第17話:〜冬〜 後悔
これは決して叶わない恋・・・
レンの恋心は切なく、けれども美しい。そんな彼女に、またもや恋の神様から切ない仕打ちが与えられる。
冬になった。
何度も冬は経験しているのに、毎回訪れることに
やっぱり寒いと感じる。
トーヤと過ごす、二度目の冬・・・
これからもずっと、時々会える彼とこうしていくつ
もの季節を一緒に過ごしていけたらいい。
「やぁ、すっかり寒くなったね。」
冬になって最初の月の夜だった。
「えぇ、本当に。でもまだ雪が降るには早いみたい。」
「そうか、でもいずれは降るんだろう?楽しみは後に
とっておくさ。」とトーヤは言った。
またトーヤと一緒に雪が見れるのは嬉しかった。
「あのさ、レン。」トーヤが言った。
「何?」
「君にも、一応伝えておこうと思って・・・」
少しの沈黙があった。
「僕、結婚するんだ。」
鋭利な刃物のようなものが、自分の胸を刺しているような、
するどい痛みが走った。
――今、彼は何て言った?――
私は思わず耳を疑った。
「なかなか結婚しようって言えなくてね、でも、この前
君に話したおかげで勇気が出たんだ。それに、彼女も受けて
くれて本当に嬉しかったよ。」
幸せそうに笑うトーヤ。それは今まで私が見た中で、最も
嬉しそうに微笑む彼だった。
「すべて君のおかげさ。本当にありがとう、レン。」
「よかったわね。おめでとう・・・」私は言った。
そんな、心にもないことを言うなんて、トーヤにきっと
失礼だ。だけど、こう言うしかなかった。
仕方なかったことなのかもしれない。
トーヤは私の気持ちなど知らないのだし、知っていたとしても、
叶わない恋であることに変わりはない。
胸が張り裂けるように痛い。だけど私は平気なフリをした。
トーヤを困らせてしまうと思ったから。
「お相手は、あなたが前に話した恋人さん?」私は聞いた。
「うん。」トーヤは少し照れていた。
「そういえば、あなたは私に、その恋人に似ているって言って
いたわよね。どんなところが似ているの?」
「すべてさ。彼女の髪の色は、とても綺麗な黒色なんだ。君の
色と本当にそっくりなんだ。それに、魅力的で、優しくて、名前
さえもそっくりさ。」
名前?――、と私は聞いた。
「彼女も、『レン』という名前なんだ。」とトーヤは言った。
――レン――
トーヤが私につけてくれた名前。
名前のなかった私に初めて、彼はつけてくれた。
私は、トーヤと初めて逢った時のことを思い出した。
”黒髪の綺麗な知り合いがいる”とトーヤは言っていた。それは、
恋人のことだったのだ。
もしも、その時彼に恋人がいると気がついていたら、彼を好きには
なっていなかったかもしれないのに。
こんな想いも、しなかったかもしれないのに・・・
「あぁ、もう時間だ。それじゃあ僕はこれで。」トーヤは言った。
「えぇ。」
光り始めたトーヤの体。なんて綺麗なのだろか。
「トーヤ!!」私は叫んだ。
「幸せに・・・・」
優しい微笑みを返し、トーヤは光と共に消えていった。
トーヤが去ったあとの空き地は、いつもどおり、何事もなかったかの
ように静けさだけが広がっていた。
そこに漂う冬の冷たい風。まるで自分の気持ちを表現しているみたい。
涙が溢れそうなのを、私はグッとこらえていた。
――幸せに・・・――
悲しくて悲しくてたまらなかったはずなのに、そんなことをどうして
言ったのだろう。
何となく言いたかった。理由は本当にそれだけだった。
どうか幸せであって――
それは想いの届かない私の、最上級の祈りかもしれない。
冷たい風が私の体を横切る時、この悲しみも一緒に、どこかへ吹き
流れてしまえばいいのに、と、そう思った。