第2話:〜秋〜 出逢い
トーヤは一体何者でどこから来たのか。そして黒猫レンの悲しい過去。トーヤとレンの初めての出逢いを収録
私は、生まれた時から野良猫だった。
兄弟はいたかもしれないが、よくわからない。気がついたらひとりきりで街を
彷徨っていた。
人に飼われたことは無く、時々民家の塀やら駐車場などで寝そべっていると、
食べ物をくれる人間がいる。それはありがたいが、その行為がただの同情だという
ことくらい知っている。人間とはそういうものだ。
街を放浪していると、大抵私のような黒猫は軽蔑される。「汚い」「不吉」などと
何度言われたことだろうか。好きでこんな風に生まれたわけではないのに・・・
それでも私は野良猫でいた。
この生き方以外、ひとりきりでいること以外の生き方など私は知らなかった。
トーヤと出逢ったのは、ある秋の夜だった。その日も月が出ていた。
私は、いつものように夜の闇に紛れ、彷徨い歩き、ふと人気はおろか、灯りさえも
全く無い、手入れまでも疎かになったであろう静かな空き地に辿り着いた。
私は草むらの中に足を踏み入れた。
丁度、晩の寝床を探していたので、少々みすぼらしいかもしれないが、夜を過ごすには
悪くない場所だった。今夜はここで明かそうとそう思っていた。
突然、目の前が明るく光った。
日の出には明らかに早すぎる。なら何が起こったのだろうか。
私は瞬きもできずに、ただ呆然としていた。
光の中で何かが動いた。
それは、少しずつ姿を露にしていった。
気がついたら、目の前にひとりの青年が立っていた。
その青年は銀色の髪に、肌は透きとおるほどに白く、白いシャツに真っ黒なスーツを纏い、
そして綺麗な青色のネクタイをしていた。
彼が、今光の中から現れたのだろうか?それにしても、人間にそんなことができただろうか。
「やぁ、君は地球の者かい?」青年が口を開いた。
「あ・・・あなたは、誰?」恐る恐る私は聞いた。
「あぁ、驚かせてしまったね、ごめんよ。僕は月から来たんだ。」
月?月ってあの?と私は聞いた。
「そうさ。月には国があって、僕はそこの王子をしている。僕の名前はトーヤ。
はじめまして、黒猫さん。」
そう言うと、彼は手を差し出した。いわゆる”握手”を求めているらしい。私はどうしようか
迷ったが、彼に手をつかまれ半ば無理やりの握手をした。
この時のトーヤの手は、とても温かかったのを今でも覚えている
「あなたが月から来たのなら、あなたは宇宙人?」私は聞いた。
「地球に住む君たちから見ればそうなるのかもね。だけど、月に住む僕達は君たちのことを
宇宙人だと呼んでいるよ。」
確かにそれは最もだ。
宇宙人とかいうのは、今はとりあえず深く考えないことにした。
「どうやって月から地球に?」と私が聞くと、彼は「そうだね、その話をしなくちゃね――」
と言って話し始めた。
「実は、君にとっては信じられない話かもしれないが、月と地球の間には、お互いの星をつなぐ
橋というものが存在するんだ。その橋は月の出る夜にしか現れない。」
「君は、そんな橋があることを知っていたかい?」彼は聞いた。
いいえ――、と言いながら私は首を横に振った。
「その橋は、どうやら僕ら、月に住む者にしか見えないらしい。だから地球の人達には夢の
ような話にしか聞こえないかもね。」と、彼は淡々と話した。
確かに、彼の話を聞いても夢のようにしか思えなかった。