緋蒼ライフ
バレンタインだね☆
アタシはバレンタインにドッサリチョコをもらい、ホワイトデーに返すという、男子のような生活を送っているよ♪
軽い気持ちで読んでくれると助かるな★
アタシは百瀬日和。
中学校時代はいじめられててあまりいい思い出はなかったんだけど、高校時代は恋愛もできて、すごく充実してる毎日を送ることができたんだ。
今日はそんなアタシの、高校時代の思い出をお話しするね。
あれは7年前のこと。
アタシは進学校に入学したの。
成績はそこまで良くなかったんだけどね。
彼のことが好きになったのは、初めての席替えの数日後。
彼の名前は、神城司。
頭が良いのに気取らないし、顔立ちも整ってるし、スポーツも万能で……ってよくあるパターンの人物なんだけどね、とにかくカッコイイ。
6月の上旬あたりに席替えをして隣になって、初めて彼を知った。
別にその時はなんとも思わなかったんだけど……
ある日、アタシは忘れ物をしたの。
古典のノート
せっかく予習やってきたのに忘れるなんて……!!
むしゃくしゃしながら鞄をあさっていると、それに気づいた司が声をかけてきた。
「どうした?」
「古典のノート、忘れてきたみたい……。せっかく予習したのに……」
すると、司はアタシの前に自分の古典のノートを差し出して言った。
「俺のでよかったら写していいよ。訳し方めちゃくちゃだけど」
「えっ……いいの!!?ありがとう!!」
ノートを受け取って開く。
少し右上がりの癖字
でもそれが心にすぅっ、と溶け込んで何だか落ち着く。
訳も、本人はめちゃくちゃって言ってたけど、アタシのよりずっと完璧。
思わず司の横顔をみつめていると、
「なんか間違ってた?」
と言われた。
「ううん、……完璧だなって思って」
その日から、司がカッコよく見えて仕方がなくなった。
中学校時代からは考えられないくらい、学校に行くのも楽しくて
これが恋なんだ、って実感した。
思い切って、メールアドレスまで交換しちゃった。
授業中、わからないところはこっそり聞いて、放課後も部活がないときは勉強教えてもらって
そんなある日。
「あ!!!明日の時間割変更確認するの忘れた!!!……どうしよう」
誰かにメールで聞こうと思って電話帳を開いた。
か行で手が止まる。
神城司
……時間割聞くだけだもん。
なのに、なんでこんなに緊張してるんだろ……
やっぱり親友の村崎那奈に聞こうかな……
でも……
彼の名前でボタンを押した。
本文を打ち込んで………送信した。
男の子とのメールは初めてで、変に鼓動が速い。
特に絵文字には気をつけた。
そうこう考えているうちに返信が来た。
『明日は、
1、現社
2、数学
3、数学
4、地学
5、英語
6、古文
7、芸術だよ
それと、この前話した雑誌、明日借りてもいいか?』
明日数学2時間か……
……じゃなくて!!!
雑誌……というのは、ハリウッド映画のやつで、ハリウッド映画が好きなのはアタシと司の共通点なんだ。
その雑誌を貸してほしいなんて……いいに決まってる。
その後も会話が続いて、気づくと受信ボックスが司の名前で溢れていた。
司のケータイも、アタシの名前でいっぱいなのかな……
正直、アタシは司に女子の中で一番優しくしてもらいたかった。
嫉妬、のつもりじゃないけど、司が他の女子と話してると胸がちくっとする。
司に好きな人なんて、いたりするのかな……?
