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ドレッシングは誰が身にかかる?  作者: ロンギヌス
第一章 はじまりと人間王国編
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第十九話 三人娘と血に染まるキャラバン


――ゲーム内17日目、現実4月30日22時――



 抜けるような青空のもと、ミナミサカイを出発した馬車は手入れのされていない広大な草原を後目にそろそろ街道交差点に到ろうとしていた。そんな馬車に乗った三人の少女は、見上げてもまだ先が見えないほどの高い、それはもう高い塔を視界に入れ三者三様の声をあげた。


「は~、すごいです……」


 長い艶やかな黒髪を手で押さえ感嘆の声を上げる少女。腰には曲剣、袴を穿いた姿はまさに剣術少女といったよう。顔に目を向ければ百人が百人美人と評するだろう、和風の美しさを収めている。落ち着いた透き通るような声は、それだけでも十分に魅力を感じさせる。


「あんな馬鹿高い塔、よくもまあ作ったもんよね」


 一方呆れたような気の抜けた声を発したのは、桃色がかった金色の髪、瞳は深みがある鳶色。いささか小柄でそれに見合っただけの薄さと、それが故の危うげな色香を放つ少女。真っ白なケープにクリーム色のブラウス、ワイン色の巻きスカートを身に着けそれはどこかの令嬢のお忍びといった風情だ。


「作ったっていうか、生えたみたいな感じらしいじゃん?」


 そう注釈を入れるのは波打った茶髪をしたグラマーな少女。胸元に大きな切れ込みのあるレザーアーマー、魔物の毛皮素材と思しき太ももまで伸びた脚甲、それと合わせて絶対領域を作り出す長さの短いオレンジ色のミニスカート。ところどころから覗く素肌は、ほどよい弾力のありそうなこぼれんばかりに主張している柔肌。


 さて、そんな三人が現在向かっているのはミナミサカイ―ナカトネ間の街道交差点。いや、現在ではダンジョン『天界への螺旋塔』と呼ばれる場所、その周囲にできた臨時キャンプ。三日前に忽然と現れたという。ナカトネ街やタルクステンに向かうプレイヤーたちは、その全てがこのダンジョンに足止めされた。

 ダンジョンが道を塞いでいるわけではないのだが、初の完全VR空間である第三世代ゲームでわざわざMMORPGを選んだものたちだ、大なり小なりダンジョンというものに魅力を感じるしもっというなら入手できるであろうアイテムに期待して早速攻略に乗り出したのだ。

 さらに言えば、最初にダンジョンを発見したものたちが攻略組と呼ばれる先行を目指す者たちだったことも大きな要因だろう。戦闘力に自信のある彼らは、レベル上げや装備の充実にもってこいなダンジョンを無視出来ようはずもなく、なにより初のダンジョン攻略者という栄誉を放り捨てられるなら先行などしていない。

 そういった理由で、ナカトネへのゲートクリスタルは未だ解放されていないのだ。もっとも、三人の目的地はタルクステン。真っ直ぐ向かっても良かったが、ダンジョンの見物がてら安全なルートで向かおうということにしたのだ。


「ん、ヒメ、カリン、魔物です」


 ダンジョンの麓にあるキャンプ地が遠目に見え始めた頃、馬車の中の和風少女――プレイヤー名は雪乃という――が魔物の気配を察知した。


「ふふっ、ちょうど運動したかったところだったのよね。ちょっとは骨があるといいんだけどっ」


 そう言って止まる馬車から飛び出したのは桃色髪の少女、月姫。上機嫌に吊り上げた口の端が描く優美な曲線は、実に蠱惑的だ。白いケープがマントのように風を含んで翻る。それを追うようにしっかりとした足取りで出てきたのは派手な服装の少女だ。名前を花梨という。野暮ったいはずの革鎧がそのボディラインをはっきりとさせ、男が見ていたら情欲を掻き立てられずにはいられないだろう。


