第18話:〜冬〜 寒風に消ゑる声
「好き」な理由はわからない。
なぜこんなにも惹かれてしまうのか――
気がつけば私は、トーヤのことを考えない時など無い
くらいになっていた。頭の中は、とにかく彼でいっぱいで、
どうしようもなかった。
彼のことが好きで好きでたまらない・・・
誰かを愛することは、きっと簡単だろう。それなのに、自分の
愛した人に愛されることは、なぜこんなにも難しいのだろうか。
相変わらず胸の奥は悲鳴をあげそうなほど痛い。
なかなか月が出ず、トーヤに会えない日が続いている。
――トーヤ、あなたは今、何をしているの?――
――あの恋人と一緒なの?――
不思議なことに、心は悲しみに埋もれていても、トーヤを想う
気持ちは変わらず、それもまた切なかった。
このまま、どこかへ行ってしまおうかと考えた。私は野良猫、
いつだって行こうと思えば何処へでも好きな所へ行ける。
突然私がいなくなっても、迷惑がかかる者はいない・・・
トーヤの顔が浮かんだ――
もしも、突然私がいなくなったら、きっとトーヤは悲しいだろう。
それは嫌だ。それだけは嫌だ。
このまま彼に会えなくなるのは嫌だ・・・
久しぶりに月が出た。
「やぁ、やっぱり月がなかなか出ないものだね。」トーヤが言った。
何日かぶりにトーヤに会う。
「仕方がないわ。ここはそういうところだもの。」私は言った。
「そういえば、結婚式はしないの?」私は聞いた。
「式は挙げるよ。でも今はとても寒いから、暖かくなってからにしよう
って、彼女と決めたんだ。」彼は笑いながら言う。
そう――、と私は仕方ない気持ちで言った。
「良い天気になるといいわね。」
彼にとって最高に幸せな日は、そんな彼らを祝福するかのように、どうか
まぶしい陽が絶えなく照る陽気な日でありますように・・・
私はひとり祈った。
「そうだね。天気にもめぐまれるといいなぁ。」トーヤは言った。
「ねぇ、トーヤ?」私は言った。
「なんだい?」
「あのね・・・・・」
――私、あなたが好き――・・・
「いいえ、なんでもないわ。ごめんなさい。」
「なんだい、おかしな猫だなぁ、君は」トーヤはフフッと笑をこぼしながら
言った。
言えるはずなどなかった。
こんなにも、こんなにも近くに居るのに、どうしてこの想いは届かないのか。
それでも、こうして時々会って話をする。わずかな時間でしかないけれど、
もうそれだけで十分だった。
彼の傍にいられることが、何よりもの救いだった・・・