夏休みが終わり、とうとう席替えの日が来てしまった。
恋をすると成績が下がるって言うけど、アタシの場合、明らかに成績は上がってた。
決まった席は……司とちょっと離れてしまった。
しかもあろうことか、司の隣は、司のことが好きだという水鳥優子。
ブリッコで、正直アタシは嫌いだ。
でも、司が優子を嫌いだとは言いきれない。
しかも、司と優子が付き合っているという噂まで流れはじめた。
嘘だと思ってたけど、
司と優子が一緒に歩いて帰っているところ、見ちゃった……
しかも、あの笑顔を見せてる……
本人に確認する勇気はなくて、少し避けてたけど、司はいつも通り接してくれる……
授業中でも、司のことを考えちゃって涙が溢れてくる。
慌てて拭おうとしたその瞬間――
「日和」
いつの間にか休憩時間になっていたらしい。
名前を呼ばれて、そのまま顔をあげてしまった。
「!!!!」
しかも、声の主は司であった。
「あ、え……わ、悪い………」
女の子の涙におどおどする司に、アタシはなるべくの笑顔を見せた。
「な、なんでもないの!!!あ、あくびしただけ!!!!!」
「なら良かった。んと、前借りてた雑誌。……遅くなっちまって悪かったな」
わざわざアタシの席まで来てくれたことが嬉しかった。
いつまでもそばにいてほしくて、会話を延ばした。
その笑顔、アタシしか知らないって信じていたかったのに……
でもそれはもう無理だって、わかってるから切なくなる。
「席は離れちゃったけど、これからも勉強教えてもらってもいい……?」
「当たり前だろ?いつでも俺んとこ来いよ!!」
なんでだろ、
司の一言一言が、アタシの心を軽くして
そして奪っていくんだ……
アタシは司が好き
たとえ、司が他の人を愛していたとしても……
月日は流れて、冬休みが明けた。
その日は冬休みの課題テストだった。
もちろん、冬休み中に司と勉強会をして、みっちり叩き込んでもらった。
だから今日のテストは完璧。
残り時間が余りすぎて、ぼーっとしていると、普段、ペンケースを置いているスペースに何か書いてあるのを見つけた。
(こんなの、今まで書いてあったっけ?)
机に突っ伏して、刻まれた文字を見る。
君がため
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな
藤原孝義の和歌で百人一首のひとつ。
確か意味は諸説あるけど、あなたに会うまでは惜しくなかった命でさえも、あなたと出会った今は、長くあってほしいと思うようになった……だったかな。
その文字はまだ新しい。
そういえばこの和歌――
アタシが古典のノートを忘れてきて、初めて司に予習を写させてもらった和歌……
しかも、よく見ると
少し右上がりの癖字
えっ、と思って斜め後ろの方の席の司を見ると、流石に司もはやく解き終わっていて、目が合った。
頬杖をついたままニコッと微笑まれて、慌てて目を逸らしちゃった。
まさか……司が書いた……?
何のために……?
その真相を探るべく、テスト終了後、アタシは司の元に駆け寄った。
「司……!!」
司は振り向いて、アタシだと確かめると
「君がため
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな」
司の笑顔が眩しかった。
「それ……やっぱり司が……?」
司は淡く微笑みながら頷いた。
「な、なんで……か、書いたの……?」
「なんでって……
お前が好きだから」
「え……///」
アタシは驚きで頭が真っ白になって、俯いた。
「日和は、俺のことどう思ってる……?」
「あ、アタシもっ……好き……///」
知らないうちに涙が浮かんでいた。
絶対アタシ、変な顔になってる。
「一緒に帰ろ」
頭を撫でられて、堪えてた涙が一気に流れ落ちた。
「いつ、あれ書いたの?」
帰り道、アタシは疑問を司に尋ねた。
「11月後半くらいだったかな」
「じゃあ、なんでいつもアタシがペンケース置いてるとこに書いたの?」
他のとこなら、もっとはやく気づいてたかもしれないのに。
すると、司は前を向いたまま応えた。
「今日、日和が気づくように」
「えっ……なんで今日?」
「だって今日は、
日和の誕生日だろ……」
あっ……
そうか……アタシの誕生日……
「ありがとう……最高の誕生日になったよ」
アタシたちは顔を見合わせて微笑んだ。
「生まれてきてくれてありがとう……」
司のその言葉が優しく、どこか切なげに響き、アタシの胸を締め付けた。
アタシはそっと自分の左手首の内側に触れた。
ある日の帰り、アタシたちは近くの公園に寄った。
ベンチに腰掛けると、司は真剣な眼差しになった。
「俺、中学ん時、男子からはいじめられるわ、女子からは言い寄られるわで、散々な毎日を送ってたんだ」
その言葉に、アタシは言う言葉がなかった。
いじめられてたというのがアタシと同じだったから……
「……死のうとも思った」
その言葉を聞いた瞬間、アタシは無意識に言葉を紡いでいた。
「アタシも、司と同じだよ」
アタシは左の手首の内側を司に見せた。
うっすらと、何本もの傷が生々しく刻まれているその手首を……
無言で司も手首の内側を見せてきた。
やっぱり、アタシと同じだった。