「弱すぎるのも困るけど、苦戦して怪我とかは勘弁だよ」

「そうですね。経験値は欲しいですけど……来ます!」


 花梨の後について隙のない身のこなしで馬車を出た雪乃が、鋭い警告を出す。するとその直後、草原の草の陰から緑色の何かを纏った虎が飛びかかってくる。素早く反応したのは月姫だ。サイドステップで紙一重で爪の一撃をかわした少女は、その交差の瞬間に振るわれた左腕の付け根に鋭く短剣を突き立て、体重差で引きずられないうちに花梨の後ろに隠れるように距離を取った。しかし月姫はそこで首を傾げ、その手応えのなさに眉をひそめた。


「おかしいわ。確かに弱点に突き込んだはずなんだけれど」

「ヒメ、よくご覧なさいな」


 雪乃に促された月姫は素直に虎に目を向けなおすと、気付いた。


「な、スライム!?」


 そう、今彼女たちの前にいるのは、胴体全てが緑色のスライムでできた生き物だった。全体的なフォルムは虎そのもの、そして実際に手足や頭は虎のものである。動物鑑定スキルを持っていないので誰も分からなかったが、この魔物は緑色粘液装甲虎グラススライムタイガーという。スライム部分への物理攻撃は効果がなく、実体のある頭や手足にしか普通の攻撃は通らないという厄介な魔物である。現在ダンジョン周辺はエーテル濃度が上がっており、それが故にこのような妙な魔物が生まれているのだが……彼女たちには知る由もない。


「スライムなら魔法っしょ! 火よ、集いて我が敵を焼き貫け。《火槍(ファイアジャベリン)》!」


 張りのある声とともに掲げた手の先に炎の槍が形成され、数秒の後に射出される。最初の飛びかかりをかわされて崩したバランスを建て直し終えたところにその槍は肉薄。命中するかというところに差し込まれた虎腕が緑色の魔力を発し、炎の槍を吹き散らした。吹き散らされた炎だが、風前の灯火の意地か、粘液部分に火の粉を降らしてわずかながら焦がすことに成功する。虎は嫌がるように吼えると、そのダメージを負わせた女に体を正面に向ける。


「緑色だから風、ということでしょうか。動物は素直が一番です、ね! 《剣火(ブレードヒート)》!」


 いつの間にか横に回っていた雪乃が詠唱破棄の魔法剣をその胴に向かって叩きつけた。これにはさしもの虎も悲痛な鳴き声をあげ、焼け焦げた粘液部分を体から切り離して転がるように距離を離す。そこを見逃すほど少女たちは甘くなかった。三人は一斉に追撃にかかる。雪乃が再び剣を、花梨は火属性の魔力を流した盾で押さえつけにかかりさらに片手用ハンマーで殴る。トドメを取ったのは月姫だった。


「ノミとかいないでしょうね!? 汝このひとときは大地の力を顕現せん、《地のアースファング》」


 結句と同時にやけに長い犬歯をむき出しにした月姫は、実体のある頭に自らの牙で齧りつき、吸い付くように口を押し付ける。虎の皮ははその牙を受け入れ、奥の肉から血を送り出す。ほどなくして、体を一回り小さくした虎が横たえられ、薄青い結晶を散らしながら消滅した。


「ふぅ。なかなか運動になったわね!」

「ふふふ。そうですね」

「ヒメ、こいつの素材は錬金術に使えるんじゃないか?」

「そうかもね。ひとまず、汗かいちゃったからお風呂入りたいなあ」


 戦闘が終わってリラックスした少女たちの話に華が咲く。ブラウスの首元をぱたぱたと扇ぎ、ちらちらとその下の白磁の肌が見える。同乗者がいなくて幸運だったかもしれない。そのまま再び馬車に乗り込み、キャンプについてからの予定を肴におしゃべりに興じる少女たちであった。







「さてさて、そろそろ出発と行きましょうか」

 花梨が朗らかな声音で音頭を取ると、了承とともに皆がそれぞれに宛がわれた馬車に乗り込んだ。少女たち三人は、一人の少女とともに四人で馬車に乗り込むと御者に出発するよう告げる。

 彼女たちは、キャンプ地でタルクステン行の護衛を募っているところに遭遇してそれに上手く乗ったのだ。その護衛とは、キャンプ地からの馬車旅五日間をタルクステンの鉱山などに向かおうという生産専門ビルドのプレイヤー五人を守るというものだ。彼女たち三人以外に、一人の少女と、八人の男女パーティがこの護衛キャラバンに参加している。ちなみにパーティの男女比は5:3。生産ビルドプレイヤーは男女4:1だ。つまり、男九人と女八人ということになる。

