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キス/35cm

作者: uchronia

1/

 男の子にキスしてしまった。

 これって、どんな罪になるんだろう。


0/

「じゃあ、また明日ね」

 駅の改札に消えていく、友達の背中を見送って。

 それが完全に見えなくなると、私は小さく息を吐く。

 皆が嫌い、とかじゃない。それは、まあ。本を読んだり詩を書いたり、そういうことの方が好きだけど。

 『誰かと一緒』は気を使う。どんなに好きな人が相手でも、何人でもそういうものだ。本当にただその程度のこと。

 まあ、それはそれ。

 とにかく、疲れていた。早く帰ってお風呂に入って、美味しいごはんを食べたい。柔らかいベッドに飛び込んで、お気に入りの本を開きたい。

 ぶらぶらと歩いて行けば、丁度良いところにバスが来た。開くドア。ステップに足をかけて、

「危ないぞ」

 誰かの声に視線を上げる。

 顔があった。すぐ目の前だ。

 驚きに声を出す暇もなく――むしろ、驚いて声を出しそうになったから。

 滑った。転んだ。ぶつかった。

 湖みたいに静かで透明な、鳶色の目が綺麗だな、なんて思う。

 さらさらの髪が額に触れてくすぐったい。

 少しの間沈黙があって、何かを言おうとしたら唇に柔らかな感触があって、

 唇だった。たっぷり二秒は固まった。

 何かはっきりと、言葉にできるような考えがまとまるより前に、

「――ッ!」

 うめいた。跳ね起きた。思い切りステップから跳び退って、着地と共に膝を曲げて勢いを殺す。

 走った。

 もう、周りの物が何も見えなくなるくらい、無茶苦茶に走った。

 それでも、まあ。無事家に辿り着くことができたから、良い。


2/

「それから、しばらくの時間が経って」

 呟いて、手にした少女漫画を閉じる。

「いいなあ」

 と、漏らす声は深いアルトだ。どこか薄暗い雰囲気なのは、気分の問題じゃなくて地声だ。

 手脚を大の字に投げ出して、落ち着くために息を吐く。

 切実に思う。しみじみ感じる。

 ――漫画ってずるい。

 だって、

「一コマで、何ヶ月も経っちゃうんだもんなあ」

 悩んだり迷ったり、悶々としていたり。それがどれだけ深くても、簡単にすっ飛ばせるんだから羨ましい。

 ベッドから下りて立ち上がる。

 投げ出した少女漫画の表紙がちらりと見えた。

 繊細なカラーで描かれた、柔らかく笑う主人公。

 小柄で細くて色素が薄い。引っ込み思案で人見知りで、気弱だけど芯は強い。

 恐る恐る視線を上げると、否応なく目に入るのは部屋の隅にある姿見と、そこに映る自分の姿だ。

 伸びすぎた背。細いと言うよりもむしろメリハリに乏しい身体。別にポリシーがあるとかではなくて、単に切り時を見失ったまま長くなった真っ黒な髪。

「ホント、可愛くない……」

 友達は、「モデルさんみたいでカッコイイ」なんて言うけれど。

「いくらなんでも百九十六センチは大きすぎ……」

 猫背になってもクラス一高い――どころか、学校で一番背が高いなんて、女の子としては恥ずかしい。どこにいても目立つし、何をしても注目されるし、何もしていなくても驚かれる。

 嫌な所ばかり目について、自然とうつむく。

 ホントのほんとに、可愛くない。

 それに比べて、

「可愛かったなあ、あの子」

 時計を見る。

 あれからまだ一時間も経ってないなんて、とてもじゃないけど信じられない。

 胸にぺたりと――胸囲があるばっかりで、ぎりぎりBカップの胸に手を当てる。

 なんだかまだどきどきしているような気がした。

 温もりが――熱が。唇と両手に残っていた。

 鳶色のくりくりした大きな目とか、少しクセのある栗毛とか、生意気そうな唇とか、綺麗に締まった身体とか――

「これくらい、だったかな?」

 胸の前辺りに手を出してみる。大体百六十センチくらい。

 自分の場合は四年前、小学六年生の時に百七十センチと少しだった。男の子は女子よりも背が高い傾向にあるだろうし、となると、

「小学五、六年生なのかな」

 よく分からないけど、多分そう。

 ――いいなあ。

 そう思った辺りで気が付いた。

 してしまったのだ。キスを。小学生くらいの男の子に。

 あまつさえそれにときめいて、今もこうして思い出している。

 ――これじゃ完全に変態さんだよ!