「アタシもね、中学校の時、いじめられてたの。リスカは毎日で、飛び降り、首吊り……色々考えたけどね………でも、……でも生きててよかった…………だってあの時死んでたら、……司と出会えなかったもん………」
後から後から涙が溢れてきた。
司は、そんなアタシを静かに
でもしっかり抱きしめてくれた。
嫌な過去がひとつ、またひとつと消えていくようだった。
頭上から鼻を啜る音が聞こえた。
「司、泣いてる……?」
アタシも泣いてるから他人のこと言えないんだけど……顔を少し上げてみると、司は横を向いてたけど、頬が一筋光っていた。
「泣いてねーよ……」
少し鼻が詰まったその声を聞いて、アタシは司の背中に手を回してギュッと抱きしめた。
「アタシの前でだけ泣いていーよ。……司が辛いって思うことは、アタシも一緒に感じたいの…………どうすれば気持ちが軽くなるのか考えたいの……」
「日和……」
司の雫がアタシの頬を伝った。
男の人が泣いてるところなんて、初めて見た。
これからは、辛いことも楽しいことも、苦しいことも嬉しいことも、ふたりで共有したい。
「俺も、生きててよかった。……あんなにいらなかった命も、今は手放したくないんだ……」
「……アタシも……」
「……クサイけど
俺はお前を幸せにするために生まれてきたのかもしれない……」
司の笑顔がやけに眩しかった。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
別れ際、司は名残惜しそうにアタシを見つめた。
『また明日会える……』
それが100%だとは限らないから……
「また明日ね」
オレンジの夕暮れが、いつの間にか薄暗く淀んでいた。
司と別れてひとり、帰路を歩いていると、誰かに肩を叩かれた。
振り返ろうとしたその時――
「!!!!」
腕を回され、ハンカチを口に当てられた。
「大人しくしてろ。じゃねぇと殺す」
もしかしたらこの男、最近噂になってる通り魔かも……!!!
女子高生を無差別に殺傷してるっていう……
きっとクロロホルムか何かで眠らせて、アタシを傷つけようとしてるんだ!!
アタシは呼吸をしないようにしながら男の手を振り払おうとした。
通行人は誰もいない。
このまま連れ去られたら……
もう二度と司に会えないかもしれない……
(そんなの嫌だ!!!!!!)
肘で男の腹を突いて怯ませようとしたその瞬間――
「う゛あぁ……!!」
低い呻き声が聞こえ、そのまま男は路上に倒れ伏した。
状況が読み込めなくて気絶した男を呆然と見ていると
「大丈夫か、日和!!!?」
聞き覚えのある声がした。
「司!!!!!」
司は男の所持品を全て取り上げて遠くに投げると、アタシをきつく抱きしめてくれた。
「なんでここに?」
「何か嫌な予感がしたから日和の後をつけてきたんだ……家まで無事かどうか確認しないと気が済まなくて……」
「司……///……ね、何で男は倒れたの?」
「伊達に空手の有段者じゃねーんだよ」
「空手……司、カッコイイ!!!」
「ま、まぁな……///」
その後、男を警察に自首させた司は、表彰された。
何てったって、指名手配犯を捕まえたんだからね。
司は言った。
「俺、ホントに生きててよかった。死んでたら、日和を守れなかったし、社会にも貢献できなかった……」
アタシが司を真っ直ぐ見つめると、そっと腕を回されて引き寄せられた。
「お前の体温をこうやって感じられるのも、命があるおかげなんだな……………好きだよ……日和……」
「アタシも……司と出会えたのも、命があったおかげなんだから、感謝しないとね……」
命を顧みず、アタシを助けてくれた司を、アタシは心から惚れ直した。
司の唇がアタシの唇に触れたとき、アタシはホントに生きてることを実感した。
高鳴る心臓
頭に上る血
そして体温――
全てが『生』を物語っていた。
アタシは司と『生きていく』そう思った。
アタシの思い出話はこれで終わり。
司とは、進路の関係で別々の大学に行ったんだけどね、
『日和のそばで、日和と生きていきたい。そして、日和を幸せにして、自分が生まれてきた意味を確かめたい……結婚しよう』
アタシは司を人生のパートナーに選んだ。
司にそっくりの女の子も生まれた。
この子には、アタシたちみたいな辛い思いはしてほしくないの……
人生は楽しいものだって、感じてもらいたい。
確かに、楽しいことばかりじゃないけど、でも、辛いことばかりでもない一度の人生。
それを無駄にしてほしくないんだ。
今は辛くても、数年後、笑顔で生きているアナタがいることを祈ってるよ!!!
≪END≫
実は、ホントに机の上にあの和歌が書いてあったんです!!
ロマンチックだなあと思っていたら、このお話を思いついてしまいました笑
予想外に重くなってしまいましたが;
付け足しですが、優子と司が一緒に帰っていた真相は、優子に言い寄られた司が、『日和の情報をくれたら一緒に帰ってやる』と交換条件を出したということです。
ちなみに、司は日和に一目惚れだったそうですよ☆
司はめったんこいけめそですが、それぞれ皆さんが思ういけめそを想像して構いません。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。