 キャラバンは、護衛を担うものたちが四人ずつ乗り込んだ馬車で生産職プレイヤー五人の乗った馬車を囲むように配置されている。道幅が狭いときには前に二つ後ろに一つがガードにつくフォーメーションだ。

 そうして進んで二日目、ゲーム内19日目。そろそろ日が暮れてきたので野営地を探しているところだ。雪月花の三人は同乗した少女――18歳くらいの物静かな女。薄い緑色をした真っ直ぐな髪を足首まで伸ばした金色の瞳をしている。武器はハルバード。白を基調として各所にベルトが巻かれているワンピース型の服。左腕には金色のブレスレットをしている。魔力を感じさせるそれはかなりのレアアイテムの予感をさせる。セシリアと名乗った――を伴い、馬車の周囲で警護するように待機していた。ここまでの二日間があまりに平和だったせいか、彼女たちはすっかり気を抜いていた。しかも護衛対象の職人志望プレイヤーたちは八人に連れられて簡易キャンプの設営にこの場にはいないのだからなおさらだ。そんな少女たちの耳に何人もの悲鳴が届いたのは、誰かに見咎められたかのようなタイミングだった。


「ひぃ! やめっ! た、助けてくれえ!?」


 思わず顔を見合わせてしまった少女たちだが、一拍後にはしっかりと目配せを交わし意思を確認した。


「急ぎましょう。セシリー、援護お願いしますね」


 駆け出した少女たち。荘厳な雰囲気ながら軽快で、どこか寂しさのある曲が奏でられると力が漲ったのだろう、進む速度がグンと上がった。セシリアは器用にも、走りながらいつの間にか取り出していたアコースティックギターを弾きつつ歩みを進める。

 悲鳴の生じた場所にたどり着いてみると、そこには血の臭いと怒号が飛び交っていた。草原に寄り添うように大岩が地面からいくつか生え、上手くすれば警戒する方向を限定できる野営にうってつけの広場のようになった場所。


「援護します!」

「おう、助かる! お前ら援軍だ!」


 言うが早いか、セシリアの奏でる音色が寂しげなものから勇ましいものへと変じ、さらに歌声は襲撃者にまとわりつき体の動きを阻害する。雪月花の三人も素早く切り込み、二つ首の体高二メートル近い犬を屠っていく。

 三十分ほど経ち、ようやく魔物たちを倒しつくすと、その場にいたものは皆崩れるように腰を下ろした。


「な、なんだったのよ……この犬っころたち」

「知るかよ……俺が知りてぇ」


 後から駆け付けた四人全員の気持ちを月姫が代弁した。それに応えるのは八人パーティのリーダーをしている鱗素材装備で固めた人間族の男、ピルグリム。

 彼らが言うには、野営に適した広場を見つけテントと焚火を設置していたところに突然異形の犬たちが襲い掛かってきたということらしい。チーム内のレンジャー役が全く気付けないような不意打ちに対応が後手に回り、職人たちを逃がすことができずジリ貧に陥っていたのだとか。援軍がなければ死に戻り喰らってたとはピルグリムの談。

 危機を乗り越え全員が弛緩していた、隙。その隙としか言いようのないタイミングが、彼らの命運を分けた。


「ふぐぇ?」


 間の抜けた音を出したほうに目を向ける16人。彼らが見たのは、喉から鋼色の棒を突き出された八人パーティに所属する人間の女性。黒に近い紺色の髪をサイドテールにまとめた、快活そうな女性。年のころは20ほどか。脇には弓が無造作に置かれ、急所を守る最低限の鋼が補強された軽鎧に身を包んだ彼女。何が起こったか分からないのだろう、その目は自らの喉から伸びる鋼色の棒を不思議そうに眺めている。その棒が無造作に引き抜かれると同時に、赤い血が噴き出しその勢いに押されたかのように女性の体が傾いでいった。信じられないといった目を周囲の者に向け、喘ぐように口を開閉しながらピルグリムたちに手を伸ばす。伸ばされた手は、ドスっという音と同時に力を失い、地に落ちた。光が起こり、女性は溶けるように消えていった。


「う、うあ……ああああああああああああ!!? マキエ!? マキエ!!」


 狂乱し絶叫するピルグリム。マキエの周りにいたものたちは尻を引きずるように後退る。彼らの目が向けられているのは、マキエを殺したもの……艶消しの黒に身を包んだ獣人。

 次の瞬間にようやく時は動き出した。六人は武器を手に取り直して罵りとともに跳ね起きる。しかしそのときには雪乃が抜剣と同時に抜き打ちしていた。必殺の速さ。


(浅い!)


