プロローグ
初めまして。メンタル豆腐なのでお手柔らかに願います。
2058年、第三次世界大戦終結から10年が経ち、ついに第三世代型VRゲーム機が発売された。それとともにMMORPG『サラダボウル』の開発が発表され、5月のゴールデンウィークに合わせて発売されるとのことだ。
第三世代型VRゲーム機、“プレイステップ3”。理論上は1080倍の思考加速が可能であるとされている、ハイスペックマシーンである。かつての大戦の原因となった忌まわしき“思考加速”……。有識者の中にはこのマシーンを危惧する声もあったが、世の中は既に常時3倍速のVRネット空間が広く活用されており、プレステ3を殊更問題視するような評論に世間は耳を貸すことはなかった。
常時3倍のVRネット空間――ソーシャルヴァーチャルリアリティネットワーク――通称SVRネットの歴史は、2054年のプレステ2から始まった。最初こそゲーム関連のSNS的扱いであったが、数年と経たずに社会は広く活用するようになった。なにせ常時現実時間の3倍で時間が進んでいる空間であり、つまり現実の3倍の作業が可能なのだ。企業の業務のみならず、学校教育の場でも積極的に活用された。頭脳労働にかかる現実時間が短くなった分、体育の時間が増えたのはインドア派の子供たちには不幸だったが。
さて、今私の前には発売されたばかりのプレステ3&『サラダボウル』がある。今年30歳になる私はこれまでもそれなりの数のVRゲームをプレイしてきた経験がある。しかし、年甲斐もなくこの『サラダボウル』にはワクワクしているのだ。第三世代型の最大の特徴――五感の完全再現のみならず第六感までも実装した感覚フィードバックシステム――普段は仕事で外出もままならないのだ、久しぶりの自然な風を感じられることが楽しみでならない。それに、このゲームタイトル……実にいやらしいではないか。10年前の東京防衛戦で生き残った私だ、多少の困難程度ならばかわす自信もある。そんな風に思っていると、サービス開始まであと1時間ほどになっていた。この日のために用意した高級VRダイブベッドに横たわり、プレステ3のヘルメットをかぶる。
「ログインスタート」
視界が一瞬黒く染まる。さぁ、懐かしい太陽を拝みに行こうか。
<VRMMORPGサラダボウルへようこそ。まずはプレイヤーネームを決定してください>
私は、シェイド、と入力した。本名から取った安直なものだが、これまでもこの名前で通してきたのだ。愛着もある。
<「シェイド」でよろしいでしょうか。では次にアバターを設定してください>
これはプレステ2のころから使っているアバターデータをインポートした。現実の自分より体の輪郭がやや引き締まり、顔も左右対称に整えたものだ。パーツは特に変えていないから違和感も出ないだろう。
<最後にキャラクタークリエイトを行ってください。ご希望の種族と初期所持スキルを5つお選びいただけます>
聞き違いか? ステータスにポイントを振り分けたりはできないらしい。駄々をこねて変わるわけで無し、大人しく選ぶことにしよう。
まず種族だ。これには、人間・獣人・エルフ・ドワーフ・魔族の5つが表示されていた。その下に小さく“ランダム”とあったので、それを選択。ちなみにこのゲームの獣人はケモナーレベル1や2ではない。獣が二足歩行しているのを想像してほしい、それなのだ。私は獣耳や尻尾程度ならともかく、ハイレベルのケモナーではないので諦めた。公式サイトによれば、この世界の人口の40%ほどが人間。獣人は25%ほどにすぎず、30%ほどが他3種族で占められているらしい。残りの5%は隠し種族的なレア種族なのだそうだ。ここまで言えば、賢明なる諸氏は私がランダムを選んだ理由がお分かりだろう。1/20なら賭けるにやぶさかではない確率だ。私にとっての外れは1/4、もっともたとえ外れを引いたとしてもまたキャラ作成をすればいいのだ。このゲームではアカウント一つにつき4キャラまで作成可能なのだ。とはいえ、初期作成キャラ以外の3キャラはやや成長率にマイナス補正がついたり、最初のキャラのネームが並記されたりすると公式に書かれていたが。
お次はスキルだ。まずは武器。スキルを所持していなくても武器を使うことはできるのだが、初期で選ばないと初期装備に武器が付属されないのだ。防具も同様だが、こちらは布の服的なものが添付されるらしいので取らなくてもいい。
というわけで、《銃》を選んだ。公式の武器紹介で
「序盤はともかく敵が強くなる中盤以降は火力不足に悩まされるかも」
と書かれた弱武器である。なぜそんなものを選ぶかというと、単に慣れである。それに、魔法銃とかがないはずもない。
銃を選ぶからには、それを生かすスキルを選ぶべきだ。なので《視力強化》を選択した。スナイパーライフルでも手に入れたら狙撃するんだ……、という理由だ。拳銃でも10メートルは有効射程があるのだし、目が良く見えるのは無駄になるまい。ついでに《気配遮断》も選んだ。亜音速弾を使えば、弓よりもさらに不意打ちしやすいだろう。
そしてお次は《鍛冶》だ。さらに《風属性魔法》。この二つを選んだ理由はいくつかある。一つには、私がソロプレイを目指すからだ。おっちゃんは若い子と仲良くなる自信がないのです。2000年代初頭と比べれば今の子供達は素晴らしく良い子らしいのだが、加齢による体力の衰えには勝てない。そのためある程度万能を目指す必要があるのだ。器用貧乏になりかねないが……そこはプレイ時間とプレイスキルでカバーできると信じたい。伊達に年食ってるわけじゃないのだ。そしてもう一つは単純だ。だって魔法使いたいじゃないか! 現実では30歳だってのに魔法使えないんだ、ゲームの中でくらい使いたい。あと、ブラックスミスとか格好良さそうじゃないか。そんな理由だ。些末な理由として、風魔法で弾道の安定化とかできれば便利かなというのもある。
そんなわけで、《銃》《視力強化》《気配遮断》《鍛冶》《風属性魔法》の5つに決めた。
<種族:ランダム、任意選択スキルは《銃》《視力強化》《気配遮断》《鍛冶》《風属性魔法》でよろしいでしょうか。では最後に、ログインするサーバーを決定してください>
私は素直に全年齢サーバーを選んだ。R18サーバーもあるのだが、こちらは色々な規制が緩いのだ。個人的な嗜好として、レイプとかは好きじゃない。NPCからだけならともかく、一般のプレイヤーでもそういう行為の強要が可能だろうことが推測できる。過去にプレイしたゲームではそうだった。
<全年齢サーバーですね? お疲れ様でした。サービス開始時刻まであと20現実分です。お待ちになる場合はそのままお待ちください>
さぁ、あと1VR時間だ。一旦ログアウトして所用を済ませてしまおう。高級VRベッドを使っているのでシモの世話などは気にしなくてもいいのだが、30歳独身男がそれでは先行きが不安すぎる。ゲームを楽しむために後顧の憂いを絶っておこう――。




