第21話:〜冬〜 初雪
街は一面銀世界――
「ユキだ・・・」とトーヤは言った。
「あなたが待ち望んでいた雪よ。この間、ようやく降ったの。」
「もう一度見れて嬉しいよ。」
きっとこれが、トーヤが見れる最後の雪だろう。この辺は、
比較的に気温が高めなために、雪はたくさん降らず、降ってもすぐに
溶けてしまう。
この雪も、夜が明ければ跡形も無くなってしまうだろう。
トーヤは、雪を何度も手で掴んだり、観察するかのようにじっと見たり
していた。それはまるで、雪の感覚を忘れてしまわないためのように思えた。
そうだ――、と彼は言った。
「寒いだろう、どうぞ。」と言って、トーヤは私に上着をかけてくれた。
彼の態度は、以前とそれほど変わってはいない。
ねぇ――、と私は言った。
「強がってる?」私は聞いた。
「どうして?」とトーヤは答えた。
「本当は、悲しくて笑ってもいられないんじゃない?」
「レンはするどいな。」
「悲しい?」
うん――、と彼は言った。
「悲しいけど、そうも言ってられないし、それに、僕がそんなんじゃあ、
君に失礼だと思ったからね。君はどうだい?」トーヤは聞いた。
「あなたと同じよ。」
そうか――、とトーヤは言った。
「あのね、トーヤ。」
「何?」
「私、あなたと話していると、とても楽しいの。こんなに私の声を聞いて
くれる存在は、同じ猫にだっていなかったわ。だから、あなたにとても
感謝しているの。」私は言った。
「うん。」
「私、あなたに出逢えてよかったわ。」
「僕もさ。」
――出逢えてよかった――
トーヤに出会って、私はいろんなことを知った。
”寂しい”という気持ち。
”好き”という気持ち。
誰かに会いたくなる衝動。
好きな人に恋人がいて、それがとても切なかったこと。
決して届かない想いであることを、受け入れること。
叶わない恋でも、不幸せではないこと。
そして――
愛することの喜び。
きっとすべて、トーヤじゃなかったら、私は知らないままだった。
トーヤを愛さなかったら、知らないままだっただろう。