 布団に飛び込んでじたばたする。ごろごろする。ずたんばたんする。

 何だかもう、本当にどうしようもなかった。


3/

 『放課後三時半 部室棟裏で待つ 箕浦・響』

 ぽきゅりと首を傾げてしまった。

 靴箱の中に茶封筒。更にその中身は素っ気ない字の書かれた便せん。

「ほほう、これは世に言う果たし状というものですね。ユヅっちさんも中々どうして勇ましい」

 脇の下辺りから声がして、思わず手紙を取り落とす。

 それを凄い早さでキャッチして、差し出してくる女の子。きらきら光る真っ青な髪に、サファイヤみたいに透き通った目。小柄で小顔で涼しげな、クラスメイトのハナちゃんだ。

「ハ、ハナちゃん、脅かさないで……」

「これは大変失礼致しました。お早う御座います。本日もご機嫌麗しゅう。しかしユヅっちさん、どうなさるのです?」

 お早うと挨拶を返し、改めて手紙に目を落とす。勿論、内容に変化はないし、なんとかかんとか言いづらい。

「……ぶ、武器とか持って行った方が良いかな?」

「いえあの、そうした紀元前のボケはともかくとして――マジ話、それは恋文なのでは」

 思わず目をぱちくりさせる。

 恋文というと、所謂ラブなレターではなかろうか。全く縁遠いものだとばかり思っていたのだけれど、

「えっえっ、でもでもあのその、そういうのってこんな味気ない封筒使わないんじゃ……」

 ふむ、とハナちゃんは考えて、

「ま、ひとまず教室に行きましょう。論より証拠、ポンよりカンをお見せしましょう。あ、知ってます? ポンカンって麻雀用語ではなくて柑橘類だそうですよ?」

 いつも通りよく分からないことを言うハナちゃんにくっついて、とにもかくにも教室に行く。


 席に着く。ハナちゃんが書道の下敷きを出して、その上に便せんを広げると、ゆーぽんとしほちーがやってきた。ハナちゃんが動くと大体着いてくる辺り、二人とも物見高いと言うべきか。

「なになに? なんか面白い出物でもあったん?」

「出物ってアンタ……何コレ、果たし状?」

 二人の疑問にハナちゃんは唇の端を歪めることで応え、カバンから手黒い塊を取り出した。

「一見無愛想な手紙ですが、取り出しましたるこの炭で擦りますと」

「……ハナちゃん、なんでそんなもの持ってるの?」

「こう見えて私、常に準備の良いオンナと評判です。コンドームからマイルーラまで、ご要望とあらばなんでも揃えて見せましょう」

「いやどうして避妊具限定なのよ……」

 そんなこんな騒ぎながら、作業が済むと、

「あれ、文字?」

「そりゃ手紙だから文字を書くもんでしょうよ。えっと、えっと? ……何?」

 しほちーが渋い顔をするのも当然だ。確かに、文字らしきものが浮かんではいる。けど、どうにも判別し辛いのだ。

「まあ、ごらんの通り文字ですが。差出人のミノウラ様とやらはややズボラな性分のようです。下敷きも下書きもせずに書き出して、失敗したら破って捨てる、ということでしょう。言わば下に関してユルい男、ということですね」

「あのハナちゃんその言い方はどうなの」

 思わずつっこむと、また何かニヒルな笑い方をしてごまかした。

「まあまあハナハナ、結局なんて書いてあるの?」

 ゆーぽんが急かすのをしほちーが咎めるけれど、きっと気になってるのは同じだ。勿論、私だって。

「慌てなさんな。痕跡の薄い方から判読しますと――『拝啓、デカい女の子様。俺は』『拝啓、大きな女の子様。突然の』『前略、』『ごめんなさい、今日』『折り入って話したいことが』――でしょう。何というか、筆を使い慣れていないことが良く伝わってくる微笑ましい文面ですね」

