番外編3 原初の神話:人間国建国編
何百、何千、何万年も昔のこと……。
いつからか在った神々が、約束された大地を見つけた。
神々はさっそく大地に神力を掛けることにした。
まず生命の神が種をまき、
次に慈愛の神が育て、
そして裁きの神が命を刈り取った。
その命を糧にさらに多くの種がまかれ、育ち、刈り取られた。
そうした循環が起こり、何年経ったころだろうか。
獅子や狼、猿や鳥などが後ろ足二つで立ち上がることを覚え、
自由になった手と、支えを得た頭がそれまでとは比べ物にならないほどに
発達していった。
しかし、そんな者たちの中でも毛皮を捨て去った元猿の一族は、弱かった。
他の種族に虐げられ、言葉を生み出し、地を耕し、
金銀財宝を貴ぶようになった頃、
彼らは獣人たちの奴隷とされた。
慈愛の神はそれを嘆き、裁きの神は眉をひそめた。
されど彼らは智慧を獲得し自ら歩を進めたもの。
神がしゃしゃり出るべきではない。
神々はそう判断し、見守ることとした。それが過ちの始まりであった。
町はずれの掘っ立て小屋に、たいそう美しい娘がいた。娘は、元猿である毛皮を捨てた獣人――人間と呼ばれる種族のものだった。
この娘の悲劇は、美しすぎたことだ。透き通ったプリズム色の柔らかで長い髪は、動くたびに光を反射し星の瞬きを幻出させるかのよう。鼻梁はスッと通り、唇は桃色の花弁を思わせる。瞳は深い蒼色、眉は細く、それでいて暖かさを感じる緩やかな曲線。微笑めば他者を慈しむ聖母のようで、悲しめばたゆたう精霊でさえともに雨を降らす。
体を見れば魅了されぬ男はいないだろう。粗末な麻の布地を押し上げる豊満な乳房、力を込めれば折れてしまいそうな腰、嫋やかさに触れずにはいられない尻や細く引き締まっているのに柔らかさを疑いようのない脚。……そんな肢体を持った奴隷が、果たして放っておかれるものだろうか。答えは否である。
彼女は、獣人たちの性奴隷であった。王族や貴族にその艶やかな体を弄ばれることもあれば、狩りで大功を上げた勇者たちの褒美として、あるいは荒くれ者たちの慰み者として。朝な夕な休む暇もなく、その体は使われ続けた。
それでも、娘の心は美しかった。謂れのない暴力に晒される他の奴隷を庇い、餓える兄弟にわずかばかりの食餌を分け与え、傷ついた動植物を慈しんだ。
そんな娘を、慈愛の神は愛した。この尊い娘こそは何としても守らねばならぬと思わされた。それを嘲笑うかのように、悲劇が起こった。娘が子を孕んだのだ。
獣人と人間の間には、子は出来ぬとされていた。で、あるならば。娘は誰との間に子を生したのか。同じ人間としか考えられぬ。
獣人達はこのことに思い至り、怒った。自らの愛玩動物が気付かぬうちに傷物にされていた、と。その日から、人間奴隷への暴虐が始まった。それまでは、酷くとも慰み者にされるか劣悪な環境での労働を課されるかであったのだが。ついには男女の区別なく、戯れに四肢をもがれ、目を潰され、耳鼻を削がれ、肉を削られ、焼かれ、砕かれ……。生を嘲笑し、内に宿る破壊衝動を満たさんと悪逆の限りを尽くした。
娘は、泣くことすらできなかった。感情を浮かべる暇すら与えられず、孕んだ子を殺さんと手隙の獣人全てに犯され続けた。朧な意識の中で、彼女は祈った。
せめて かぞくや なかまたちは しあわせに いきてほしい
祈りは、届いた。そして、最悪の形で叶えられることとなる。
娘が意識を取り戻し、汚された体を引きずり身を起こしてみると。辺りは一面の荒野であった。街があったはずの場所には、いくつもの陥没痕が刻まれ。そこに生けるものの痕跡は残されていなかった。
茫然としていると、天より響く声が、彼女にもたらされた。
我は慈愛を司る神なり。汝の気高き魂を、我は愛そう。汝に力を、敵には裁きを。子には繁栄を。これより我は汝を守護し、導こう。いとし子よ、立て、そして歩け。汝の進むは道となり、汝の愛するもの達の指針となろう。
こうして獣人の国との戦争が起こり、人間は長耳族や包髭族と協力することで辛くも勝利した。いくつもの獣人国が滅び、そこを領地とした人間のための国、グランマーシー王国が建国された。
獣人国では、エロ部分がねっとりばっちり伝わっているとかいないとか。




