ。ここからが“王都”なのだ、と主張するかのような光景。しかし、シェイドもイリアも落ち着いていた。イリアは場数を踏んでいるから慣れているのだろうし、シェイドにとっても似たようなもの。さらに言えば少なくともこの門番たちが束になってかかっても、自分には敵わないという自信もあるに違いない。下手に刺激すれば王国全体が敵になる可能性もあるのだが……。


「さて、ちゃんとお話を聞いてもらえるかしら?」


 茶目っ気たっぷりにウィンクしながら呟くイリア。シェイドは呆れたような視線を向け、返す。


「ナカトネのときみたいに意地は張らないでくれよ」


 クスクスと笑うイリアは、余裕たっぷりな所作で馬車を降りるのだった。



よし、これでとんでも装備とか出しても大丈夫だな(錯乱)

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