「んー、けどまー、それだけ書き直すくらい考えたってことじゃん? 愛だよ愛!」

「いやー……それでもいきなり『デカい女の子様』はないでしょ。失礼すぎるわ」

 二人の掛け合いについ身を縮めるけれど、勿論その程度じゃどうにもならないくらいに私の身体は大きい。

「あ、つーか箕浦って二年の先輩じゃない? ほら、剣道部のナンバー3」

「ああそっか、どこかで聞いたと思ったら。ユウカにしては良く気付いたわね」

 でへへとゆーぽんが頭を掻くけれど、どう考えても褒めてない。

「さて、再度問いますが――ユヅっちさん。どうなさるおつもりです?」

 ハナちゃんに言われて顔を上げて、けどすぐには言葉が出ない。

 気付けばゆーぽんもしほちーも話すのをやめてこちらを見ている。なんだか恥ずかしくて、一層肩を丸めてしまう。

 確かに私は、最初の質問に答えていない。

 どう、と聞かれても戸惑ってしまう。

 そっと三人の顔を見るけれど、誰も一言も発さない。

 いつもなんでもすぐ喋るゆーぽんまでも、だ。

 それはつまり、私の考えに変な影響を与えないように、ってことだ。

 息が詰まる。有り難いと同時に少し、プレッシャー。

 もし仮に。これを無視してしまったとしたら、箕浦さんという人はどうなるのだろう。

 ……放課後の部室棟裏で、悶々としながら一人来るはずのない私を待って――

 思い浮かぶのは寂しい風景だった。

 うぬぼれる訳じゃないけれど。私ならきっと、耐えられない。昨日散々悩んだ身としては、放っておけるわけがない。

 もう一度皆の顔を見て、私は小さく頷いた。

 ゆーぽんが明るく、しほちーが優しげに、そしてハナちゃんが微かに笑ってくれて、きっと三人とも分かってくれたんだろう。

「煽っておいてなんですけれど、万一果たし合いだった時の為に武器を持参なさいますか? 初心者にもお勧めなのはこのバグ・ナウで……」

 流石に思い切り首を振った。


4/

 どうして想像しなかったのか?

 そんな風に聞かれたら、多分、私はこう答える。

 ――だって結びつかなかったんだもん。

 男の子だ。

 鳶色の目とクセのある栗毛、丁度、身長一六十センチくらいの――

 ……昨日の子、だよね。

 同じ高校の制服を着ている辺り、小学生じゃなかったらしい。よくよく思い出して見れば、クラスの男子でも百七十センチあったりなかったりだったような気もする。

 六メートルほどの距離を隔てて、この空間はすごく静かだ。

 校庭から運動部の人達の声がする。芸術棟から管弦楽部のチューニングが響く。

 それが途切れた時を頃合いにと、

「あのよ」「ごめんなさいっ」

 口を開いて、盛大にお見合いした。どうぞどうぞと譲り合う。

 暫くそれを続けると、箕浦さんは居心地悪そうに少しきょろきょろとして、

「――いや、その、昨日のことなんだけどよ。事故とはいえ、アンタには悪いことをしちまったから、なんつーか」

 また少しもじもじして、それからやっと意を決したらしい。

「だからこれ、詫びっていうのも悪いと思うんだが」

 乱暴な口調で、後ろに回していた手を出した。

 花束だった。

 ゼニアオイとノコギリソウとミミナグサ。時期も色も形までちぐはぐだ。

 ――ああ、そっか。

 箕浦さんは、不安げな顔でこっちを見ている。

 そのお陰と言ってはなんだけど、私も少し緊張が解けた。

 近寄って、そっと受け取る。なんて言えば良いのか分からないから、私はただ、

「ありがとう」

 と、言った。

 それが余程意外だったのか、箕浦さんはまたもにょもにょと口ごもりながら視線を逸らす。

「……まあ、アンタがいいなら、うん、いいんだけどよ」

 うつむいて何秒か。けれど勢いよく顔を上げて、

「いや! やっぱり駄目だ! モノ買って詫び入れじゃ気がすまん! なあアンタ、俺のこと殴ってくれ、一発でいい、思いっきり強くだ!」

 言って、箕浦さんはずいと近寄る。

 ……ハナちゃんならドマゾなのですな貴方は、とか言いそうだなあ。

 そんなことを考えるくらい、どうしてか心に余裕があった。もしかしたらその逆かも知れないのだけど。予想外の連続過ぎて、かえって麻痺しているのかも知れない。

「殴られたら――痛いですよ?」

 決意の顔で目を閉じて、箕浦さんは静かに肯く。

 可愛いけれど、男の人の顔だった。覆すことなんてできないという、退かない顔だ。

 勿論、殴りたくなんてない。大体、そんなことで許すの許さないの言うのは私の方こそ嫌な気分だ。

 ――なら、いいかな?

