第22話:〜初春〜”ひとりじゃない”
”トーヤとずっと一緒にいたい”
その願いさえも、儚く散った。
レンの悲しい恋、別れはもうずぐそこに・・・
初めて雪が降ってからしばらく経った。
季節は春目前。
桜の開花にはまだ程遠いが、寒かった冬の名残も
少しずつ消えていっている。
「レン、君は前に、自分はひとりきりだって言っていたね。」
トーヤは言った。
「えぇ、言ったわ。」
「今でも、そう思ってる?」彼は聞いた。
「どうして?」
「君は、ひとりぼっちなんかじゃないよ。」トーヤは言った。
私は、トーヤのその言葉の意味がわからなかった。
「突然、何を言うの?」私は言った。
「僕がこの地球と言う星に来たのは、今からもうずっと前だ。
それなのに、今も僕はこうして時々地球に来ている。それができた
のは、レン、君がいてくれたからだ。」
彼が話すのを、私は黙って聞いていた。
「もしも君がいなかったら、僕はサクラの美しさや、ユキの冷たさ、
多くの地球の不思議を知らないままだった。」
「私はそんなたいしたことはしていないわ。」私は言った。
「いいや、地球にいる間、僕にとってはレンは大事な存在で、とても
必要な存在だったんだ。」
彼は続けた。
「だから、君はいつも嫌われてばかりだと言っていたけど、そんなことは
ない。君のことが必要で仕方ないと思ってくれる存在は必ずいる。」
「そうかしら・・・」
「必ずいるさ。僕のような存在が、これからもきっと現れる。」トーヤは
言った。
「だといいわ。」
トーヤは、強い真っ直ぐな目で私を見て言った。
「君はもう、ひとりなんかじゃないよ・・・」
「ありがとう。」私はお礼を言った。
最高の愛の言葉に聞こえた――
そんなふうに言われたのは、初めてだった。
私を、必要としてくれる存在――、そんなものとは無縁だと思っていた。
ずっとひとりきりのままだと思っていた。
何かが自分の中で、大きく音を立てて弾けるような気がした。
――わたしはもう、ひとりじゃない――
初めてそんな風に思えた。
トーヤがそう言ったから、それもあるかもしれないけど、きっと
それだけじゃない。
トーヤと過ごしてきて、一緒に居て、私は自分は捨てたものじゃないかも
しれないと薄々感じていた。
トーヤと一緒に居ることで、私はひとりじゃないと思えていた。
もう、どれほど彼に感謝していいのかわからない。
私に必要なことばかり彼は教えてくれた。
それは、どんなに愛の言葉を囁かれるよりも、遥かに嬉しいことかもしれない。
寒かった冬は、あっという間に春の息吹へと変わった。
桜の花はまだ咲かない。けれど、じきに花びらが舞うようになるだろう。
もうすぐ、トーヤと会えなくなる・・・・
ずっとずっと傍にいたかった。
だけど、私達は一緒にはいられない。同じ道を、私達は歩くことができない。
私は野良猫、月のように美しく光ることはできない。
彼は王子様、闇に紛れた生き方は似合わない。
ふたいの間に、赤い糸なんてものはきっと無いだろう。
そんなものが無くても、私は彼を、愛している――