第20話:〜冬〜 約束と願い
大好きなトーヤとずっと一緒にいたい。そんなレンにトーヤから、悲しい宣告が告げられる。
あの次の日の夜も、月は出た。
いつもなら、何も気にせずあの空き地へと駆けて
いくのに、今夜は手足が重い。
――今夜は来るだろうか――
――また、現れなかったら・・・――
突然トーヤに会えなくなるのは恐怖でもあった。
もしも、もう二度と会えなかったらどうしよう。
言いたいことは他にもたくさんあるのに。
まだ”好き”とも伝えていないのに・・・
そう思うと、とにかく恐かった。
今夜も来ないかもしれない――、という不安。
今夜こそは来るだろう――、という希望。
それらは、均等に私の思考を支配した。
私は空き地へと足を運んだ。
不安と希望に挟まれながらも、私は”来るだろう”
という希望を信じたかった。
トーヤを信じたかった。
もうすぐ時刻は午前12時を刻む。
――お願い、もう一度トーヤに会わせて――
今はとにかく、彼に会えればそれで良かった。
午前12時――
目の前に光が現れた。
トーヤが来た。
「トーヤ!!」私は夢中で叫んだ。
「レン!」トーヤは言った。
やっと、会えた――
「この間はごめんよ、レン。あっちで用事があって、
どうしても地球へ来ることができなかったんだ。必ず来る
と言ったのに・・・本当にごめん。」
「そんなに謝らないで。あなたはこうして、またちゃんと
来てくれたじゃない。それだけで私は十分よ。」
ありがとう――、とトーヤは言った。
彼は岩に腰を下ろすと、ふぅっと軽く息を吐いた。
トーヤはどこか思い悩んでいるような顔だった。
そして、しばしの沈黙。
「どうかした?」私は聞いた。
うん――、と彼は言うと、ゆっくりと重たい口を開いた。
「君に、話さなければならないことがあるんだ。」トーヤが
私の方を向いて言った。
彼の目は、いつにも増して真っ直ぐだった。
「何?」
「近いうち、僕は王位継承のための見習いにつかなければ
いけないんだ。」
「王様になるの?」私は聞いた。
「いや、それはもっと先の話さ。ほら、前にも話しただろう、
いずれは王位を継ぐための勉強期間みたなものが与えられるって。
その時が来たのさ。」
「すごいじゃない。あなたなら、きっと立派な王様になれるわ。」
ありがとう――と、トーヤは言った。
「でも、ここからが大事なことなんだ。よく聞いて。」トーヤは言った。
「えぇ・・・」
「見習い期間に入れば、今までのような自由は利かなくなるんだ。」
彼は続けた。
「レン、ごめんよ。僕はもうすぐこの地球へ来られなくなる。」
「――――・・・」
それは突然にだった。
「いつになったら来られなくなるの?」私は恐る恐る聞いた。
「おそらくは、この地球が春になる頃だろう。覚えているかい、
レン?以前、次の春もサクラを一緒に見ようと言ったことを。」
「えぇ、覚えているわ。」
「その約束を果たしたら、僕は月へ帰るよ。」
「そうしたら、もう、ここへは来ないの?」
「あぁ。」
「月が出ても?」
「残念だけど――・・」
「そんなの嫌だわ!!」
「僕だって同じさ!レンに会えなくなるのは嫌だ。だけど、ごめん。
僕には他にも守りたいものがある。」
トーヤが守りたいもの――、その中には、私は入っていないのだろうか。
「サクラが咲くまでの間に、あと何度月が出るかはわからない。
だけど今度こそ、月の出る夜は必ず僕は君に会いに来るよ。約束する。」
とトーヤは言った。
辛いのはトーヤも同じなのだ。それが痛いほど伝わった。
「トーヤ・・・」
「一緒に、サクラを見よう、レン。」とトーヤは言った。
「えぇ、楽しみにしているわ。」
もうすぐ1時間が経つ。
「時間だ。もう行かなくちゃ。」
それじゃあ、また――とトーヤは言った。
私は一言も返さず、ただ静かに、光に包まれて消えていくトーヤを
見送った。
彼が好きで好きで、とにかく好きで、恋人がいようと、自分に勝ち目
など無かろうと、その気持ちは変わらなかった。
傍にいられることだけが、私にとっては唯一の救いだった。
ずっとずっと彼の傍にいたい。
他には何も要らない。
この先、自分が生きていく中に、どれ程不幸が与えられても構わない
から――
――どうか、愛する人の傍にいさせてください――
――トーヤの傍にいさせてください――
――神様・・・――
生まれて初めて神に祈った。
祈る相手など、もう誰でもいい。この願いを叶えてくれるのなら・・・