 唾を飲む。胸がどきどきする。

「あの、そういうの良くないと思うんです。殴るのも……多分、凄く手が痛いし。私、花を散らしたくありません」

「っ、けどよ!」

 困ったような顔がすごく可愛い。胸のどきどきが高まった。私は気付かれないように深呼吸をして、控えめな声でじゃあ、と言う。

「抱っこしてなでなでして、いいですか?」

 は、と箕浦さんが顔を上げた。これだけ近いと見上げられる形になって、なお可愛い。

「んぅん――そんな、俺は、つーか女の子がだな、あー」

 渋って、頭を掻いたり脚を揺すったり、辺りをきょろきょろ見回してみたり。

「させてくれなきゃ許しません」

 動きが止まった。

「……いや待て! アンタ確か最初にごめんなさいって」

「先輩、お母さんに相談しましたよね?」

 また止まった。図星らしい。

「ゼニアオイは『母の愛』、ノコギリソウは『忠実』、ミミナグサは『あなたの好きにして』が花言葉ですよ」

 箕浦さんが頭を抱えた。小さな声で「やっちまった」とか言っている。

 私は黙っていることにした。正直、変なお願いをしている自覚はあるし、あんまり言うのも気が引けるからだ。

 ――なでなでしたいのはホントだけどね。

 それからたっぷり悩んだ後、箕浦さんは悲壮な顔で、

「分かった。ひと思いにやってくれ」

 目を閉じたのを幸いに、私は箕浦さんの手を取って、引く。

「足下、気を付けて下さいね」

 部室棟の階段に腰掛けて、膝の上に箕浦さんを乗せる。花束は近くにそっと横たえた。

 少し骨張っていて、思ったより重い。しっかりと筋肉が付いた脚は緊張の所為かすごく硬い。

 ――小学生相手だったら犯罪だもんね。

 先輩相手ならいいのかと頭の隅に思ったりもしたが、目の前の可愛さに対しては無力な話だ。

 頭の上にそっと手を置く。箕浦さんが身を震わせる。それを止めるようにぎゅっと引き寄せて、クセっ毛に指を絡ませる。ほわほわもしゃもしゃした感触が気持ちいい。

 ――綺麗な髪だな。

 あんまり手入れをしているとは思えないのだけど、コンディショナーがいいんだろうか? 是非聞いてみたいところではある。

 頭頂部から後頭部、首から顎の下と、手を動かす度に息を漏らしたり身体を硬くしたり、なんだか悪いことをしている気分だ。

 ひとしきり顎を撫でてから、また首の後ろに手を回し、つい、何となく、やむを得ず、

 ぎゅっと抱きしめてしまった。

 今度は流石に予想外だったのか、胸の中でもぞもぞ暴れる感触があってこそばゆい。

 それで少し力が抜けた。箕浦さんが顔を上げて、

「っぷは、ちょっとタンマ、恥ずかしいって」

 真っ赤な顔。少し垂れた眉。戸惑う目。縮こまった身体。

 つい。

 指先で顎を持ち上げる。脇に通した逆の手で、頭の後ろを軽く支える。引き寄せて、抱きしめて、目を閉じて。

「――ッ」

 唇と唇が触れ合った。

 息が止まる。

 空気が止まる。

 全くの無音の中で、心臓の音が聞こえる気がした。

 管弦楽部がトランペットを鳴らした。

「ッあ、アンタ、」

 我に返った。

「あ、その、ごめんなさいついです悪気があったんじゃなくって先輩が――」

 可愛かったからです。

 犯罪の臭いしかしない言葉だ。そもそも、男の人に可愛いと言ってはいけないような気がする。

「――先輩がいいなら、これでおあいこ、っていうことで……」

 また沈黙。箕浦さんはもじもじとしばらく考えて、やっと膝の上にいるままだと気付いたらしく立ち上がる。そうすると丁度目線が合う。

「卑怯だ。これじゃ、俺が貰いすぎで――その、今度ちゃんと返すからな! 覚えてろよ!」

 精一杯に気張った顔で、びしりと背筋を伸ばして言う。

 そして私が何か言うより前に、走って行ってしまった。

 ぽつんと一人、残される。

 また、静か。

 ――何やってんの私――!