 薙がれた剣は首元の布とその奥の毛皮をわずかに切り裂くに止まる。舌打ちせんばかりに歯噛みする雪乃の左脇から桃色の人影が飛び出し、黒服の背後から右手の短剣と左手の爪を交差させるように繰り出す。避けられるはずがないタイミング。命まで刈り取れるかは分からないが、ダメージは免れない一撃。しかしその予見は結像しない。少女の刃が獣人の背を食い破らんとした刹那、少女と獣人の間に爆発が起こる。背後の岩に叩きつけられる月姫、爆風をものともせずむしろそれで加速するように雪乃に刺突剣を突き出す。雪乃は避けようとすらせず、右に振り切った剣に両手を添え右から左に振りぬく構え。雪乃の静謐な美しい顔まで三十センチ、はたして刺突剣は横から割り込んだ花梨の盾に受け流され、完全に流れた体を晒した獣人(エモノ)は雪乃の剣の錆となった。

 一瞬の攻防。しかし濃密な戦闘。三人のコンビネーションがなければ勝てたかどうか。こんなのがまだいたら全滅する……。そんな覆しがたい未来を見たのは誰だったか。そんな未来を幻視したからだろうか、背後から十人の黒づくめの獣人が現れた。

 彼らの不運は、街道からほとんど距離のない見通しのいい場所だったこと。そして幸運は――



 銀の光線と闇色の刃が十の絶望を切り裂いた。




 通り過ぎた光線を追った先に彼らが見たのは、体高五メートルはあろうかという威容の犬と、それに乗ったプリズム色のローブを纏った男の姿だった。





雪乃  16歳 種族:人間

称号:剣客見習い,親切者

レベル41

HP 125/125 

MP 125/125

STR 35 +10

VIT 25 

DEX 40 +15

AGI 40 +15

INT 25 

MIN 25 

LUC 25 

(メイン)

 片手曲剣 料理 器用度強化 筋力強化 精神強化

 歩法 気配察知 視力強化 火属性魔法 光属性魔法

(サブ

 裁縫 調合 投擲 受け流し


月姫  16歳 種族:魔族ハーフヴァンパイア

称号:解体屋,夜を征くもの

レベル36

HP 442/442 

MP 147/147

STR 40 

VIT 13 

DEX 47 +25

AGI 46 +10

INT 31 

MIN 18 

LUC 27

(メイン)

 短剣 爪 弱点看破 錬金術 風属性魔法 地属性魔法

 魔力探知 嗅覚強化 回避 敏捷強化 

(サブ

 裁縫 筆記 跳躍 細工 木工


・吸血鬼の牙…相手から吸血できる。吸血した場合、自身のステータスが上昇。

       上昇率は吸血対象の種族やレベルによって変化。

       ハーフのため相手を吸血鬼化させることは不可能。

・不死(半)…消耗したHPをMPで直接補給できる。身体の欠損が起こった場合、

       消費したMP量にしたがって回復する。

       火属性、光属性、浄属性で受けたダメージは回復できない。

・蝙蝠の半翼…飛行は不可能。短時間の滞空もしくは滑空であれば可能。

       滞空可能時間はMPを費やすことで延長可能。




花梨  16歳 種族:人間

称号:鍛冶師,鉄壁

レベル46

HP 325/325 

MP 150/150

STR 27

VIT 62 +35

DEX 37 +10

AGI 27

INT 27

MIN 27

LUC 27

(メイン)

 槌 片手槌 鍛冶 念力 筋力強化 器用度強化

 火属性魔法 水属性魔法 耐久強化 盾

(サブ

 精神統一 音感 リズム感 細工  鉱物鑑定


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