 可愛さを前に冷静さを無くしていた気がする。いつ冷静だったのかと言われれば、どれだけ遡れば良いのか分からないが。

「ハナちゃん、ケーサツって一一〇番でいいんだっけ?」

「ええゆーぽんさん。しかしこうした案件に警察は及び腰であると聞きます。ここは一つ、児童相談所に連絡を」

「いやいやハナ、どっちかっていうと教育委員会じゃない? 色々揉み消してくれそうだし」

 すっごく嫌な予感がした。

 予感というか、なんというか、まあ、そういうのだ。

「……え、っと、一応聞いておくけど、皆、いつからそこに」

「箕浦さんが来る少し前からですね」

 最初より前からだった。

「あ、あのね、これはその、違うの。だってほら、あの、ね? ね?」

「どう思う」

「クロですね」

「限りなくクロ」

 意見が一致したらしい。視線の湿度が嫌に高い。

 おろおろする。何を言えば良いのか分からないし、というかそもそも非はこっちにある。

「ちなみにユヅっちさん。ミミナグサの花言葉は『純真』ですよ?」

 湿度が上がった。

 最早何も言い訳出来ない。最初からできなかった気もするけれど。

 顔を下げると、笑い声が聞こえた。

「じょーだんだよ、冗談。まあ、ユヅキに先を越されるとは思わなかったがね。いいんじゃない?」

「そうね。箕浦先輩、まんざらでもなさそうだったし」

「まあ、あそこまでされておいて手を出さないなど雄としては随分ヘタレですがね。本当にちんこ付いてるんでしょうか」

 皆朗らかに好き勝手なことを言う。

 顔が熱い。思わず小さくなるけれど、そのくらいじゃ私の身体は大きなままだ。

「さっ、行こいこ。今日はお祝いだ。モスとサーティワンどっちにしよう? ――とーぜん、ユヅキのオゴリでね」

 ゆーぽんが凄く良い笑顔で言った。

「私はモスかなー。オニオンリング山盛りで」

 しほちーは全く迷わない。

「私はアイスの方が。チョコミントのダブルが愛しいですね」

 よく分からないけれど、ハナちゃんは何か面白いことを言ったかのようにほくそ笑む。

「っしゃあ、そんじゃ両方、両方だ! 半分は私が持っちゃるさー!」

 ゆーぽんがハナちゃんの手を引いて、片手を突き上げて歩き出す。

 しほちーはやれやれなんて言いながら苦笑して振り向いた。

 優しい顔だ。

「どう? ユヅっち。楽しかった?」

「――うん!」

 なら良かったとしほちーは手を差し出して、じゃあ行こう、と誘いかける。

 私は立ち上がり歩き出し、強く彼女の手を取った。

 随分不純だと思うけど。

 流されたような気がするけれど。

 それでもあんなことができたのだ。

 まあいいや。色々、ゆっくり、やっていこう。

「ね、しほちー。私、おっきくて良かったかも」

 意外そうな目が向いた。視線だけでどうしてという問いが来る。

「――だって、あんなこと、おっきくないとできないもんね」

「――まったく、こーのエロ娘」

 胸をちょんと小突かれる。思わずえへへとか笑ってしまう。

 触れた手が温かかった。足取りがふわふわとして軽かった。

 そこまで行って、やっと気付いた。

 そっか、私――。


 つまるところ、そんなのが。恋をした日のお話だ。

大きい女の子だって良いじゃない。

小さい男の子って可愛いよね。

とかなんとか。

それなりに書き足りないネタはあるけれど、ひとまずこんなところで。


2013年6月29日8時32分編集 誤記の訂正 表現の軽微な変更 文言の軽微な追加

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